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臨床医から大学院へ2:学位とは?

前回のつづきで、救急医である自分が大学院生活を振り返っていきます。大学院進学を考えている臨床医の参考になればと思います。

参考)前回の記事



学位とは?

学位とは、「学術上の能力または研究業績に基づき授与される栄誉称号」だとそうです(Wikipedia参照)。

京都大学大学院で臨床研究を勉強するには4つのコースがありそれぞれ取得できる学位が異なります。

博士課程:
PhD (Doctor of Philosophy)

後期博士課程: 
DrPH (Doctor of Public Health)

専門職学位課程: 
MPH (Master of Public Health)

専門職学位課程(MCR1年制)
 MPH (Master of Public Health)

それぞれ最低必要年限が1−4年と異なります。

学位の取得基準

以下、京大の学位取得のポリシーを要約します。*詳細は京大のWebsiteを参照ください。

社会健康医学系専攻 専門職学位の要件

・30単位以上修得
・課題研究発表会での審査

京都大学のwebsite

上記のように医療統計や疫学をはじめ授業、実習に参加し、30単位以上修得することが必須条件です。

また配属された研究室で課題研究の遂行します。二年制MPHコースでは、「研究の発案、計画書作成、データ収集、解析、結果の考察」を経験し、課題研究発表会(公聴会)でプレゼンテーションによる審査があります。(論文出版は必要条件ではありません。)

MPHの特殊なコースである、一年制MCRコース(臨床研究者養成コース)では「研究の発案と研究計画書の作成」までを経験し、ここまでを課題研究発表会(公聴会)で発表し審査となります。

MPHを取得すると?

こうして得たMPHの学位ですが、学位取得者として期待されていることは2年制MPHコースは

社会健康医学に関わる実務・政策・調査・教育において、専門的かつ指導的役割を果たすことができる

京都大学website

と書いてます。

博士(医学)の要件

・24単位以上、大学院教育コースで6単位以上
・査読つき国際学術誌に筆頭著者として原著論文を出版
・原著論文についての学位審査で合格する

京都大学website

が要件です。

特に、「査読つき国際学術誌に筆頭著者として原著論文を出版」が重要なポイントです。

ちなみに京大の医学研究科博士課程では「常勤職は禁止」です。
私の研究室でも「平日の80%以上は研究に専念」というのが鉄則でした。


博士(医学)を取得すると?

博士取得の目安として

学術的意義、新規性、創造性等を有する研究を、高い倫理的責任感を備えて企画・推進・実施することができ、高度な普遍性を持つ研究成果を論理的に説明できる

京都大学website

と書いています。


どちらを目指すべきか?

どちらがいいかはもちろん個々人で変わるのですが、以下は選択のポイントについて私の個人的な考察です。二つの目的の違いについて考察します。

MPHは
「専門職として社会健康医学、公衆衛生の実務、調査、教育の臨床実践」が主体です。

公衆衛生や臨床研究、社会健康医学への知識や視点を持って臨床の現場で頑張る人の育成がコンセプトだと思います。エビデンスを適切に医療現場で利用できることが目標です。なので研究能力の向上や独立した研究者の育成に重きをおいているわけではないようです。

オープンキャンパスでも面談してくれた教員の先生に実は言われたのですが、改めて大学院生活を通じて思うことは、今まで全く研究もせずに論文も書いたことのない臨床医が、2年制の専門職学位課程を修了してすぐに、「バンバン論文書いてます!研究をいくつもやってます!研究も指導してます!」となることは稀です。

(実際に2年制の専門職学位課程を修了してすぐにバンバン論文を書いている人もいますが、むしろ、2年間で国際的な査読雑誌から原著論文の出版はゼロです、という方が主流ではないかと思います。)

「2年間で研究計画からデータ収集、解析、結果のまとめまで、何とかできるようになってきたし、よくがんばったね。論文・・?論文はこれから頑張って書いてね」という感じになっているように思います。

もちろん卒業してからも引き続き指導してくれる教室もありますが、一度臨床に戻ると「臨床が忙しい・・」という万能の免罪符(笑)を覚えてしまうこともあるかもしれません。

一方、博士課程で望まれることは

「研究者としてスタートラインに立つこと、独り立ち」
だと思います。

もちろん医学博士を取得したとて、一人で満足に研究を企画、運営できるようになるわけではないと思いますが、博士という学位のコンセプトは、

「研究の着想、計画、倫理委員会の承認、研究チームのマネジメント、データの収集、加工、解析、結果の解釈と考察を行い論文として発表し、査読者に説明、納得させたことがあるので、一応、次から研究者として研究を企画、遂行できると思います」という、その証明が博士号(医学)だと思います。

京大の医学研究科のディプロマポリシーにもそのように書いていますし、大学院生活で教授から学位とはかくの如しと何度も言われました。うちの教授は、学位審査はインパクトファクターよりも研究遂行能力の証明が重要だとおっしゃっていました。

追記)博士でないとできないこともあります。例えば研究助成金や研究費(科研費:若手研究)の取得、海外学振など海外でポスドクをするための助成金などの応募には博士の取得が必須となっています。またアカデミックポジションも博士の学位が必須となっていることも多いです。海外にでても、博士を持っていることはかなりの強みで、VISA取得にアドバンテージがあることも多いです。研究者として独立して、研究費を取得するためには博士をもってないと厳しいかもしれません。

逆にすでに研究遂行能力がある場合には、MPHを取得して医療統計や疫学の知識を獲得、上乗せすれば十分だと思いますし、博士課程まで進学する必要はないかもしれません。

博士課程の4年は長いし、とりあえず2年MPHをとってからさらに研究を続けるかを考える、という人もいると思います。2年間でも医療統計、疫学、社会健康医学について勉強するのはとても世界が広がりますし、臨床医としての幅が広がること間違いなしです。

(博士の学位を持っていなくてMPH取得後にバンバン論文書いている人も、MPH取得後に博士課程に進学したり、MPH取得後に論文博士という選択肢の方もたくさんおられると思います。)

どちらがよい、というわけではないですが、学位のコンセプトが異なるように思いますので、自分の目的にあった方を選ぶといいと思います。

追記)
6年制大学(医学部、薬学部)出身者などはいきなり博士課程から入学できますがそうでない場合は、修士課程、専門職学位課程が先に必要なようです。多分。

まとめ

各コースの目標はそれぞれ違う。

2年制MPH修士課程は「社会健康、公衆衛生の専門知識とデータ解析の経験がある臨床の実務者を目指す」、1年制MPH(臨床研究者養成コース)は「臨床研究の計画ができる」です。一方、博士課程は「研究者としてスタートラインに立つこと」です。

どれを自分の目標にするべきかを考えてコースを選択すると良いと思います。


続く



参考)

医学研究科 学位授与の方針(ディプロマ・ポリシー)

https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/education-campus/curriculum/graduate/daigakuin/diploma/igaku


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