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バカマジメな私が逆ナンで結婚した話♯15

私の29歳の誕生日が来た。

誕生日に、夜景の見えるレストランで、プロポーズ。
悪くない。むしろベタなくらいが、すごくいい。

そんなことを妄想していたら、あっという間に誕生日が過ぎた。

え、過ぎちゃった?杉田玄白?解体新書?と面白くないジョークを言えちゃうくらいに何事もなく過ぎた。

誕生日のささやかなお祝いはあった。
プロポーズはなかった。

それも、そのはず。
まだ交際して半年しか経っていないのだ。

結婚はタイミング。
急ぐものでも急かすものでもない。

だがしかし、この誕生日を逃すと、プロポーズのタイミングは…彼の誕生日?交際1年の日?いや、クリスマスか?

どれも半年以上先の話になる。

ほぼ毎日宮城さんと一緒にいるが、飽きなかった。
私は勝手に、もう結婚するものだと思っていた。

『あー、早くて半年先かー』
結婚するのであれば、早いほうがいい。
善は急げ、というじゃないか。 

いっそ私からプロポーズするのもアリかもしれない。

そんなことを考えながら季節は夏になろうとしていた。
私の誕生日から1ヶ月が経つ頃、宮城さんは改まってこう言った。

『あのさ、食事、行ってみたいところがあるんだ。誕生日、ちゃんとお祝いできなかったし。』

女の勘が働いた。

『食事しに行くの?ドレスコードは?』

「ドレスコードはないところ」

ドレスコード、ない場所のか。
プロポーズじゃないな。
さっそく勘は、はずれた。

最初こそヒールを履いてデートをしていたが、今は専らスニーカーしか履かなくなっていた。

宮城さんは、よく歩く人だった。
六本木から渋谷。
新宿から三軒茶屋。
新宿三丁目から九段下。

ヒールでは何回休憩を入れても足がもたない。

私は身長152センチの、悲しいかな、寸胴体型。

スニーカーを履くと楽でどこにも行けるような気分になるし、宮城さんとのデートも問題なく散歩できるが、見た目のちんちくりんが際立ってしまう。

なので、スニーカーはドレスコードがあるようなところではNGだ。ドレスコードがなくても、そこそこ素敵な場所で食事するとなると確実に浮いた存在となる。

なのに、宮城さんは食事の場所を教えてくれなかった。
教えてくれないだなんてこと、今までなかったのに。とても不安だ。

『ドレスコード、ないんだよね?』

「ないよ」

しつこいのもよくないな。
私はそう思い、当日を楽しみにすることにした。


当日、宮城さんは、まさかのオシャレタウン、東京は青山に私を連れて行った。

青山なんて、ヒール履いてないアラサー女なんて狩られるんじゃないの?と思うほど洗練されたオシャレたちが、集まる場所だ。

そこそこキレイめな服装で来たものの、食事後に歩くかもしれないので、しっかりスニーカーを履いてきた。

『青山の土地はスニーカーの私を受け入れてくれるのだろうか…』

そんなイケてない田舎者のアラサーは、宮城さんに連れられて、住宅街へと案内された。

たどり着いた大きな庭のある家は、どうやらレストランらしかった。
重そうな扉の前でパリッとした服装のウェイターが笑顔を見せている。

『スニーカー、だめなやつやん…』

しつこくても聞いておくべきだったのだ。
やはり女の勘は当たる。



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