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バカマジメな私が逆ナンで結婚した話♯16

扉の向こうは大理石調の床が広がっていた。
庭園を見渡せる部屋はとても広く、吹き抜けになっていて、かつ一面がガラス張りになっているものだから開放感がとてつもない。

『城だ…』

私の“城ってこんなところだろうな”というイメージに近い空間だった。

気持ちのいい青空は、少し夕めいてきている。

既に食事をしている何組かのお客はみんなこの場に合った服装で食事を楽しんでいるようだった。

スニーカーを履いてきた後悔が、じわりじわりと足元から私を飲み込んでいくような気さえした。

『せっかく素敵なお店なのにスニーカーで、来ちゃったよ』

と残念がる私に、宮城さんは、

「歩ける格好のほうがいいし、ここ、ドレスコード、ないみたいだから」と、また、言う。

きらびやかな店内。
運ばれてくる美味しい料理。

きっと、誰もスニーカーなんて、私なんて、見ていないだろうな。
そう思い込んでしまえば、私の沈んだ気持ちはいつのまにか晴れていた。


すっかり日が落ちて、暗闇と化した庭園はイルミネーションが施されていた。

もうすぐメインディッシュだと言うのに、困ったことがあった。

『お腹が…いっぱいに…なってしまいそう』

素敵な空間にすっかり舞い上がった私は、あろうことか、スタッフからオススメされるパンを山ほどおかわりしていた。

このままではメインの肉に辿り着けそうにない。
私はバカだ、大馬鹿者だ。
ペース配分を完全に間違えた。

私の腹は、
“八分目はもうとっくに過ぎちゃってますねー!”
と満足そうに訴えている。

結局、今まで食べたことのないくらい柔らかくて美味しいお肉は一口だけ食べ、残りは(お行儀が悪いが)宮城さんに食べてもらった。

「今まで食べた肉の中で一番美味しいかもしれない」
宮城さんは意図せず意地悪なセリフを私に寄越した。

だがしかし、満足だ。
料理も、スタッフも、空間も、すべて私の想像を遥かに越えていて、大満足だ。
お姫様にでもなった気分だ。

別腹を起動させてデザートを堪能していた私は、背後に人が立っていることに、なかなか気が付かなかった。

宮城さんに促されて、ふと振り返る。
そこには爽やかなグッド・ルッキング・ガイが私を見つめていた。

執事かな?そんなわけない…スタッフだ。

あれだ、食事が終わったタイミングで怒りに来たんだ。
スニーカーの件だろうか。
いや、お行儀が悪かったメインディッシュ横流しの件だろうか…。

ふと気が付くと大勢いた周りのお客はいつの間にか帰ったようで、私たちともう一組しかいなかった。

…あっ、閉店の時間か!ラストオーダーか!
と早合点した私に、スタッフは最高の笑みでこう言った。

「お食事、いかがでしたか?当店はレストランウェディングもやっておりまして、もし、この後お時間がよろしければ見学ができるのですが、いかがですか」

…oh、藪からスティック。
今の私には願ったり叶ったり。

宮城さんが微笑みながら、
「ですって。どうす…」

どうする?の“る”を待たずして、

私は『お願いします!』と元気よく応えた。

結婚をイメージしてもらって、半年後には確実に、プロポーズしてもらおう。

お腹がいっぱいで何も知らない呑気な私の頭は、そんなことをグルグルと考えていた。

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