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「あの日見上げた景色を忘れない、その瞬間は僕の中に在り続ける」

僕たちはその場所の中心に立っていた。
音が鳴り、声が響き、海風が抜けるその場所は最高の舞台のはずだった。
しかし、誰もが想像するそれとは随分とかけ離れた景色がそこにはありました。


J3に降格して2年目のシーズンを迎えた2018年。
所属するギラヴァンツ北九州はJリーグのどん底でもがいていた。
いち選手としての存在価値を否定されるような現実を突きつけられ、とにかくもがいていた。
僕たちの舞台であるスタジアムには「落胆」や「悲壮感」が漂い、「罵声」や「怒声」が飛び交い、白旗を意味する真っ白なタオルを掲げる人もいた。

本来であれば、そのすべての人が「サポーター」で、僕たちは「チーム」のはずだった。
その光景を脳裏に焼き付け、目を背けず胸に深く刻み、このチームと歩んでいこうと決心した。


#待っているのは最高の週末だ


Jリーグの試合が開催される週末、その街は盛り上がりを見せる。
スタジアムまでの動線は行列を成し鮮やかな色に染める。
世代や国籍や年齢を超えて心躍らせる魅力がスポーツないしJリーグには存在する。


北九州の街も同様に熱狂と歓喜に心震わす週末を期待していたはず。
しかしながら、そうはならなかった。いや、そうさせることが出来なかった。
チームとして、クラブとして。
「違う、ここはこんな場所じゃないはず」
ピッチから見上げ、目に映る彼らの表情に悔しさがこみ上げた。
得てして、期待が膨らむほどに比例して強く大きくなるものが絶望感だったりもする。

そこから立ち上がり立ち向かうには、これまで心地よかったことを捨て、今までの価値観から抗い、自分の変化が成長に繋がることを信じ、他者に影響を及ぼす必要がある。
要するに、自分自身の基準を引き上げ視座を高めて行動しなければならない。


「昨シーズン、僕たちは負けました」


翌年、J3優勝を決めたシーズン終盤に、僕は同じ場所で同じようにそこから見上げ、スピーチをした。
昨年見たものを心に刻み、とにかく感謝の言葉を伝えたかった。
あの時からは想像しがたい、美しい景色が広がっていた。

そこには、求め続けていた光景が広がっていて、安堵と歓びを沢山の人同士が共有し、素敵な時間が流れていた。その特別な雰囲気はまさに最高と呼べるものでした。
本来のあるべき姿をみせたその場所は、確かにそこにありました。

あれほどまでに心地よい瞬間が連続する空間は容易に経験出来るものではないと思っています。


それほどまでに、そこから見上げる光景は美しかった。


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