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テレビアンテナ

「なあ、寒いな」
 VHFアンテナが言った。
「冬ですから」
 UHFアンテナが言った。
「でも、みんな俺たちの受信したテレビを楽しんでるからな。頑張らないと」
 VHFアンテナが誇らしげに言った。
「あの… いつ言おうか迷ってたんですけど…」
 UHFアンテナが歯切れ悪そうに言った。
「先輩の、そのVHFの信号なんですけど…」
「ああ、何だい? テレビはVHFの放送とUHFの放送があって、どっちも見たいもんな。お前と俺、2人とも同じ屋根の上に立っているのはそういうことだろ?」
 VHFは、ちょっと先輩風を吹かせて、UHFに言った。
「その、なんていうか、最近信号弱いって思わないですか?」
 VHFは少し考えて、答えた。
「そうだな。最近っていうか、結構経つかな。昔はもっと元気が良かった気がする」
「ですよね? 実は、VHFのテレビ放送って、もうだいぶ前に終わってるんです」
「何?」
 VHFは突然の事に、次の言葉が出なかった。
「今は、地デジって言って、UHFだけで放送してるんです。だから…」
 UHFが説明しかけた時、VHFが遮った。
「何でだ? VHFは遠くまで効率よく電波が届くんだろ? 山影とかでも有利なんだ。なんだってUHFなんかに放送をまとめたんだ!」
 VHFは現実を受け入れるのが難しそうだった。
「しょうがないんです。国策で。おかげで、新しい家はUHFアンテナだけで地上波が全部見られるんです」
「お前、何で今まで黙ってたんだ」
「だって… 先輩がいつも誇らしげに朝日を浴びて、風の強い夜も『今はゴールデンタイムだからここで倒れるわけにはいかない』なんて言ってるから、つい…」
「じゃあ聞くけど、この家の主は、どうして俺を外しに来ないんだ? テレビで使ってないんだろ?」
 VHFは悔しさもあって、UHFに問いつめた。
「それは俺もわかんないですけど… あれじゃないかな。外す手間とか考えて、面倒なのかも…」
「そんな… ひどいよ。仕事も無いのにこんな寒空に毎日立たされて」
 VHFは泣きそうになっていた。
「もう1つ言わなくちゃいけないことがあるんですけど…」
 UHFが恐る恐る言った。
「何だよ今度は」
「先輩はいまでも東京タワーを向いてると思うけど…」
「そりゃそうだろ。関東一円の放送は東京タワーが中心なんだから」
「今、東京タワーじゃなくて、スカイツリーから放送してるんです」
 VHFはしばらく言葉を失った。そしてやっと口にした。
「その、スカイツリーとやらは、UHFだけなんだろ?」
「厳密にはFM放送とか、VHFではありますが、一応テレビ放送はUHFだけ…かな」
 UHFは遠慮がちに言った。
「もういい! 俺はただの飾りなんだろ!」
 その時、一羽の雀が飛んできて、VHFアンテナに止まった。
「あ、先輩のその手の長さ、雀たちには丁度いいんですよ!」
 UHFがとりなすように言った。すると、次に別の雀が飛んできて、今度はUHFアンテナに止まった。
「あれ?」
 UHFがそう言うと、新しい雀は、UHFアンテナの上からVHFアンテナに糞をした。

 寒い冬の風が、2つの無言のアンテナと2羽の雀を撫でるように通り過ぎて行った。