見出し画像

現役世代のがんと住環境整備 〜病院から家に戻るときに使える仕組み


日本の介護保険は、原則65歳以上にならないと利用はできない仕組みになっているが(保険料を支払っていながらも!)、例外として「特定疾病」になると介護認定が受けられる、つまり使える。


2006(H18)年4月から、がんもその中に位置付けられているのだが、その後ろの括弧書きが悩ましい。

その中身は、こうである。

がん(医師が一般に認められている医学的知見に基づき回復の見込みがない状態に至ったと判断したものに限る。

 

つまり積極的な治療が困難となった、いわゆる末期がんと呼ばれる状態になると、第2号被保険者(40~64歳まで)でも介護保険の認定が受けられるのだ。
ちなみにこの線引き、抗がん剤などの治療中だと、まだ回復の見込みがあるからやっていることになるので、65歳未満だと同じがんでも介護保険が使えないということも起こる。

副作用で体力が低下して何かしらの支援が欲しい状態になっていても、そこで使える使えないの境目ができてしまう、悩ましい法令でもある。


ただ、我々の立場からすると、この相談は身が引き締まるものがある。
最後の時を住み慣れた家で過ごしたいと望んだ、比較的若い方が利用者となる仕事だからだ。


介護というのは、育児と違ってどのくらい続くか見えない、というのはよく語られる介護の辛さ話なのだが、この仕事はいわゆるターミナル(看取り)確定なのが、年齢と病気で察せられてしまう。そして細胞分裂が活発な若い方だけはあり、他の介護のケースと違い、とにかくニーズが短期になりがちなのである。

そして意外に、その退院タイミングだと辛い抗がん剤治療もなくなったばかりで、まだ体力もあり動ける方も多い。

なので、普段の仕事と同じように、その人のその時の身体状況に合わせて環境を整えるだけでは、あまり役に立たない。
その後に来る体力の低下に伴い、すぐに手すりやその他の福祉用具を追加して欲しいという要望につながる。

なので、介護保険におけるがんのケースでは、最初の認定の見込みが要支援1・2、もしくは要介護1であっても、医師の「がん末期の急速な状態悪化が見込まれる」などの所見を、ケアマネージャーが居宅介護サービス計画(ケアプランですね)に書き込むことで、原則要介護2以上の方が使える用具(介護ベッドや車いすなど)についても、特例給付として借りることができる。根拠はこちら。

末期がん等の方への福祉用具貸与の取扱等について
事務連絡 平成22年10月25日
https://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/nintei/dl/terminal-cancer_2.pdf

 

我々のような工事を伴う住宅改修組も、このようながんのケースで手すりの要望があったときには、まず福祉用具の手すりをお勧めする。仕事にはならないけど。

なぜなら住宅改修は、取り付けに事前の申請が必要だから、いちばん欲しいタイミングである退院直後には、えてして間に合わないからである。また、状態の変化に合わせて増やすことも、福祉用具なら容易であるし。

ここらへんの製品群ですね

候補になるのは、貸与品だと上がり框用、置き型、トイレ用、突っ張り型。
それに特定福祉用具(販売品)として浴槽縁に取り付けるグリップなど。
シャワーチェアもよく使われます。場合によってはポータブルトイレも。

これらなら、相談の翌日にはある程度の手配が可能な体制になっていると思います。浴槽グリップは試用品がまず入るかと思いますが。


でも、建物の状況などで、欲しいところにそれらが設置できないケースもある。

そういったときには、我々の住宅改修の出番になるが、ここは反射的に動かねばばならぬ。福祉用具でカバーできない部分の住宅改修をまとめ、見積をダッシュで作成し、ご了解をいただいて事前申請を行う。そしてその窓口で、この伝家の宝刀を抜くのである。

末期がん等の方への要介護認定等における留意事項について
事務連絡 平成22年4月30日
https://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/nintei/dl/terminal-cancer_1.pdf

 
厚労省公式のイメージです


基本的に、住宅改修の事前申請は、申し込んだ順番に処理される。だが、こういったがんのケースだけは、優先的に処理することが厚生労働省よりきちんと知らされている。なので、これでお願いしますと伝えると、他の方の審査をジャンプして、割に早く確認を出してくれる。

こちらは、その最短日程を睨んで予定を空けておき、できるだけ早く工事に入る準備を行っておく。こちらだと通常2、3週間かかる申請期間が、郵便配送のタイムラグ含め、およそ1週間で出ているので、まだ利用者さんが使えるタイミングで設置ができる。
こちらも他の方の工事予定をジャンプしちゃう事はありますが、これは致し方ない、すみません。

また一時期、これは居宅サービス計画書などに「末期がん」と記入しなければいけない縛りと受けとられてしまったこともあるようで、厚労省は書き方にその縛りがないことを通知している。
要は、第2号被保険者かつがんの方は、それだけでそういった状態であることが決まっていますからね。

居宅サービス計画書は利用者さん本人にも見せるものなので、そこはすごく大切な配慮だと思います。うっすらわかっていても、現実をいちいち突きつけられたくはないですよね。

がん患者に係る要介護認定等の申請に当たっての特定疾病の記載等について
事務連絡 平成 31年2月19 日
https://www.mhlw.go.jp/content/000480885.pdf

 

もしお身内やお知り合いがそんな状況になったとき、一日でも早く使えたほうがいい介護保険のサービスはたくさんあります。こういった住まいの環境整備は、介護負担を減らす上でも大切になるかと思いますので、可能ならご検討いただければ。


なお、本年5月にも最新情報の形で厚生労働省より、あらためて周知が図られた話でもあります。
そういったがんには介護保険も意外と融通が利くのだぞと、皆様の記憶に留めておいていただけると、どこかで役に立つことがあるかと思うのでした。

がん等の方に対する速やかな 介護サービスの提供について
介護保険最新情報 Vol.1266  令和6年5月31日
https://www.wam.go.jp/gyoseiShiryou-files/documents/2024/0603093941353/ksvol.1266.pdf

 





この記事、すごく役に立った!などのとき、頂けたら感謝です。note運営さんへのお礼、そして図書費に充てさせていただきます。