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すべての人の移動を楽しくスマートにする ~近距離モビリティWHILLのはなし


出会いは、2015年の国際福祉機器展(HCR)だったか。


WHILL Model A


https://whill.inc/jp/wp-content/themes/whill-jp/pdf/whill_model_a_catalog.pdf

あらためて見るとカニっぽさがあります

明らかに他の電動車いすと異なる、ガチのデザイナーが手掛けていることがひと目見てわかるそれを見た時、またデザイン優先のカッコイイ系のものが出来たかな、と一瞬思ったことを告白せざるを得ない。モーターショーにおける、コンセプトカーみたいな存在だろうな、と。伺うと、社長さんが元日産のデザイナーだったとのこと。なるほど。
ただ、そのブランドにつけられたWHILLという名前をみて、その真剣さを感じた。WHEEL(車輪)+WILL(意志)という意味だからね。

なので、ガチな会社さんにはガチで使えないところなどがあれば伝えることで、その後の改良にお役立てくださいという気持ちで、その近未来デザインの乗り物に乗せてもらった。たとえば移乗性はどうなんだろうね、というちょっと意地悪な目線で。

車いすとベッド等の乗り移りに関しては、とにかく側方からそれが出来る工夫がされているかどうか、が重要になる。特に、乗車中は欠かせないアームレストが移乗時は妨げになるので、それを外したり、跳ね上げたりする機能が必要になる。
そしてその配慮について尋ねたところ、あっさりとアームレストとなっている斜めの腕がきちんと跳ね上がること、またそれを補完するようにシートそのものも前に移動することを教わった。

こっちの邪な思惑など吹っ飛ばす勢いで、しっかり基本をクリアされていたことでますます興味が湧いた。ガチの本気(マジ)だこれ。
座面高さやバックサポート、フットサポートの調整も可能。見た目と裏腹に、しっかり個別の身体にフィッティングできるし。

シートに横アプローチ出来る工夫がちゃんとある

そして、不思議なかたちの前輪についても質問した。
オムニホイールという、全方位タイヤである。その質問で、これは普通の電動車いすと全く違う操舵をしていることが明らかになる。

真横にも転がれる不思議なホイール

このオムニホイール、ビーズを通したブレスレットを想像してほしい。そしてその大きい輪を前に転がすこともできれば、そっち方向へは静止しつつ、真横にスライドも可能になっているのだ。これ、産業用車両向けの既製品はあったそうだが、乗り心地が悪いという欠点があったとのこと。
それを克服するために、24個の小さなタイヤが隙間なく、全体できれいな円を描くようにそのビーズに相当する部分の形を改善して密に配置し、正面方向への転がり時の乗り心地をしっかり確保できる新型のそれを開発された。
かくして、車いすの前輪は首を振るものという固定観念からWHILLは自由になり、広く丈夫なフットサポートを得たのである。
そして、4輪駆動の車輪を左右別々に繊細に制御することで、方向を操作できるようにしつつ、当時としては驚きの7.5cmの段差クリアができるようになっていた。

車輪と乗り越えられる段差の関係は、車いすのキャスター(前輪)等の場合、直径の1/4が目安だと言われている。だから大径のもののほうが段差には強い。このオムニホイールはおおよそ20cm程度の直径なので、順当なら5cmが限界になるところ、オムニホイールに刻まれた溝と、4輪駆動による押しつけ制御ができたことで、それ以上の段差を安全に登れるようになっていたのだと思われる。
パンフレットには、畑みたいなところで使われているお客様の声とにっこり画像もあったので、結構な悪路走破性があったようだ。

また、この機種からすでにBluetooth接続が可能となっており、スマートフォンにより設定操作や、遠隔操作も出来るようになっていた。今思えば、今後の展開のためにこれは必須の機能だったのだなとわかる。
満充電での走行距離は約20km、重量はなんと116kg

また、金額は100万円弱、介護保険が使える見込みもまだない様子だったので、言い方は厳しいが富裕層向け高級機としてなんとか会社を繋いでいってほしい、と思ったのを覚えている。

ところが。

2017年4月、新発売の製品が福祉用具貸与品として、テクノエイド協会のTAISコードに登録されたのだ。介護保険でレンタルできるのかこれ。

WHILL Model C

こちらは後輪駆動で分解可能

たまたま、実母が病気の治療で外出用に電動車いすが必要となり、でも格好悪いのには乗りたくない!との希望を踏まえ、このタイプCを介護保険にてレンタルした際に撮っていたのがヘッダーの画像です。

満充電での走行距離は約16km、重量は52kg。価格も約50万円
介護保険外でのレンタルも、15,000円/月程度で可能。介護保険だとおおよそ270点、1割負担で2,700円/月くらいに落ち着いているみたいです。

一気にAタイプの半分以下の重量と価格に。4輪駆動をやめて、後輪駆動にしたことが軽量化に役立っている。段差の乗り越えは5cmまでと、ちょっと厳しくなったけど。ただ、国内の市街地の歩道などで、バリアフリー法(2006年施行)による改良が進んでいることがこの仕様を後押ししたのだと思う。

なにより一般的な電動車いすよりむしろ軽く、海外製の電動車いすより安いくらいに仕上げてきている。競争力つけてきました。

そして、他のものにない特徴として、3分割して車のトランク等に載せられるパッケージングを採用している。

実はこれ、実家の父が、母と出かけたときに試したとのこと。でも、メインのユニットが30kgぐらいあるそうで、持ち上げにたいそう苦労したらしく、二度とやらなかった。脊椎がやられなくてよかった、とも言える。出来るとやれるは違うよな、という話に落ち着いた。

改良が入ったけど見た目はほぼ一緒

2020年9月には改良型のC2が登場。新たにリアサスペンションが付いて乗り心地が良くなった。また、肘掛けの跳ね上げが小さかった旧製品に対して、しっかりと跳ね上げが出来るようになって移乗性が上がったり、コントローラー形状やバッテリー、リアテールランプなどに細かい改良が施されている。そして実は、次の製品との共用部品も増えていて、量産コスト効果を追求した改良でもあることがわかる。

2021年11月、それが登場した。

WHILL Model F

折り畳めるよ


WHILL モデルFである。

folding(フォールディング:たたむ)のFかな。
満充電での走行距離は約20km、重量は27kg。価格も約27万円。またしても先行機から重量半分価格半分をおおよそ達成している。
タイプAを2022年春に国内販売終了としたことで、タイプC2が高級機、タイプFが簡易機という棲み分けができてます。

これの特徴は、とにかく折りたたみが可能なこと。車の後席にも置ける。バッテリーを外せば24kgになるので、現実的に女性でも持ち上げ可能な重量になる。
なので、車いすが必須でない方でも、長距離の歩行はしんどいなどの理由で使いたいという時にぴったりの製品になっている。

そのかわり、WHILLの特徴として知られていたオムニホイールをやめた。車輪径も15cmくらいになっており、通常のキャスター前輪なので乗り越え高さは3.5cmとなっている。バリアフリー法で整備された街中での利用を想定していると言ったところか。

このメーカーの、製品の目的に対する割り切り力は、凄みがある。あれだけ苦労して獲得した新技術を、目的達成のためには使わないと判断できる。
月並みな例えではあるが、ジョブスとアイブのコンビだった頃のアップルっぽい。彼らが居なくなったアップルは今やトンデモ動画を撒き散らす、信念を忘れた会社になってしまったが。

そして、こちらの製品はTAISコード未取得、介護保険における電動車いすではありません。つまり介護保険でのレンタルは不可。
そのあたりの考察は、先にこちらに書きました。


でも、自費レンタルは充実していて、旅行目的で、短期間借りるためのパッケージなどもある。
配送込みで1万円/日程度なので、父母孝行に旅行でも、と考えている方にも良いのではないだろうか。


そしてWHILLは2022年9月、こんな製品をラインナップに組み入れた。

WHILL Model S

すっきりデザイン

いわゆるシニアカー、電動カートである。そこにデザインと性能と価格で殴り込んだ。満充電での走行距離は約33km、重量は67kg。価格は約26万円

こちらの方には他社製品との比較があるので、興味がある方はご参照あれ。
性能比較もさることながら、そこにあるマトリクスが微笑ましい。シニア向け←→若々しい、の右側に全振りで入っている。要はそれが売りですね。
身体の衰えをデバイスでカバーし、それを感じなくても暮らせるようにするのが、そもそもユニバーサルデザインの仕事ですから。

ただ、このSタイプはちゃんとTAISコードを取得し、介護保険にも対応しているのだが、現在貸与品として出荷はしていないとのこと。
主に、自動車販売店と契約して、高齢の方が運転免許を返上したときの、次に使うモビリティとしてセールスをしている模様です。なので、最近は福祉機器展ではなく、昔は日本モーターショーと呼ばれた、ジャパンモビリティショーに積極的に出展されている。そもそも、2011年のモーターショーでのブース展示がこの会社の始まりだったそうな。

ここまで、WHILL各製品を概観して、あくまでも表面的に、そのハード面の特徴と進化を見てきました。でも並べてみると、この10年余りの間に、社会の側にもいろいろな変化があったことが察せられるのが面白い。


なお表題のフレーズは、WHILL社のミッションとして掲げられているもの。
すべての人を目指すデザインと評される、ユニバーサルデザインのど真ん中で明快です。

ウェブサイトを拝見していると、その起業の歴史なども面白く。そのうち、その理念やソフト面やらについても、あくまで野次馬目線でまとめようと思います。

ちなみにこれ、ただの勝手に推し活ですからね?

noteにも公式コミュニティ、ありました。


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