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【連載小説①】すれちがいと最後の食事

ごちそうさま、と夫は席を立った。

ランチに入ったレストランでオーダーから35分。私の前にはまだ何の皿も置かれていない。

恐らく、店の人は忘れているのだろう。夫はその間、自分の目の前に置かれた食事を一度として私とシェアすることも、連れの食事はまだかと尋ねることもなく食べ終えた。

同じことはこれまで何度もあった。無神経な夫に不満をぶつけたこともある。

けれど今の私に怒りはなかった。いつもと同じことが起こることを確認して、むしろスッキリしていた。

私は夫がトイレから戻るのを待たずに店の外に出た。

どうせ彼一人しか食べていない。自分の食事代を清算して帰ればいいだけだ。注文して待っていた私が咎められる理由はない。

どんな場面でも自分に非がないことを確実にしておきたい性格をうっとうしく思いながら、私は駐車場とは逆方向にあるバス停に向かって歩き始めた。

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