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【連載小説⑥】これからは、いつでもお茶とかできるんだ

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突然の訪問にも関わらず、ハルはいつもどおりに私を迎えてくれた。

私の行動力には驚いていたが、夫に気持ちがないことは以前から時々伝えてあった。

思い返すと結婚前からおかしな言動はあったこと。2年ほど前にそれが発達障害によるものであると気づいたこと。世間一般の専門家はこの障害でトラブルになっている夫婦に対して、本人が変わることはないという理由で別居か離婚をすすめていることを私はハルに話した。

診断を受けたわけではないが、私は夫が発達障害であることを疑っていなかった。気がつくまでは深く傷ついたこともあったけれど、気づいてからは喜びだけでなく、怒りや悲しみの感情も消えていった。

2人でいても1人でいるようだと思っていたが、私は最初から1人だったのだ。そのせいか別居に踏み切ったにもかかわらず、私には大きな変化を起こした実感がなかった。

「じゃあこれからはいつでもお茶とかできるんだ」。

私が傷ついていないことを確認してハルは言った。

ハルは私が新しいことを始めようとするとき、いつも私より先に未来図を広げてくれる人だった。「文章を書く仕事がしたい」と言ったとき、「昔から文章書くの好きだったよね」と、自分でさえ忘れていたことを覚えていてくれたのもハルだった。

そして今回も同じように「佐和なら大丈夫」と言った。いつも根拠は全くないのに、ハルが大丈夫だと言えば必ず大丈夫になった。ハルの言葉は今でも私にとってスタートの合図だった。

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