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社会問題を通じて「社会」を考えるメディアの話

「リディラ バジャーナル」というメディアについて、過去に何度か対外的に説明させてもらう機会があったのだけど、改めてここでまとめてみる。

ただここで書くのは、リディラ バジャーナルの一側面でしかない。リディラ バジャーナルに興味があれば、このnoteよりもこちらのページを見てもらえるとありがたい。

社会問題を「解決する」という視点

リディラ バジャーナルは、社会問題に特化した情報を発信するオンラインメディアだ。社会問題に関する情報しか発信していないけど、サブスクリプションモデルを採用している。

メディアとしての特徴の一つに、世の中に埋もれがちだったり、社会的な主要論点からこぼれ落ちてしまったりするイシューにフォーカスを当てることがある。

たとえば最近なら、「ひとり親」と言えば反射的に想起されるシングルマザーではなく、シングルファザーについての特集を組み、父子家庭ならではの課題を浮き彫りにした。

また以前には、子どもを性の対象としてわいせつ行為などにおよぶ「小児性犯罪」をテーマに特集を組んだことがある。このテーマはとくに難しく、取材を通していろいろと考えさせられた。

多くの人にとって日常的に小児性犯罪に関する情報に触れる機会はないだろうけど、子どもが被害者となる事件が起これば、大々的に報道される。つまり、大多数の人にとって小児性犯罪について知る機会は「ニュース」だ。

ニュースになったとき、大抵は事件そのものがフォーカスされて、子どもがどのような状況で被害に遭ったのか、加害者はどんな人物なのか、なぜ犯行に及んだのかといったことが報じられる。

そうしたなかで一部の報道(すべてではない)では、加害者の人物像や犯行動機を伝えるにあたり、その「異常性」が強調されることが多い。立場の弱い子どもを襲った加害者のおぞましさに焦点を当てるような報道だ。

ニュースの報じられ方は、多くの人にとっての認識形成に深く影響する。加害者の異常性を強調して伝えれば、その受け手である読者や視聴者のなかでは加害者が“モンスター”と化していく。

その結果、加害者に対する嫌悪や憎悪が醸成され、それらが行き着く先は「加害者をどれだけ厳罰に処するか」という風潮、そして激しいバッシングになる。

もちろん、被害を受けた子どもやその家族のことを思えば、第三者であっても憤るのは、ある意味で自然な反応(感情)だと思う。

ただそうした感情的なリアクションを過度に助長させるような報道はどうかと思うし、その帰結として厳罰化が訴えられたところで、それが小児性犯罪という問題の解決につながるかと言えば、そうとは言えない現実がある。

事件が起こってしまった以上、最も重要なのは、被害者やその家族に対するケアと、同様の事件が再び起こらないようにすることだ。それが問題の解決につながることでもある。

厳罰化論には、あるいは抑止効果を期待する声もあるけど、厳罰化によって小児性犯罪を抑制するエビデンスがないことは、さまざまな専門家が指摘している。

そう考えれば、加害者の「異常性」を強調し、厳罰化論を扇情するような報道は、「伝える」の先に本来あっていいはずの「問題を解決する」という視点が抜け落ちてしまっているように思える。

(多くのメディアが抱える事情としてPVや視聴率を追求するビジネス上の構造問題があり、そうした報道をする側にも葛藤はあるはずだけど)

ただ生まれながらにして加害性を有する人はいないし、その人が生きてきた社会のなかで「加害者」になってしまったと考えるほうが自然でもある。

むしろ、そうした視点を提供することが、メディアには求められているのだと思う。

社会問題を「構造化」する

リディラ バジャーナルは「社会問題を構造化すること」をコンセプトに掲げている。これは、社会問題を「解決する」という視点を持つための一環でもある。

社会問題を構造化するというのは、問題の全体像や背景、関連性を解きほぐして整理することだ。それによって、たとえば社会問題の裏には社会システムの欠陥があることが見えてくる。

社会システムというだけでなく、たとえば先ほどの小児性犯罪の問題構造を考えると、一つの側面として、一人の加害者が数十、数百、ときに数千人もの被害者を生むことがある。さらに加害者の再犯率も高い。

そうすると、問題解決のためには、加害者側の加害に至る要因を解消するアプローチが欠かせないことが見えてくる。

同時に、なぜ加害者は子どもを狙う犯罪を繰り返してしまうのかという要因を探り、現状の再犯防止システムがどう機能しているのかを検証しなければ、再犯率を下げるための対応策はわかり得ない。

加害のメカニズムを知り、現状の問題解決におけるアプローチを問い直す――。

そのために、リディラ バジャーナルでは元加害者や加害者に関わる関係者への取材にも注力している。

元加害者らに取材すれば、彼らは異常性の塊でもなければ、“モンスター”のような存在でもないことがわかる。むしろ、どこにでもいそうなごく普通の人たちという以上の印象を受けない。

問題は、そうしたいわゆる普通の人たちが自身の加害行為を正当化するために、少しずつ認知を歪めていくプロセスにある(詳しくは特集を読んでもらえたら)。

そうした加害者に関する取材でよくお世話になっている一人に、加害者臨床で働く精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳さんがいる。小児性犯罪の特集も、実は斉藤さんから提案されて企画したものだった。

これまでに100人以上の小児性犯罪者の治療に携わってきた斉藤さんによれば、一人の加害者が多くの被害者を生む背景には、性的嗜癖行動(性依存症)を伴うケースが多いという。

だからこそ斉藤さんは、取材のたびに加害者の「治療」の重要性を何度も強調していた。

「被害者の支援はここ数年で少しずつ増えてきましたが、1人の被害者をケアすると同時に、1人の加害者の再発防止プログラムもやっていかないと、きりがないんです。裏を返すと、1人の加害者が治療につながって行為をやめることができれば、これから出る被害者を大幅に減らすことができます」

(斉藤さんの著書『「小児性愛」という病――それは愛ではない』は、小児性犯罪について考える上での太くて強い補助線になってくれるのでお薦め) 

斉藤さんが指摘するように、小児性犯罪の元加害者への取材では「やめたくてもやめられなかった」「逮捕されて、子どもを殺さずに済んでよかった」といった話を聞いた。

小児性犯罪に限らず、犯罪加害者は何らかの社会問題の当事者であることも少なくない。たとえば、ある性犯罪の加害者が実は性被害者でもあったという人もいた。

もちろん「だから擁護されるべき」ということではなく、社会問題を生む要因は可視化されていないケースも多いから、マクロな視点で問題構造を捉え、ミクロな視点で潜在的な問題を表出させていくことが必要なはずだ。

そうして問題のメカニズムを丁寧に解きほぐしていけば、単に加害者だけの自己責任という言葉では片付けられない実態が浮かび上がってくる。

そうしたことが、社会問題を構造化する意義でもある。

(ちなみに、社会問題を“正確に”伝えることはとても難しいと感じている。ある程度可視化されている情報が報道されているわけだけど、その可視化されている情報をもって「正確なのか?」という問いは持ち続けたい)

「自己責任論」からの脱却を

社会問題においてとりわけ問題だと思うのは、多くの問題が「個人の問題」に矮小化されて「自己責任」と断罪される風潮が蔓延していることだ。

まったく自己責任はないというわけではなく、ただ実際には自己責任では説明できない社会問題のほうが圧倒的に多い。だから自己責任論を否定するリディラ バの考え方に強く共感している。

そしてあらゆる社会問題に言えるのは、そこで当事者になる人は「社会から生まれる」という前提があることだ。

「世界一治安がいい」などと言われる日本でも、統計上、1日平均2000件以上の犯罪が起きている。その犯罪行為に及んでしまうのは、さまざまな理由で困難に陥った人であることが多い。

犯罪率を低下させるためには、犯罪の取締強化のような対処療法だけでは焼け石に水になってしまう。それ以上に求められるのは、犯罪が起きにくい社会の構築を目指し、社会にある困難そのものを解決していく根治療法だ。

僕は、社会問題は時代を映す鏡でもあると思っている。その時代における社会の歪みが凝縮し、噴出しているものが社会問題であって、その背景を知ることは「社会」そのものを知る一つの手段でもある。

そんな社会問題とその背景、そして構造を知るための情報を発信するリディラ バジャーナルは、広告モデルではなくサブスク(課金)モデルを採用している。

社会問題という超ニッチな領域に特化したメディアであるにもかかわらず、それなりの数の読者がいて、ローンチから2年以上経ったいまも右肩上がりの成長を続けている。

少しでも興味を持ってもらえたら、詳しくはこちらのページを見てもらいたい(宣伝)。

社会問題が社会にとっての問題である以上、解決すべき主体は、問題の当事者だけではなく社会を構成する人たちだ。

むしろ第三者でないと解決できないことのほうが多いことは、さまざまな社会問題の取材を通じて確信を深めたことでもある。

繰り返しになるけど、このnoteで書いたのは、あくまで僕という視点を通じて見たリディラ バジャーナルの一側面でしかない。

ただここで書いたスタンスに少しでも共感して、「社会の無関心の打破」をしたいと思ってもらえたら、ぜひその一員になってもらえるとうれしい。

読んでいただき、ありがとうございます。もしよろしければ、SNSなどでシェアいただけるとうれしいです。