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葬貌_第2話_シナリオ

 ※(  )内はモノローグ
 ※Nはナレーション

〇都心・駅前(昼)
   行き交う人々。交差点。車が走り、騒がしい印象(※新宿駅をイメージ)

〇都心・駅前・改札前(昼)
   改札を抜ける『わたし』。まぶしさに目を細める。
わたし「(結局、眠れなかった)」
わたし「(昨日のアレは……)」
   『わたし』、立ち止まり考え込みそうになるも、切り替えるように首を振る。

〇都心・カフェの前(昼)
   大通りから一歩入った路地にカフェの看板がかかっている。
   カフェの看板にクローズアップ。

〇都心・カフェの中(昼)
ちりん、とカフェの扉につけられていたベルが鳴る。
店員(セリフのみ)「いらっしゃいませ」
   かっちりとしたジャケットを着て、肩掛けトートバッグを持った『わたし』。
カフェの入り口で人を探す仕草。
桐谷「先生! こっちです」
   ボックス席とカウンターがあるレトロな喫茶店。
   奥には振り子時計。観葉植物が飾られ、窓にはステンドグラス。
   そのボックス席の一番奥で、立ち上がり手を挙げている桐谷。
   その横には若い青年(斎)が緊張した顔で立っている。
わたし「桐谷さん」
   『わたし』、ほっとした表情を浮かべて席へと向かう。
桐谷「わざわざご足労いただいて」
   向かい合わせで座った『わたし』に笑いかける桐谷。
   その隣で青い顔をし、『わたし』を凝視している斎。
わたし「ええと……?」
   『わたし』戸惑った表情で斎に視線を向ける。
桐谷、隣に座っている斎を肘でグイっと押す。
桐谷「おい」
   斎、気づかず『わたし』の顔を見つめている。目を見開き、おびえたような表情。
   (※印象的なコマにしてほしいです。ここで斎は『わたし』の異常性に気づきます)
   桐谷、斎の背中を軽く叩く。
桐谷「おい! 名刺!」
斎「は、はいっ」
   斎、ハッとした表情を浮かべ、あわててカバンの中をひっくり返す。
斎「あ、あれ?」
   挙動不審な様子。
   カバンの中身をテーブルの上にぶちまける。
   散らばる書類、筆箱、電子辞書、コンビニの空袋、携帯ゲーム機。
   驚いた表情の『わたし』と、怒りをこらえる桐谷。
   (※コミカルにできるといいです)
斎「あっ、あっ、あっ……」
   斎、焦った表情で体のあちこちを触る。
斎「あった……!」
   スーツの内ポケットからまだ新品の名刺入れを取り出す斎。
震える手で名刺を『わたし』に差し出す。
斎「げっ……幻影書房、第一書籍編集部、い、斎、です」
   あっけにとられる『わたし』
桐谷「すみません、先生!」
   必死に頭を下げ、弁明する桐谷。
わたし「大丈夫です」
両手をふり、笑顔の『わたし』。斎から名刺を受け取る。
わたし「新人さんですか」
桐谷「ええ。あちこち現場を見せてる最中でして」
わたし「(緊張してただけ……かな)」
わたし「(それにしては変な表情だったけど)」
   斎のおどおどとした表情に視線を向ける『わたし』
   桐谷、咳払いして、自分のカバンから原稿のコピーの束を取り出す。
桐谷「それじゃ、始めましょうか」
わたし「よろしくお願いします」
   振り子時計の針がチクタク進んでいく。
   サイフォンコーヒーがコポコポと落ちる。
   テーブルの上には出力済みの原稿とコーヒーカップが三つ。
桐谷「ははあ、ヒロインの殺し方、ですか」
わたし「ええ」
わたし「煮詰まってしまいまして」
桐谷「先生らしくありませんなあ」
   桐谷、人の悪そうな顔でニヤリと笑う。(※コミカルに)
桐谷「女性を殺させたら先生の右に出るものはない」
桐谷「編集部でもよく噂になるんですよ」
桐谷「なんでしたっけ、前回は」
わたし「事故です。足を引き裂かれて、失血して」
桐谷「その前は」
わたし「首吊りでしたっけ」
桐谷「ほかにも、溺死やら、絞殺やら、裂傷やら……」
斎「ひっ」
   斎、おおげさに怯える。
桐谷、それを見て笑う。
桐谷「これで怯えるようじゃあ、ホラー作家の担当は務まらんぞ、斎ぃ」
斎「は、はは……」
桐谷「今まで数々の女性を殺してきた先生ですから」
桐谷「今回も、パパッと、グシャッと頼みますよ」
   『わたし』、クスっと笑って。
わたし「パパッとグシャッとやりたかったんですけど」
わたし「思い入れが強いみたいで」
桐谷「先生、劇団ご出身ですもんね」
わたし「ええ……」
桐谷「整理のためにも、一度導入をおさらいしておきましょうか」
わたし「そうですね」
   『わたし』、コーヒーのカップを持ち上げて、口を開く。
わたし「今作は、女優の話です」
   『わたし』のセリフとナレーションに合わせて、葬貌のストーリーがシルエットで展開されていく。
わたし「あるところに、とても美しい、女優がいました」
わたし「その女優の過去は暗澹たるものでした」
N「虐待」
N「いじめ」
N「ストーカー被害」
N「強姦」
N「親しい人の死――」
N「その女優の人生には、理不尽な出来事が降りかかる」
N「それこそ、死を意識するような――」
わたし「それでも」
わたし「彼女は女優として燦然と輝いていた」
   桐谷、ニヤニヤと笑みを浮かべて。
桐谷「いいですねえ」
桐谷「「数々の暗い過去にもめげずに咲く、大輪の花ってとこですか」
わたし「そして、事件は起こる」
わたし「彼女は、舞台上で」
   『わたし』、コーヒーをひと口飲む。
    視線を上げて。
わたし「奇怪な死を遂げる」
わたし「彼女は死したのち、化け物となり――」
わたし「復讐しにいくのです。自分を苦しめた者のもとへ」
N「葬貌」
わたし「それが、この小説のタイトルです」
   ごくり、と喉を鳴らす斎。おびえた表情。
   桐谷、明るく笑う。
桐谷「いやあ、なんともおどろおどろしい感じじゃないですか」
わたし「お褒めにあずかりまして」
わたし「でも」
   『わたし』心底困った顔でため息を吐く。
わたし「彼女を、どう殺せばいいのか」
わたし「しっくりこなくて……」
桐谷「いただいたプロットでは『悪意に食われ、死ぬ』となっていましたけれど」
桐谷「抽象的ですなあ」
わたし「ええ」
わたし「今回は……」
    『わたし』、うつむいてコーヒーカップに視線を落とす。
     コーヒーカップに残っているわずかなコーヒーがちゃぷんと揺れる。
わたし「スプラッターでも、心霊ものでもない」
わたし「化け物と人間を、区別したくないんです」
わたし「彼女の中には悪意が溜まり、渦巻いている……」
わたし「その悪意が彼女を呑み込み、彼女自身が化け物になってしまう」
わたし「そういう風に持っていきたいんです」
斎「あ、ああっ!」
   斎、思い至ったように声を上げる。
斎「だ、だから、『葬貌』なんですか」
桐谷と『わたし』の問いかける視線。斎、視線を左右に彷徨わせる。
尋常ではない様子。
斎「か、顔を、葬る。その顔っていうのは」
斎「この女優さん、そのもの、のこと……」
斎、おどおどとした、探るような視線を『わたし』に向ける。
斎「こ、この方は、とても優秀な女優さん、なんですね」
わたし「(えっ……?)」
   『わたし』、虚を突かれたような表情。
   桐谷、場をまぜっかえすように明るく笑う。
桐谷「なんだなんだぁ、二人とも。ぼくを置いてけぼりにしないでくださいよ」
桐谷「まあ、でも、先生のやりたい方向はわかりました。で、あれば」
桐谷「確かに、死に方は奇妙であればあるほどいい」
   桐谷、咳ばらいをして。
桐谷「インパクトのある死に方……。タイトルが『葬貌』ですから……」
桐谷「例えば――」
   ヒソヒソと桐谷が話す。
   『わたし』、目を輝かせて話を聞いている。
    視線を左右に走らせ、ぐっと拳を握りしめる斎。

〇都心・カフェの前(夕方)
   カフェの入り口の前で向かい合っている『わたし』と桐谷、斎。
桐谷「それじゃ、先生、よろしく頼みましたよ」
わたし「はい。ありがとうございました」
   笑って会釈する『わたし』。
   その『わたし』を凝視している斎。
わたし「……あの?」
斎「い、いえ。その」
斎「お、お気を、つけて」
   くるっと向きを変えて、怯えたように小走りで去る斎。
桐谷「おい! 斎!」
   桐谷、あわてた様子で。
桐谷「すみません、よく言い聞かせますんで!」
わたし「いえ……」
   斎を追いかける桐谷の後ろ姿を見送る『わたし』。
わたし「(なんだろう)」
わたし「(嫌な予感がする……)」
   『わたし』のカバンの中でスマホが鳴っている。
    メッセージ着信。「和也」の文字がディスプレイに表示されている。

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