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早慶本命率は浪人になると10%(0.1)下がる=浪人すると早慶併願数が+0.8学部となる

地方出身の筆者は、首都圏の高校の学力レベルが直感的にわかりません。それは、地方進学校だと、地元の旧帝国大(北大・東北大・名古屋大・大阪大・九州大)などに進学する学力上位層が、首都圏だと早稲田大・慶應大(早慶)に進学していることに起因していそうです。

ところが、多くの高校は早慶の合格者数は公表していても、進学者数は公表していません。一部の高校は進学者数を公表しているのですが、それでも現役進学者数だけの場合が多いです。一般的には、現役と浪人を合計した数字で高校の学力レベルを見る傾向があるため、現役進学者数だけでは片手落ちです。

こうした中、なんとかして早慶の合格者数から進学者数を推定できないかと試行錯誤してきました。その結果、早慶の現役進学率を推定する重回帰モデルの導出までは辿り着きました。

あとは、早慶の現役進学率から現役・浪人合計の進学率(現浪合計進学率)を推定できれば、対象高校の早慶の現役・浪人合計の進学者数を推定でき、地方と首都圏で同じ土俵で高校の学力レベルの比較ができます。そこで、今回は早慶の現役進学率から現浪合計進学率の回帰モデルの構築をやってみます。

0. まとめ

  • 現役と浪人の進学者数を公表している高校では、いくつかの外れ値(本命率100%・0%など)を除くと、早慶浪人本命率は早慶現役本命率に対して、正の相関をする(R2=0.67)。

  • 1次回帰式から計算すると、早慶の現役本命率の平均値:約40%(附属校除く)に対する浪人本命率は31%となる。浪人すると本命率が10%(0.10)下がると言える。

  • 逆に見れば、早慶の併願合格数は現役の2.5学部に対して、浪人では3.3学部(+0.8学部)となる。この増加分は、現役時は東京一工の単願の受験生が浪人時は私立併願で早慶も受験するケース、現役時も早慶併願していたが浪人時は受験数を増やすケースなどが起因すると考えられる。

  • つまり、この本命率の低下幅=併願数の増加幅は、浪人することで生じる保守性(保険)の度合いとも言える。

1. 分析対象データ

こちらのサイトで紹介されている高校のうち、現役だけでなく浪人についても進学者数を公表している高校に加えて、これまでの記事での合格実績調査時に進学実績も見かけた高校を追加しています。

そうした高校について、早慶の合格者数と進学者数のデータから本命率=進学者数÷合格者数を算定しています。一つの高校で複数年の実績を公表しているところは、最大6年までの平均値を採用しています。単年(最新年=2024年度入試)しかホームページにデータがない場合は、単年の数字をその高校の本命率として採用しています。

浪人の進学者数まで公表している高校はそれほど多くなく、分析対象の標本はこの表の18校となりました。このうち柏高校は浪人の早慶合格者が0人であり、浪人本命率が計算できないため、以降の分析からは除外して、17校を対象に分析します。

表1

2. 現役本命率と浪人本命率の関係

これら17校について、早慶の現役本命率と浪人本命率の散布図を作ると、このグラフのようになります。1次回帰の決定係数(R2)は0.1102で、ほぼ相関が見られません。

グラフ1

グラフをよく見ると、赤色にした本命率が100%や0%になる高校が外れ値のようです。これらは合格者数や進学者数が少ない場合に発生するので、全体への影響は軽微である。これらの外れ値は除外して良さそうです。

また、頌栄女子は浪人すると大幅に本命率が上がっています(現役:32%→浪人:58%)。ただ、表1を見ると、現役の合格者数が早慶どちらも100人超なのに、浪人の合格者数はどちらも10人未満であり、早慶に対して極めて現役志向の強い特殊なケースであると考えられます。そのため、頌栄女子も外れ値とできそうです。

この4つの外れ値を除外すると、散布図はこちらのようになります。対象は13高校に減るので、精度は怪しいですが、決定係数は0.67まで上昇しています。この範囲なら、早慶の現役本命率と浪人本命率は一定の相関をしていると考えられます。

グラフ2

前回の分析対象(標本)では、現役本命率の加重平均は42.5%でした。現役本命率を40%と見ると、この回帰式から算定される浪人本命率は31%となります。同じ高校でも、現役から浪人に変わると、本命率は約10%(0.10)下がることになります。

このことを逆から見て、併願数として考えると、併願数は現役:2.5学部が浪人:3.3学部に0.8学部の増加をしていることがわかります。考えられる要因は、上述していますが、現役では強気の受験をしていた受験生も、浪人時には併願数を増やして保守的な受験をするようです。

3. 現役と浪人の差の検定

上記のように、早慶の現役本命率と浪人本命率の1次回帰式を算出しました。ただ、この回帰分析は、同じ高校で現役本命率と浪人本命率の間に差があることが前提です。そこで、この2つの本命率の差の検定を行ってみます。

t検定を行う前に、早慶の現役合格者と浪人合格者について整理します。個人レベルで見ると、例えば東大志望の受験生が現役で早慶併願して、東大不合格で早慶は辞退して浪人して、浪人時に早慶を再度受験するケースは考えられます。それ以外は、おそらく早慶の現役合格者と浪人合格者は個人レベルでは別の受験生でしょう。

ただ、同じ高校の1〜2年の違いなので、個人レベルでなく早慶の合格者の集合として見れば、現役合格者と浪人合格者は同じ母集団と言えます。つまり、現役本命率と浪人本命率の間には同じ高校を軸とした対応があると考えられます。よって、2標本に対応がある場合のt検定を行います。

外れ値も含む17校、外れ値を除外した13校で、1対の標本のt検定を行うと、このような結果となります。

表2

外れ値も含む全体では、t値(1.7821)は両側境界値(2.1199)を下回っており、「現役本命率と浪人本命率の間に差がない」という帰無仮説は棄却できません。ただ、外れ値を除くと、t値(2.9150)が両側境界値(2.1788)を上回り、帰無仮説を棄却できます。よって、外れ値を除く場合には、現役本命率と浪人本命率の間には差があると言え、先の回帰式はこの2つの本命率の差についての妥当な分析結果だと考えられます。

4. 現浪合算本命率の回帰式と残差分析

これまでの分析で、早慶現役本命率から早慶浪人本命率を推定する1次回帰式を構築できました。ただ、そもそも知りたかったのは、早慶現浪合計本命率です。早慶現浪合計本命率についても、相関関係を見ておきます。

早慶現役本命率に対する早慶現浪合計本命率の散布図を作ると、このようになります。決定係数は0.9652と極めて強い相関が確認できます。そもそも、早慶現浪合計本命率の分子は、現役進学者数が含まれるので、強い相関をするのは当たり前です。

グラフ3

さらに13校に対して、残差もチェックしておきます。計算すると、このようになります。一部で乖離が大きい高校(松本深志)もあるようですが、概ね残差は±3%(±0.03)であり、回帰分析としては悪くない印象です。

表3

5. 最後に

今回の検討の結果、現役と浪人を合算した早慶現浪本命率を現役本命率から推定できるようになりました。早慶の現役本命率は共同通信の調査結果をWebサイトで確認できますし、そこになくても、高校入試の偏差値などから推定できます。

これで、早慶の現役と浪人を合算した進学者数を推定できるので、次は過去に行った主要進学校の難関大学の進学率の推定を精査した上で、首都圏と地方の高校の学力レベルの比較を行ってみたいと思います。

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