心不全の長期予後の予測スコア

この記事は以下の論文の紹介をしています。

Takabayashi, K., Okada, Y., Iwatsu, K., Ikeda, T., Fujita, R., Takenaka, H., Kitamura, T., Kitaguchi, S., and Nohara, R.  A clinical score to predict mortality in patients after acute heart failure from Japanese registry. ESC Heart Failure,2021. https://doi.org/10.1002/ehf2.13664. リンク

注)この記事の目的は研究の紹介です。個々の患者に適用可能かどうかは各自でご検討ください。

心不全の長期予後

心不全は高齢社会の日本においてよくみられる疾患、病態です。急性心不全で入院したあと、退院時に生活指導をしたり、今後の治療計画を説明する際に予後が簡易的に推定することができれば、病状説明や治療方針の意思決定に有用と思われる。この研究では急性心不全で入院後、退院時の状態から長期予後を予測するための身体的・社会的要因を含む予測スコアを作成しました。

心不全の長期予後を予測するスコア

退院時の状態から以下の項目に当てはまるかチェックし当てはまる項目の点数を加算していきます。

ADL低下 (自立歩行できない) + 2
内服管理を他者が行っている    +2
以前にも心不全で入院歴あり    +2
年齢
  75 歳以上         + 2
  85歳以上                  + 3
BMI <25 kg/m2                           +2
eGFR <30 mL/min/1.73 m2        +2
血清アルブミン値
  <4.0 mg/dL        +2
  <3.0 mg/dL                 +4       
BNP
  400 pg/dL以上      + 1
  600 pg/dL 以上                +2

*年齢、アルブミン、BNPは点数が高い方に当てはまる場合は高い方を加点

このスコアの合計でリスク低、リスク中、リスク高のグループに分けると、3年間のフォローアップ期間での全死亡が、

リスク低 (スコア 0–5): 約7%                   
リスク中(スコア 6–11):約30%                   
リスク高 (スコア ≥12): 約80% 

と予測できそうです。

またそれぞれのフォローアップの経過をカプランマイヤー曲線で提示すると、以下のようになりそうです。

画像1

研究結果のまとめ

この結果から、この心不全の退院時の長期予後の予測スコアは3年間のフォローアップ期間における死亡を予測し、長期予後の推定に有用である可能性があります。実際の臨床で活用できるかさらなる検証が必要ですが、参考になれば幸いです。

論文要約

目的
急性心不全後の患者の長期予後を予測するための身体的および社会的要因を考慮した予測スコアはない。本研究では,急性心不全患者の退院時の長期予後の予測スコアを開発し,検証することを目的とした。

方法
本研究は大阪の北河内地域の心不全レジストリのPost-hoc解析である。本レジストリは,2015年4月から2017年8月までに急性心不全を発症した患者を対象とした前向き多施設コホート研究である。予測すべき主要アウトカムは、3年間の追跡期間における全死亡の発生である。予測モデルの構築には2015年4月から2016年7月に由来するデータ(開発コホート)を用いた。作成したスコアの評価には2016年8月から2017年8月に由来するデータ(テストコホート)を使用した。年齢、性別、BMI、退院時の日常生活動作、社会的背景、併存疾患、バイオマーカー、心エコー所見などの潜在的に有用と思われる予測因子からをLASSOで変数を選択し、ロジスティックモデルを用いて各変数のβ係数に基づくスコアを作成した。

結果

登録された1253人の患者のうち、1117人が解析対象となり、開発コホート(n = 679)とテストコホート(n = 438)に分けられた。開発コホートでは246例(36.2%)、テストコホートでは143例(32.6%)の死亡が観察された。身体的・社会的要因を含む11の変数をロジスティック回帰モデルに設定し、リスクスコアを作成した。患者は、低リスク(スコア0~5)、中リスク(スコア6~11)、高リスク(スコア12以上)の3群に分けられた。観察された死亡率と予測された死亡率は、リスクグループで分けたKaplan-Meier曲線で提示され、各グループは死亡率が増加した(ログランク検定:P < 0.001)。テストコホートでは,予測モデルのC統計量は0.778(95%信頼区間:0.732-0.824)で,各群の三年間フォローアップ期間における死亡の平均予測確率は,低リスクが6.9%(95%信頼区間:3.8~10%),中リスクが30.1%(95%信頼区間:25.4~34.8%),高リスクが79.2%(95%信頼区間:72.6~85.8%)であった。予測された確率は、開発コホート、テストコホートでよく一致していた。

結論
心不全の予後予測のスコアは,長期にわたる急性心不全患者の死亡を予測でき、意思決定や病状説明に活用されることが期待される。

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