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小説『色づくその意味』

小説『僕の大好きな、君の大好きな』の続編です。


僕らは隣街の高校に進学した。

入学したての頃の休み時間といえば、次の授業の準備や離れ離れになった同じ中学校の奴らの顔をわざわざ覗きに行って、たわいもない話をするための時間だった。

それが、半年も経てば仮眠時間に変わる。
今日は部活動で仲良くなった同じクラスの友達と大食いチャレンジなどと調子に乗って昼飯を食べ過ぎたからか、心地良い風の吹く秋晴れの日だからなのか。

今、僕は睡魔に襲われている。

耐えきれず、いつもの体勢で顔を埋める。

暗く閉ざされた視界が次第に明るくなった。
見上げるとあの日と同じ入道雲が空に浮かんでいる。あぁ、これは僕がたまに見る夢だ。たぶんこの後に女の子が出てくる、短い赤毛の。
ほら、やっぱりそうだ。
真っ直ぐ、全力で、走ってくる。
そしたら、僕に抱きついてくる彼女の甘い香りがして、そのたった二、三秒の時間がゆっくりと流れる。きらきらした瞳の中に顔を赤らめたもう1人の僕がいる。

そして_______遠くの方から、いや、上の方から彼女の声が近づいてくる。

「、、そ、、、、そう、、、そうす、、、、、、そうすけ!」
「ねぇ、そうすけってば!!」

はっきりと聞こえた声に、はっと顔を上げると隣のクラスにいるはずの彼女が目を輝かせて、僕の机の前に立っている。

「今朝ね、駅に着いて時間があって、高校までいつもと違う道を通ってみようと思って、郵便局の脇の路地、そこに入ったの!そしたらね…」

彼女のこの顔は、凄く良いことがあったときの顔だ。同じ高校に進学が決まったときも確か同じ顔をしていた。こっちは気持ちよく寝ていたのに、と文句を言いたいところだが、そんな顔で見つめられたら話の続きを聞く以外、僕には選択肢がない。

「うん、どんな良いことがあったの?」

「え!何でわかるの!ふふ、そしたらね…雰囲気の良い喫茶店見つけたの!しかもメニューにはハムカツがありました!!」

えっと、この顔は、一緒に行くよね?の顔。表情を見て分かってしまうほど、表情豊かな彼女。それを誰よりもたくさん知っている僕。そんなことを考えたら、なんだか急に恥ずかしくなってしまった。

「ふーん。今度行こうかな。」

「えー!なんでそんな素っ気ないのー。」

素っ気なくしたつもりはないけどなぁ。なんて思いながら、機嫌を損ねたときの秘策、あの言葉を頭に思い浮かべる。

「あの…さ、ちょっと耳貸して。」
「今日の帰り、食べに行こう。"僕の大好きな、君の大好きなもの"」

ついさっきまで、不貞腐れて膨らんでいた頬がきゅっと小さくなる。

「じゃあ…もう私、教室帰るからっ。」

素っ気無い返しをして足早に立ち去る君。
でも、怒ってるわけじゃないって、僕にはわかるよ。


なびく髪の隙間から、
赤く色づいた耳が見えたから。

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