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香月恵介の光の絵画

香月恵介作品展について

3月に開催されたアートフェア東京2022では、香月の4mを超える作品を出展しました。この作品はモネの睡蓮をモチーフにした作品です。一定の距離で作品を見ると、モネの睡蓮そのものであるように見えます。ところが、この作品に近づくにつれて絵の細部の描かれ方がモネの作品と異なることが分かります。その体験は絵の鑑賞ではなくむしろテレビ画面に顔を近づけた時の体験に近いものです。

Le Bassin aux nymphéas, reflets verts 1920/26|香月恵介|2021-2022|H.2000 x W.4230 mm
「Le Bassin aux nymphéas, reflets verts 1920/26」の細部

この作品は、液晶ディスプレイのRGBの構造を絵具に置き換えたうえで作られています。RGBというのは実際には明るさの単位ですが、香月はそれを絵具の明度に置き換えています。細部を見ると、赤・緑・青の3列の絵具が並んでいるのが分かります。モチーフ自体はモネが描いている睡蓮ですが、離れて見ないとイメージが分からない。ブラウン管に顔を近づけたときのような感じはそのような作りになっているからです。香月はこの技法による作品を「Pixel Painting」と名付けました。
この4mの作品は香月がこれまで制作した作品の中で最大サイズの作品です。制作には約一年を要しました。アートフェア東京の会場では、多くのご来場の方々が足を止め彼の作品を鑑賞しました。

アートフェア終了後、会場では展示しきれなかった作品をギャラリーで展示しています。今回は新作・過去作を交え、「Pixel Painting」以外のシリーズも展示。香月の取り組みを包括的にご覧頂ける空間となりました。


モネが追求した光の絵画化を、現代的アプローチで受け継ぐ


香月恵介 Keisuke Katsuki
1991 福岡県生まれ
2014 東京造形大学 造形学部美術学科絵画専攻 卒業
2016 東京造形大学大学院 造形研究科美術専攻領域 修了

モネが自然の光を描こうとしたのに対し、香月はディスプレイ(モニター)の光を描こうとします。モネは刻々と変化する外光を絵画に、香月はあらゆるイメージを再現し私たちを現実から引き離すディスプレイの光を絵画に置き換える。描こうとする光に違いはありますが、技術メディアの発達による影響という点ではむしろ繋がっているように思います。印象派絵画の成り立ちは、写真の発明とチューブ式絵具の発達に深い関係があると言われています。同様に香月の「Pixel Painting」は、ディスプレイの存在以前には成立しない技法だということが言えると思います。

https://www.facebook.com/minnanog/videos/372917654724788

イメージは「閉じる」ですが、ギャラリーは13時からオープンしております。 香月恵介...

Posted by みんなのギャラリー Minnano Gallery on Thursday, April 7, 2022


ディスプレイの光を絵画に置き換えるために、香月は独自の技法をにたどり着きました。それが「Pixel Painting」で使われている技法です。
Pixel Paintingの制作ではまず、デジタル画像から256段階の明るさの数値を解析し、絵の設計図を作ります。数値を色に置き換えて絵具と紐づけ、設計図どおりに色を配置することで絵が完成するというシステムです。


モネの絵と思いきや近づいて見ると違うという特徴は、モネの絵自体にもある性質です。モネの絵画とディスプレイの類似性を香月は以下のように語っています。

私たちの見ているモニター画面は赤、緑、青の極小の点によって表示されており、網膜上で色彩が混ざりあい、色彩と形態を認識することができる。そしてモネら印象派の絵画は筆触分割によって異なる色彩を並置し、同様に色彩をコントロールしてきた。

Les Nymphéas|香月恵介
https://www.keisukekatsuki.com/image-in-the-light-1

また、モネの睡蓮はその描かれる対象とともに絵画という媒体に対しても自覚的な態度を持っていたように思う。モネの睡蓮は荒々しい筆触により絵具の物質性が見える瞬間がある。それは物としての絵画が見える瞬間でもあり、絵画の外にある光を意識することでもある。
そしてそれは本来的にはモネの描いた風景とは関係のないものの筈だが、いまや実体を持たないイメージばかりを目にしている私たちは物の表面に自覚的にならざるを得ないだろう。モニターの画面が極めて平滑なのは像の認識を阻害しないためであり、ガラスの割れたスマートフォンで画面の向こう側を見ることが困難になるように、絵画表面を見ようとすればたちまち像は消失するのだ。

Les Nymphéas|香月恵介
https://www.keisukekatsuki.com/image-in-the-light-1


媒体の物質性が際立つ瞬間は、私たちもよく体験していることだと思います(例えば、スマホのオン・オフ)。とはいえ、普段そのことを強く意識することはほとんどないと思います。

香月の作品は、私は一体何を見ているのか?、という認識を常に揺さぶってきます。その影響によってか、それ以降、視覚の曖昧さにより自覚的になるように思います。ある意味で、視野が拡がるというのでしょうか。

ただ、この記事に掲載している画像では、ディスプレイを通じてご覧頂いている以上、実はこの感覚はあまり伝わらないのではないかと思います。
つまり、極小な光の点:ピクセルを絵画というものに置き換えた状態とリアルに対面することで得られる感覚なのかなと思います。

というわけで、最後はなんだか会場に誘導するような書き方になってしまいましたが…
デジタルの仕組みを絵画に転用し、私たちの認識を揺さぶる香月の作品を起点に、現代の都市生活の変化やあり方など、ぜひ皆さまとともに意見を交わすことができればと思っております。

お近くの際はぜひお気軽にお立ち寄り頂けますと幸いです。


展示概要


香月恵介 作品展

開催中~5月9日(月)
13:00-19:00 ※最終日は17時まで
休廊日:火・水曜

東京都台東区東上野4-14-3 2F

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