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そのニーズ、歪められてません? ~「AIスーツケース」欲しいものとできつつあるもの


トップ画像、一昨年に吹田スタジアムに行ったついでに、こいつを夢中でたくさん撮ったのに、データが飛んだので借り物なのが悲しい。なお国立民族学博物館も大変に面白かったです。
そして、そっちじゃないというツッコミはなしでお願いします。


さて、自分が行かない事は確定しているのだが、新しい方の大阪万博のニュースは野次馬的に面白いのでチラ見している。

そんな中、このようなニュースがあった。


視覚障害の方向けのナビゲーションロボット、これは確かにあってもいいと思うのだが、大阪万博って混雑が前提じゃないのかなという疑問がまず浮かぶ。

そこで、ざっくり調べると半年の来訪(動員?)予定が2700万人程度、平均すると、半年の会期で1日15万人ぐらいか。それを運ぶ主要な公共交通機関は大阪メトロ中央線、これは去年海遊館に行った時に乗ったな。
調べたら6両編成しか走れないので1両で200人、1編成で1200人運べるとして、1時間に20本で片道24,000人/h、6時間で全員運べる計算か。バスルートもあるから、まあ平日なら何とかなるだろうけど、休日は大変だろうな。
などと考えつつ、そんなに混雑したところに、あえて目が見えない方が自らの足でそこを歩いて訪れたいだろうか、と考えるのだ。

自分なら絶対に嫌である、余計なトラブルの匂いしかしない。


そもそも、視力障害を持っている方が万博に行く目的は、そこの展示を聞き、触れることであろうから、必ずしも歩く必要は無いわけだ。

ならば、空飛ぶ椅子をつくりましょう、とまでは言わないが、何らかのスマートモビリティーを利用すれば良いだけではないか。
例えば以前に取り上げたWHILLなら、既に衝突回避機能や乗り捨て回収機能付きの自動運転モデルが、羽田空港ほかで絶賛稼働中である。なので、例えばスマホの音声入力で目的地まで移動できるようなプログラミングは可能だろうし、それで充分じゃないのかな、と。

これに自動運転機能が載せられます


また、歩きたいニーズがあるとして、それなら鉢合わせ事故の起きにくい、先導タイプのロボが良いのではないか。
そんなロボなら、そこらのファミレスにいる猫型配膳ロボを活用するのが早そうだ。アレも衝突回避機能はちゃんとしているし、なにより荷物も詰めるように改良するのも余裕である。

なので、なんでそんなにスーツケーツの形状にこだわっているのか、謎なのである。というわけで掘ってみるか。

そもそも、これってどういう経緯で出てきたものだろう?と調べたところ、その開発の話が出てきた。何でも視力障害のある、IBMの元技術者さんの、浅川 智恵子 氏(現日本科学未来館 館長)が考えたことが始まりらしい。

 浅川氏はAIスーツケースを開発するに至った経緯について、「一人で出張することが多く、空港でスーツケースと白杖の両方を持って歩くことが大変だったので、スーツケースを白杖のように前に押して歩いてみたら、スーツケースが先に壁にぶつかり、段差も軽く落ちてくれることに気付きこれは便利だと思った。この経験を通して、スーツケースにセンサーやAI、ロボットを搭載することで、スーツケースが私たちの新たな旅のお供になってくれると考えた」と話す。

 

自分も歩行器が前方センサーのように使われる場面は現場で見ているので、これはわかる。白杖の物理的な役割を、身体の前方にある車輪は果たせる。
どうせなら、そこにセンサー類を実装したらもっと役に立つスーツケースになるのではという思考も、よく分かる。

じゃ、日本科学未来館の、そのサイトを見てみよう。

「AIスーツケース」は、視覚障害者の移動を支援する自律型ナビゲーションロボットです。見た目はスーツケースですが、内部にコンピューターやセンサー、モーターなどが組み込まれており、人や障害物を避けながら、目的地まで安全にユーザーを案内することができます。未来館アクセシビリティラボで、パートナーの企業や大学などと協力しながら研究開発を進めています。

 

???
ちょっと待った。

スーツケースにいろいろ実装したのではなくて、スーツケース型ロボなの?事実上の盲導犬置き換えロボになっているぞ。

彼女が欲しかったのは、あくまでも旅行に必須のスーツケースに実装されたそれだと思うのだが、この仕様だと彼女が海外出張に行くとき、必要なものはスーツケースと、このスーツケース型ロボの2つ転がしになってしまう。そう考えるとなかなか大変である。
ま、小型化して将来はスーツケースに組み込む想定である、ということかも知れないが。

もし、そうではないとしたら、この形は実は歩行支援としては不利である。介護保険でも、歩行器の中に体側保持の歩行器はあるが(サイドケイン)、車輪型は認められていない、はず。

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この違いは、側方に体重をかけたときに何が起こるか想像してみればわかる。スーツケース型は、車輪タイプだと動いてしまうし、仮にブレーキロックがかかったとしても、重心の高さの問題で転倒してしまう可能性が捨てきれないのです。なので、介護保険では歩行の安定をはかるための歩行器と認められない。この形状に、歩行の安全を図る機能はないということになる。

なので、スーツケースに実装するという本来の目的を外れたこの機器が、未だにスーツケース型でありつづける理由が正直わからない。惰性かしら。

こういう製品開発って、その出来上がるものの目的をきちっとコントロールしないと、多くの業者さんに協力を仰いだ場合はそれぞれの業者さんの活躍の場を作る必要が出てきて、狂ったものになりがちなのだ。取るだけではダメで、捨てる場面が必ず出てくる。なので高い目標を置き、それをコントロールできる人間が必要になる。でもこれ、どうもそうなってないような印象を受ける。

浅川さん、果たしてそのポジションに居るのかしら。と思って、その開発を担っているところを調べてみたら、

船頭さんは4社さんでした

ですよね~、という感想しかない。
浅川さんは特別会員、という扱いで入っていらっしゃいましたが。
こうなってくると、公的なお金が入っていないことを祈りたいところです。



自分なら、歩行にこだわって、その目的を果たす何らかの装置を考えるなら、既存のスーツケースを横に装着できる、動力とセンサー付きの4輪歩行器(折りたたみ可能)が良いのではと思う。AI機能はスマホ実装でBluetooth連携でいい、コスト低減になるしね。そしてこれなら支持基底面をきっちり増やすし、進行方向を他人からガードする、柵の役割も果たす。視力障害のある方は、元気に歩ける若い方だけではないのだから、歩行器ベースのほうが活躍の場は多いのではないか。空港や観光地で、これを貸し出せるようにすると、結構重宝するのでは。

ただ、格好が悪いと思う人はいると思う。年寄り臭いとか。
OPALという4輪歩行器を生んだ歩行器の先進国、デンマークでも、かつてはそういう雰囲気だったそうなのだが、

OPAL、数年前に廃盤になっちゃったのですけどね

これを、当時のデンマークの皇太后様がさっそうとお使いになる姿がテレビで流れ、ようやく流行りだしたという話を研修で伺った記憶がある。
どこの国も、先入観を破壊しないとなかなか新しいものは普及しないのだ。

なのでそこら辺は、デザインの力を示す仕事の領域になると思う。建築業界の皆様も、変な輪っかばかりやってないで、こういう方向で活躍される方も出てくるといいのに、と思ったりするのであった。


明日は、とある介護ロボットの栄枯盛衰(すでに?!)について書きます。
たぶん、この話と同じ根っこで、結果が出てしまったというケースです。


おまけ


イッツ・ア大阪ジョークなの?

AIスーツケース利用イメージ

このイメージ画、この車いすはないだろ。太陽の塔の頃のデザインよね。



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