見出し画像

ロシアバーニャについて語ります

こんにちは!ロシアサウナ(バーニャ)文化を日本に広める活動をしているネバーニャです。

みなさんロシア式のサウナ、バーニャはご存知でしょうか?
一度体験したことがある方はきっと忘れられない思い出になっているはずです。

この記事では2014年に、生まれて初めてロシアのバーニャ(баня)に挑戦した時の体験談、ロシアのバーニャ文化、ウィスキング、日本での活動について、みなさんに共有いたします。

ロシア人の多くは郊外にダーチャ(дача)という別荘を持っています。夏は家庭菜園を行って、夏休みをダーチャでゆっくりと過ごすことが多いです。これは食料がそれほど豊富ではなかったソ連時代に、自給自足を促すために政府から各家庭に割り与えられたと言われています。

バーニャもそのようなダーチャのある郊外に、一戸建ての小屋として立っている場合が多いです。または都市圏には公衆バーニャというものも存在します。モスクワにはサンドゥニ(Сандуны)を代表としたロシア帝政時代(100年以上前)からある伝統公衆サウナもあります。

僕がロシア人の友人に連れられて初めて訪れたバーニャは、1年間会社のロシア語研修生として過ごした西シベリアのオムスク市から約 3 時間電車で郊外に進んだところにある典型的なシベリアの田舎町にありました。水平線に果てしない雪原が広がり、集落には農家や畜産家がのどかに暮らしています。友人の祖父母は退職後、この田舎に引っ越し、家庭菜園で半自給自足しながら年金生活を送っています。

友達の言葉を借りると、「本当のバーニャは、準備からがバーニャ」です。
たとえるなら、バーベキューであれば、肉を焼いて食べるだけではなく、食材調達、場所取り、火起こし、この全てのプロセスをみんなで手分けしてワイワイ進めるのも、バーベキューの醍醐味であるということです。
大前提として、この田舎のバーニャは雪原にポツンと小屋が建っているだけです。水道が通っていません。バーニャは暖炉に水をかけることで暑い水蒸気を発生させて、サウナ入浴を楽しむものです。その水がこのバーニャ小屋には無いのです。

これが私がトライしたシベリアのバーニャ小屋です。

画像1

私の初体験バーニャ小屋

近所の井戸から凍っていない井戸水を大きなバケツで組み上げます。この時、外はマイナス20度くらいでしたが、井戸水はかろうじて凍っていません。

今度は井戸水が入ったバケツを雪上ソリ(サンキ/санки)で小屋まで運びます。雪道をソリを引いて歩くだけで、「俺はシベリアにいる!」っていう実感が込み上げて来ます。

ようやく運び込んだバケツの水を、バーニャの中のタンクに流し込みます。タンクがいっぱいになるまで、井戸とバーニャを何回か往復します。どれだけ外が寒くても、あったかい格好で、体を動かしていればほどよく汗をかいてきます。ようやく、タンクの水が十分に溜まってきました。

水以外にバーニャに必要なものは何でしょうか?そうです、薪です。

画像2

今度は、祖父母の家のガレージに保管された燃料用の薪を準備します。ロシアのシベリアには白樺(ベリョーザ/белёза)がいっぱい生えています。日本でも長野や北海道などの少し寒い地域に良く生えていますよね。この白樺がとっても美しく、良く燃えて、良い匂いを放つんです。シベリアで暮らす人々にとって白樺は欠かせないものです。


白樺の薪を斧で割ります。雪原の中で、両手で斧を振り下ろすというのも都会ではなかなか出来ない体験でしょう。最初は難しいですが、やっているうちにだんだんとコツが分かり、慣れてきます。
適当なサイズに割った薪を小屋に運び入れます。暖炉に火を付けて、バーニャが温まるまで小一時間待機します。ロシア人の友人は、「バーニャを準備して、焚き上がるのをワクワクしながら待つのもバーニャの楽しみの一つだ」と嬉しそうに言っていました。


バーニャの構造
バーニャ小屋は外から入ると、最初に待機用の部屋があります。ここはちょうどいい温室(+25度くらい)になっており、着替えたり、バーニャの合間に休憩、団らんする空間になっています。待機用の部屋からさらに内部のドアを開けると、バーニャ入浴用の部屋に繋がっています。また、ここから薪を入れて、入浴室を温めていきます。

画像3


下の写真が入浴室の内部です。

画像4

右に見えるのがストーブと水のタンク。タンクは温められることでお湯が出てきます。そのお湯をローリュ(ストーブにかけて蒸気を発生させること)に使ったり、体を洗ったりするのに使います。

左には横になれる木の台があります。枝葉(ヴェーニク)、タンクの水で体を洗うためのグッズが揃っています。


バーニャが十分に温まった後、入浴室のタンクからひしゃくで暖炉に水を掛けます。ジュワーーーっという良い音を立てて、水蒸気を発生させます。この音がたまりません。

水をかければかけるほど室内の湿度がどんどん高まっています。
体感温度とは、室温と湿度の足し算と言われています。温度はそれほど高くなくても、湿度が高いので、肌を熱気がムワッと包みます。そして、ヴェーニクでマッサージしていきます。


日本に広く普及しているサウナはドライサウナ(乾式サウナ)という分類で、室温80-100度と高いですが、湿度は10-15度と低めです。一方で、ロシアのバーニャは蒸気式サウナで、室温40-70度と低めですが、湿度は30-50度と高めになっています。私は日本のサウナもよく入りますが、乾いた空気より、ロシアバーニャの湿った空気の方が肌に気持ちいいです。


日本のサウナが苦手という人も、ロシアの優しいバーニャに経験すると好きになる人も多いです。最近、日本でよく人気が出てきたいわゆる「フィンランド式サウナ」と呼ばれるものにも近いですが、本格的なバーニャはさらにそれよりもマイルドなセッティングです。

ロシアバーニャにおけるもう1つの忘れがたい体験が木の枝葉(ヴェーニク・веник)によるマッサージです。「ウィスキング」とも言われています。

画像5

写真ではオーク(ドゥボーヴィ・ヴェーニク/дубовый веник)を使っていますが、白樺を使うこともあります。

まずはこの枝葉を水にしっかりと浸して、水分を含ませます。入浴室内に充満する水蒸気を枝葉にたっぷりと含ませた上で、全身をバシバシと軽く叩いてマッサージします。葉に付いた水滴とまとわりつく蒸気が、木の葉の香りと相まって、とても良い香りがします。しっかりと整ったバーニャで、ヴェーニクの匂いを嗅ぐだけで、森と一体になった感覚になります。

画像6

体を叩いていると大変心地良い刺激です。ヴェーニクによるマッサージは、血行が良くなって、健康に良いと言われています。

ロシア語で蒸気は「пар/パル」で、バーニャに入ることを「париться/パーリッツァ」と言います。文字通り、この蒸気を浴びるという表現がしっくりきます。
「パーリッツァするなよ(Не паришься/ニーパリシスィア)」は「焦るなよ」という意味になります。焦りすぎて、汗だくになるなよ、みたいなニュアンスです。

また、バーニャから上がった人にかけるロシア語のフレーズがあります。
「С лёгким паром!/ス リョーフキム パラム!」とは、「爽やかな蒸気が得られておめでとう!」という意味です。こんなフレーズ、他の国にはなかなか無いと思います。同名のソ連コメディ映画があるくらいです。

画像7

画像8

この映画ではバーニャの後にお酒を飲み過ぎたところから、ストーリーが始まるので健康とは程遠いのですが(笑)


ともかく、バーニャでロシア人に「С лёгким паром!/ス リョーフキム パラム!」と言われたら、「Спасибо!/スパシーバ」(ありがとう)で返します。

全身が十分に温まり、出たくなったら入浴室を出ます。水風呂があれば水風呂に入り、無ければ屋外に出て、そのまま雪の中に飛び込むなどして体を冷やします。水風呂が無かったので、私は雪に飛び込みました。

外はマイナス20 度でしたが、全身がほてっているので、心地よい涼しさと感じられます。普段なら極寒で陰鬱なシベリアの大地に見えなくもない景色が、この時は心なしか雪に包まれたシベリアの田舎町がいつもよりとても美しく見えました。

画像9

ただし、外での長居はご法度。この時、ロシア人の友人5人とバーニャに入っていたのですが、 5人全員が「風邪引くからすぐに中に入れ」と繰り返し大声を上げていました。年下の若者なのに、お母さんみたいなことを言ってきます。

ロシア(特にシベリア)ではよく、冬に帽子を被らずに外を歩くと、道端で見ず知らずに年配の女性に「帽子をかぶりなさい」と注意されることがあります。このロシア人の良い意味でのおせっかいさ、世話焼きな面が、20 代の若者にもしっかり浸透しているのを感じました。
そして、待機用の部屋でお茶やビールを飲みながら談笑します。バーニャ体験を共有した仲間とは話が弾み、距離が縮まります。

ちなみに、日本では「ロシア人はサウナでウォッカを飲む」と間違った情報が流れることがあり、私はその度にもどかしい気持ちになります。アルコールとサウナは相性が悪いです。中には飲む人もいますが、本当のバーニャ好きは入浴中にウォッカは飲みません。あくまで入浴の合間には水やお茶を飲んで、アルコールといってもビールを飲むくらいです。合間にビールのつまみを食べることのできる公衆バーニャもたくさんあります。

画像10

ただし、バーニャのプロ、ウィスキングマスターが用意するバーニャではアルコール厳禁という場合もあります。入浴するだけでも心拍数が上がって心臓にはほどよい負荷をかけている状態ですが、アルコールによって余計な負担が心臓にかかってしまいます。本当に気持ちの良いバーニャであれば、本来はビールも酒も特に要らないのです。

そんな感じで待機室でしばらく休んだ後に、また入浴室に入るというのを数回繰り返します。回数を重ねるにつれて、暖炉に水を掛けながら、入浴室の体感気温を徐々に上げていきます。

バーニャの暑さと、外の寒さのコントラスト、そして内気浴のリラックスによって、交感神経と副交感神経を司る自律神経が整います。入浴後には全身がリラックスして、体が軽くなったような感覚に包まれます。いわゆる、「ととのった」という状態です。
この一連の流れを通じて、リラックスした状態でバーニャ体験を共有して、心を開いて話すというのがロシア人において大事な時間であることを肌で理解できます。

ロシアの政治家が、別荘のダーチャやバーニャで重要な話し合いをするというのもよくある話です。プーチン大統領もダーチャとバーニャを持っています。


ロシア人は笑わない?

画像11


ロシア人は他の外国の人から怖いというイメージを持たれがちです。
その大きな理由はロシア人は初対面であまり笑顔を見せないことにあります。最近でこそ、欧米式の接客マナーが身についてきたので、笑顔のロシア人が増えていきましたが、それでも欧米に比べると仏頂面が多いと感じることが多いと思います。

これには理由があります。ロシア語のことわざに、”Смех без причины – признак дурачины/スメフ ベズ プリチーヌィ プリーズナク ドゥラチーヌィ.”「理由の無い笑いは、バカの証拠である」というフレーズがあります。初対面のかしこまった場では、不用意に笑わないというのが相手に対するマナーでもあるのです。

一方で、ロシア人は一度友達(друг/ドゥルーク)として仲良くなると、とことんフレンドリーで、実はユーモアのセンスのある人が多いです。絶え間なく冗談を言っていて、何が冗談で、何が本当か分からなくなるくらいです。また、友達には情に厚く信頼できる仲間になるというメンタリティを持っています。

ビジネスの世界でも、オフィスでスーツを着てかしこまって話すよりも、バー、レストラン、ダーチャ、バーニャ等のリラックスした状態を共にした方が、本音で語り、有意義な話し合いが出来るというのがロシア人の面白い特徴です。ある意味、公私混同が当たり前の世界です。公私混同というと悪いイメージがありますが、どこぞの馬の骨とも知れない人よりは、信頼できる身内の人と仕事した方が安心ということでもあります。

僕は前職のモスクワ駐在時代には、日系自動車をロシア全土のディーラー経由で販売するという仕事に携わっていましたが、地方のディーラーに行くとよく飲み会やバーニャ等に誘われます。


そこで一旦仲良くなっておけば、その後のコミュニケーションや仕事も円滑になります。もちろん、お酒を飲んだだけで全てがうまくいくわけではなく、ビジネス上でWinWinな関係を保つのが大前提ではありますが、しっかり仲良くなっておくことで得することはあっても、損することはありません。

実際はどうかはともかく、「欧米では仕事とプライベートをきっちりと分ける」と言われることがありますが、ロシアでは違います。いろんな意味で公私混同します。「飲みニケーション」を大事にする文脈では、日本人に近い感覚を持っているように思います。どうせ仕事をするなら、気心知れている相手の方が良いという感覚でしょうか。


・バーニャワークショップ@モスクワ
いつか将来、絶対に役に立つだろう(≠ネタになるだろう)と思って、2019年秋にモスクワで2日間のバーニャのワークショップを受けてきました。ここではバーニャの準備の仕方からウィスキングまでを学びます。


先生は真剣そのものです。
台の上にお客さんが寝っ転がっているという前提で、ウィスキングの技術を伝授されます。
天井近くに発生した蒸気をヴェーニクによって上から体に落とすのがコツです。決してバシバシ叩くのではなく、赤ちゃんのように優しくマッサージするのです。
生徒同士で練習しています
足をヴェーニクで包んで温めるだけで、全身があったまって最高に気持ちいいです。
足から頭にかけてマッサージしていきます。頭にはヴェーニクを被せて、森の香りを味わってもらいながら頭を熱から守ります。
この後、実際のバーニャで実技練習もやりました(バーニャ内は暗くて撮影できず)


Certificationをもらいました。日本人が参加したのは初めてとのことでした。
周りのロシア人の参加者はみんな別荘に自分のバーニャを持っていて、友達や家族のために良いバーニャ空間を作ろうとお金を払って学んでいるのです。参加費は 25,000円。ロシアの地方都市では平均月給が10万円のところも多いので、かなりの高額ともいえます。それでもお金を払って学びにくるのです。

ちなみにバーニャでお客さんのために有料でウィスキングするプロのことをバンシック(バーニャマスター)と言います。バンシックで最も有名なのが、ウィスキングで優勝したこともあるヴァシリー・リャーホフ氏です。ウィスキング歴35年で、現代ロシアバーニャ界の父とも言われています。

これがリャーホフ氏のクラシックウィスキングです(長いです笑)

お客さんをうつ伏せに寝かせて、温度と湿度、体の構造を踏まえた上での優しくて丁寧なウィスキングが特徴です。体にももちろん良いです。


https://youtu.be/kdmCTUGXpYA
"Классическое парение в русской бане"
Мастер-класс Василия Ляхова в банно-оздоровительном комплексе "Тимьяновы камни" наш сайт: www.banya-life.ru =================================================...
youtube


ロシア人の知り合いのウィスキングマスターは彼に初めてウィスキングを受けた時、気持ち良すぎて、汗と涙が止まらなかったと言っていました。

僕自身も2021年4月にロシアに渡航して、実際に体験してきたのですが、そのときの体験談はまた別途記事を書こうと思います。


・日本でのバーニャ計画
これは前々から言っていることではありますが、僕は日本にバーニャを作りたいと思っています。

2021年7月に再度、モスクワに渡航して、多くのバーニャやウィスキングを体験してきました。やはり、単に入って気持ちの良いサウナと、ウィスキングを前提としたバーニャは違うものだなと思いました。

簡単に言うとウィスキングを前提にしたバーニャはよりマイルドなセッティングで、ウィスキングする方にも、される方にも優しい作りになっていると言うことです。この特性をしっかり踏まえたロシアバーニャを作りたいと思っています。

また、ウィスキングはリラクゼーション、リトリート、瞑想、マッサージ、アーユルヴェーダ、音や香りのセラピーといったものともとても相性が良いです。こういった分野とのコラボレーションも実現していきたいです。

また、日本と海外を繋ぐという観点で言うと、フィンランドと日本がサウナで交流しているように、日本とロシアもバーニャで交流する動きを作っていきたいです。

なかなか知ることや触れることのないロシアという国ですが、バーニャを通じて少しでも興味を持つ人が増えてきたら嬉しいと思っています。

今は主に都内などを中心に少人数でウィスキング体験会を行っています。また、ロシア製のテントサウナ(バーニャ)TERMAを輸入販売する会社、バーニャジャパン株式会社を20年3月に設立しました。9月頃を目処に販売予定です。

こちらは三層の生地でしっかり温まること、薪ストーブでローリュが可能なこと、折り畳み式で持ち運びしやすいこと、開閉式のドアで出入りや空気の入れ替えに便利なこと、価格がリーズナブルなこと(テント・ストーブ・サウナストーン・送料込みで167,700円)が売りです。

テントサウナを持つことで、初めて自分のためではなく、人のためにサウナをセッティングするということを経験します。これはまさにバーニャマスターのやっていることに近いです。ここにウィスキングが加われば、これ以上のないおもてなしです。

テントサウナでウィスキングするなら、ドア式のTERMA一択だと思います。TERMAで何度もウィスキングをしていますが、ドアの開け閉めが出来るのと出来ないのでは大きな差が生まれます。

TERMAに関しては今まさにロシアから日本への輸入をするところであり、正式に商品が入ってきたらリリースして販売する予定です。お楽しみに!

YouTubeでもロシア文化やバーニャについて発信していますので、興味のある方はのぞいてみてください!

2021年6月 ロシアバーニャ/ウィスキング出張報告会🇷🇺 ネバーニャ
https://youtu.be/t2sU9jbxpgE



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?