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建築基準法違反物件で旅館業営業許可を取れるのかどうかについて

先日都内の物件を取得して旅館業営業したいという方の相談がありました。物件の取得費用は割安だが、違法建築(詳細は伏せます)になっているとのことで営業許可を果たして取れるかどうか悩んでいるというものした。少しリサーチ+経験に基づいて私見を述べてみたいと思います。
この記事は、既に建築済みの建物において、旅館業法上の営業許可申請に対して、営業許可が出るのかどうかを論点に記述します。
下記で私の理解を示しますが、建築基準法違反の放置を勧める意図はないので最初に断った上で筆を進めます。

他専門の方の記事もいくつか見ましたが、結構可否の見解が分かれている論点であり、もし下記で示す私の見解に対して別の考えや見方がありましたらぜひコメントにてお知らせいただけると幸いです。


先に結論

営業許可申請に対しての結果として3パターンが考えられます。
パターン1 : すんなり営業許可が出る
パターン2:建築基準法違反の状況が解消されるまで営業許可を保留される
パターン3:営業許可を拒否される

その上で、結論としては、下記のように考えます。

パターン1 : 95%
パターン2:5%
パターン3:0%

基礎とする考え方を下記で4つ説明しますので参考にしてください。

営業許可が出ると考える根拠

そもそも建築基準法違反が感知されにくい

まず、下記の点で旅館業営業許可申請にあたって、建築基準法違反が検知されにくいという状況があります。
○旅館業法の営業許可は、公衆衛生を管轄する課が所管しており、建築基準について担当する課(建築指導課等)が所管しない点
○旅館業申請時の提出書類の一覧に、建築基準法に関連した書類は含まれていない点。つまり、その建物の建築確認の有無、検査済証の有無も確認ができないことから、その合法性を確かめることができません。
○他提出書類も、立面図、側面図、平面図、見取り図等に留まり、詳細な精査が難しい点
○自治体内の建築基準法違反に取り組む課のキャパの都合上、優先的に対応されていない傾向にある点

その上で、仮に感知された場合にそれでも営業許可が出るであろう理由を列挙してみたいと思います。

旅館業法の営業許可に建築基準法の要件はない

旅館業法では、申請に対していくつかの条件を指定して、その条件に当てはまった場合、「許可を与えないことができる」と定められています。この許可を与えないときの条件に建築基準法に違反する等の建築基準法を関連づけるような要件がありません。つまり、施設の建物に何か建築基準法違反があっても、旅館業法上、申請に対して行政は、営業許可を与えないという判断ができないはずです。この点を根拠にすれば、法律上、建築基準法違反でも旅館業の営業許可申請を拒否されることはないはずであると考えられます。

また、これは、下記で示す資料内で厚生労働省が認めていることからも明らかです。

旅館業法による営業許可申請書が提出され、(中略)、当該施設は建築基準法第六条第一項違反建築物であるが(中略)旅館業法により許可を与えるべきか。

建築基準法による違反建築物の旅館営業許可に関する疑義について

これは、昭和28年に鳥取県が厚生労働省に意見照会している記録です。要するに施設に建築基準法違反がある状況において、他の旅館業法上の要件を満たしている建物に営業許可を出して良いかどうか質問しています。これに対する厚生省公衆衛生局長の回答が以下になります。

旅館業の許可の可否は、もつぱら公衆衛生の見地から決定すべきものであるから都道府県知事は、当該営業の施設の場所及びその構造設備が公衆衛生上支障がないと認めたときは、当該施設が建築基準法による建築の確認を受けていないものであつてもこれを許可しなければならないものと解されたい。

○建築基準法による違反建築物の旅館営業許可に関する疑義につい

こちらの意見照会と回答は、建築基準法第六条一項違反の事例であるものの、回答の理屈を読む限りでは、他の建築基準法違反事項がある場合も同じ結論になると考えられます。

実際に営業許可の出ている施設に建築基準法違反があること

こちらは、墨田区のたきざわ正宜議員が令和2年度11月本会議一般質問の内容です。こちらの質問にて、建築基準法違反でありながら旅館業営業している施設があることについて問題提起しており、たきざわ議員の発言を真実と仮定すれば、実際に建築基準法違反でも旅館業営業許可を受けている施設があると考えられます(営業許可後に建築基準法違反状態に変更された可能性は排除はしません)。

「近年、住宅を転換して、旅館業法上の旅館・ホテル営業または簡易宿所として許可を得て営業する事例が多くみられるようになりました。このような物件の中には、旅館業法上合法であっても、建築基準法では違法な物件が存在することが分かっています。」

墨田区区議会令和2年度 11月本会議 一般質問

行政側の抱えるリスクについて

  1. 平等原則違反

第14条 すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。 華族その他の貴族の制度は、これを認めない。 栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。

憲法14条1項

平等原則に則れば、同様の建築基準法違反がある施設に営業許可を出している状況がありながら、別の施設に対して営業許可を出すことを保留し続けることは、この平等原則違反を指摘される可能性が多分にあり、行政訴訟等に発展したときに敗訴する可能性が高いのではないかと考えます。

行政の平等原則事例については、こちらの記事がわかりやすいので興味ありましたらご参照ください。

2.行政手続法34条違反

許認可等をする権限又は許認可等に基づく処分をする権限を有する行政機関が、当該権限を行使することができない場合又は行使する意思がない場合においてする行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、当該権限を行使し得る旨を殊更に示すことにより相手方に当該行政指導に従うことを余儀なくさせるようなことをしてはならない。

行政手続法第34条 許認可等の権限に関連する行政指導

仮に、行政側が建築基準法違反に気付き、それを理由に営業許可を保留したとしましょう。この状態は、建築基準法違反の解消が営業許可を出すことの交換条件と実質的になっており、行政手続法34条違反に問われる可能性が十分あるのではないかと考えます。

さて、これらのリスクを取ってまで営業許可を保留する判断を行政の担当者や上長が果たしてできるのでしょうか。できないと思います。

営業許可を保留される余地はあるのか

上記で挙げている鳥取県の意見照会に対しての厚労省の回答は、下記の但書きに続きます。

但し、建築基準法による確認を受けない以上当該建築物を建築することができないので、例え旅館営業の許可を受けても事実上当該営業を行うことはできないわけであるから行政上の取扱としては建築基準法による確認を受けさせた後に旅館営業の許可を与えるようにすることが適当と考える。

○建築基準法による違反建築物の旅館営業許可に関する疑義について

建築基準法違反でも営業許可をしなければならないと明言した上で、違反状態を解消した後に営業許可を出すのが適当と結論づけています。そのため、行政が営業許可を拒否することはないとしても、明らかな建築基準法違反が確認されている物件については、厚労省の上記回答を根拠に、営業許可を保留しようという試みは可能性としては排除できないのではないかと考えられます。

結び

結論としては、上記で挙げた4つの点を加味すると、現状、建築基準法違反物件においても営業許可がすんなり出るのではないかと考えます。一部、保留するような対応をする行政官もいる余地はあるので95%としました。

ただし、建築基準法違反の状態を放置していると、建築基準法に基づく処分や命令を受ける余地もあることや、建築基準に合っておらず倒壊等利用者に被害が及ぶ可能性も考えられるため、速やかに建築基準法違反の状態を解消するべきことは、最後に言添えて結びといたします。

弊社、一軒家ホテル合同会社では、都内を中心に一軒家やマンションの一室を宿泊施設として旅館業や民泊運用する事業を展開しています。
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