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葬貌_第3話_シナリオ

 ※(  )内はモノローグ
 ※Nはナレーション

〇駅前・学生街(夕方)※2話ラストと同日
   少し寂れた学生街の駅。
買い物帰りの主婦や子供連れ、制服姿の高校生たちが行き交う。
   改札から出た『わたし』
   視線を上げる。
   改札の前に和也が立って、軽く手を挙げている。
和也「よう」
   『わたし』口元を綻ばせる。
わたし「お待たせ」
   和也、『わたし』のジャケットを見て。
和也「仕事だったのか」
わたし「打ち合わせがね。もう終わったから、大丈夫」
和也「悪いな、助かる」
   和也、笑顔。
   『わたし』、胸元でぎゅっと手を握りしめる(※嬉しさを噛みしめている)
わたし「えっと……それで」
わたし「相談って?」
   和也、言いにくそうに唇をかむ。
和也「……とりあえず、店行くか」
   くるっと後ろを向く和也。
その後姿に高校時代の和也が被る。
わたし「(あの頃に戻ったみたい……)」

〇回想・駅前・学生街(夕方)
   高校生時代の和也と『わたし』が無邪気に笑い合いながら帰宅している。
   友人としては近いが、恋人としては遠いような距離感。
   その『わたし』と和也の間に茉由が飛び込んでくる。
   楽し気に和也と『わたし』それぞれと腕を組み、ちゃっかり真ん中に納まる茉由。
   和也、びっくりした顔。『わたし』、しょうがないな、というような顔。
   三人で並びながら、楽しそうに盛り上がっている様子。

〇駅前・学生街(夕方)
   和也の後ろを歩いている『わたし』
   夕日に目を細める。
 わたし「(もう、十五年か……)」

〇商店街(夕方)
   百円均一やドーナッツ屋、ファーストフード店などが並ぶ商店街。

〇商店街(夕方)・居酒屋の前
   チェーン店の居酒屋の看板のアップ

〇商店街(夕方)・居酒屋の中
   楽し気な笑い声が響く居酒屋の店内の様子。
   そこそこ人が入っており、繁盛している。
   半個室に向かい合って座っている『わたし』と和也。
   和也、ビールジョッキを持っている。
『わたし』は梅酒のお湯割りを持っている。
わたし「それで」
わたし「相談って?」
   からかうように笑う『わたし』
わたし「もしかして、また茉由とケンカ?」
和也「……あいつと、最近なにか話したか?」
わたし「えっ?」
   首を傾げ、話を促す『わたし』
わたし「こないだ会ったきりだけど」
和也「そうか」
和也「実は」
   和也、言いにくそうに視線を彷徨わせる。
和也「……茉由が変なんだ」
わたし「変?」
   なかなか話し出さない和也。『わたし』、わざと明るく。
わたし「まあ、でもよく聞くよ。結婚前ってブルーになるって」
わたし「そういうやつじゃ――」
和也「違う!」
   和也の勢いに押されて、言葉を呑みこむ『わたし』。
   和也、黙ってビールのジョッキを見つめている。
   気合いを入れて、そのまま一気にごくごくと飲んでしまう和也。
わたし「ちょっ!?」
   空になったジョッキをテーブルの上にタンッと置く和也。
   和也、うつむき、ビールジョッキについた飲み残しの泡を眺めている。
和也「……バイト終わって」
和也「家に帰ったときのこと、なんだけど」

〇回想・マンション・和也の部屋・玄関(夜)
   玄関のドアを開けて帰ってくる和也。
   疲れている様子。
和也「ふぃ~、いや、今日は散々よ」
   玄関の横の壁の電気のスイッチを入れる和也。
   ぱっと明かりがつく。
   玄関の狭い三和土に茉由の白いヒールがバラバラになって転がっている。
その横にきっちりと自分の黒いスニーカーを脱ぐ和也。
和也「突然十五名の団体とかありえなくね」
ついでに茉由のヒールも直す。
和也「予約ナシでなんで店入れると思ったんだろねって話よ」
   玄関に足を乗せる和也。
和也「茉由?」
   玄関から少し伸びた廊下の先の扉。
中央が明り取りの曇りガラスになっている。電気はついていない。
   訝し気な顔になる和也。
   スマホを取り出して時間を見る。
   「10:27」の表示。
和也(寝てんのか?)

〇回想・マンション・和也の部屋・リビング(夜)
   和也、廊下からの扉を開けて電気をつけ、目を剥く。
  綺麗に整頓されている部屋。
   リビングにはふたりがけの小さなソファーとローテーブル。
   そのローテーブルに、包丁が一本突き刺さっている。
和也「……はっ?」
   パチッと目を瞬かせ、怯える和也。
和也「ま、茉由……?」
   見回す。茉由はいない。
   リビングから続く寝室の引き戸を開ける。
和也「茉由!?」
   真っ暗な寝室。
整えられたセミダブルのベッド。
どこにも茉由はいない。
   シャワーの音がかすかに聞こえているのに気づく和也。
和也(風呂か!?)
   慌てて踵を返す和也。

〇回想・マンション・和也の部屋・脱衣所(夜)
   脱衣所の扉を開ける。
   脱衣所も真っ暗。
   すりガラスの向こう側が風呂。風呂場も電気がついていない。
   シャワーの音が聞こえ続けている。
和也「茉由……?」
   脱衣所に足を踏み入れる和也。ごくりと唾を飲み込む。
   覚悟を決め、勢いよく風呂場のドアを開ける。

〇回想・マンション・和也の部屋・風呂場(夜)
   真っ暗な風呂場。シャワー(水)が勢いよく出ている。
   バスタブにも満々と水が張られている。
   そのバスタブに、服を着たまま仰向けで浮いている茉由。
   目がぽっかりと開いて、無表情で天井を見つめている。
   和也、無言で叫びながら茉由に駆け寄る。
   びしょぬれになりながら必死に茉由を抱き起す和也。
   茉由、ニコッと無邪気に笑って。
茉由「おかえり」

〇商店街(夕方)・居酒屋の中
   半個室に向かい合って座っている『わたし』と和也。
   真っ青な顔で和也を見つめている『わたし』
わたし「そ、れで、茉由は」
   和也、頭を抱える。
和也「覚えてないんだ」
わたし「えっ」
和也「なんでそんなことをしたのか、わからないって」
息を呑む『わたし』
和也「混乱してるのをなだめて、とりあえず寝かせて。その日はそれで終わったんだけど」
和也「最近、あいつ、おかしいんだ」
   和也、片手で顔を覆い、うつむく。
和也「普段は普通なのに、突然変わるんだ」
和也「意味不明なこと叫んだり、泣いたりするし」
和也「それに」
   言い淀み、息を吐く和也。
和也「やたらと、その」
和也「したがってくるんだ……」
   『わたし』、ズキっと傷つく表情。
   『わたし』の空気が変わったことに気づき、和也が顔から手を離す。
    気まずそうに。
和也「……悪い」
わたし「ううん」
   和也、思い出したようにビールジョッキに手を伸ばして、中身が空だと気づく。
   『わたし』、それに気づきテーブルの上の注文ボタンを押す。
   テーブルの上に新しいビールジョッキが二つ。
   その一つを両手でとり、口元に持っていく『わたし』
   和也、ビールのジョッキを握りしめて、疲れ切った表情。
和也「……俺、どうしたらいいか、わかんねえよ」
   『わたし』、自分の手元に視線を落とす。
わたし「(茉由……)」
   『わたし』、ぐっとビールのジョッキを握りしめる。
わたし「わかった」
わたし「わたし、茉由と話してみるよ」
和也「えっ」
わたし「もしかしたら、和也に話せないことで悩んでるのかもしれないし」
    和也、驚いたように目を見張り、頬を緩める。
和也「……悪いな」
   『わたし』、わざと茶化すように。
わたし「ひとつ貸しだからね」
和也「おお、そんじゃ、遠慮なく借りとくわ」
   二人、顔を見合わせて笑う。

〇駅前・学生街(夜)
   改札をくぐった先で、向かい合わせで立つ『わたし』と和也。
わたし「それじゃ、わたしこっちだから」
和也「なあ」
   和也、目線を逸らして。
和也「これからも、その。連絡を取り合わないか?」
和也「茉由には内緒で」
わたし「えっ」
   和也、あわてて。
和也「いや、別に変な意味とかじゃなくて」
『わたし』、呆れたようにため息をついて笑う。
わたし「わかってるよ」
わたし「さっきの、内緒にしておきたいってことでしょ」
和也「……ああ」
わたし「いいよ」
和也「助かる」
   ほっとする和也。
和也「じゃあ、また。メッセするわ」
わたし「うん。おやすみなさい」
和也「おやすみ」
別のホームに向かう和也の後姿。
その後姿を見送る『わたし』
わたし「(おやすみ、だって)」
   和也の言葉を反芻して、ドキドキする『わたし』。
   そんな自分を戒めるように首を振る。
わたし「(浮かれるなんてどうかしてる)」
ズキンっと手に痛みが走る。
わたし「痛っ……」
   『わたし』、手のひらを見る。
   小指に、黒く長い髪の毛がきつく絡まっている。
わたし「(なに、これ……)」
   髪の毛を外す『わたし』。
   その背後に、じわじわと人の顔(※茉由のシルエット)が現れる。
   『わたし』は気づかない。
   現れた人の顔の口元にクローズアップ。
   口元が意味深に開く。

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