バカマジメな私が逆ナンで結婚した話♯17
私たちは2階へ案内された。
エレベーターを降りると、結婚式でよく見かけるボードや綺麗な花々が装飾されており、これが私の気分を一層高揚させた。
「こちらが花嫁の衣装室になります」
案内された部屋には綺麗なウェディングドレスが飾られている。結婚式直前の緊張感が伝わる、そんな部屋だった。
いい。実にいい。
結婚式がこんなに具体的にイメージできること、ある?
今までブライダルフェアにデートで行くことを考えなかったかと言われれば嘘になる。
むしろ、考えた。とても、考えた。
だけど、プロポーズもされていないのにブライダルフェアへ行く。
うまくいけば結婚にグッと近づくが、一歩間違えば結婚に焦る必死なアラサーの私が垣間見え、破局となるに違いない。
大博打だ。ざわざわ、私はカイジにはなれない。
「こちらはレストルームになります」
トイレのはずなのに、花びらの敷き詰められた風呂が、そこにあった。オブジェにしてるらしい。
大邸宅をレストランに改築したと先程説明されたが、風呂をオブジェにするなんて青山の地は発想が斜め上をいっている。
私なら使わないお風呂なんて真っ先にぶっ壊して、もう1つ便器をこしらえるのに、などと考えながら
『すごいオシャレですね』
とスタッフに伝える。
宮城さんはニコニコと案内されている。
私は宮城さんの反応を冷静に確認したいはずなのに、この雰囲気に興奮してしまい、自分でもひく程はしゃいでいる。
「こちらの部屋はゲストの控え部屋にしたり、両家顔合わせの食事会に使われることもあります」
バーカウンターもある大きめの部屋の小窓から、大きな煌めくシャンデリアが見えた。先程食事していた部屋のシャンデリアらしかった。
キラキラと輝くシャンデリアを見つめながら、なんだか結婚っていいものかもなとぼんやり考えた。
自分に課してしまった“30歳までに結婚する”という義務のような結婚ではなく、宮城さんとなら純粋に人生の節目を祝う結婚ができそうだと思った。
『シャンデリアですね』
とスタッフに伝える。
この状況に興奮している私はいつも以上に語彙力を失っていた。
部屋を出ると、今度は突き当たりの部屋に案内された。大きな扉が私たちを迎える。
「ここが教会です」
扉を開けると神々しい光に包まれた。
「どうぞ、中まで見学ください。せっかくですから写真を撮りましょう。今、カメラを持ってきますから待っててくださいね」
スタッフの言葉を全て聞き終わる前に、落ち着きのないアラサーは結婚を誓い合う聖書台の前まで駆け寄った。
台上にはハートのリングクッションや羽の先がペンになっている、いかにもなグッズたちが置かれている。
『ねぇ!宮城さん!!見て見て!これ…』
興奮しながら宮城さんの方を振り返った瞬間だった。
…謀ったな、スタッフ!
とガンダムのガルマの如く私は心の中で叫んだ。
ものの数分の間のことだった。
全開に開いていた大きな扉は閉められ、イケメンスタッフは姿を消していた。
そして、この空間には二人きり。
宮城さんは振り返った私の真正面に立ち、何やら手元に手紙のようなものを持っている。
これは、ただの偶然に始まった式場見学ではなかった。
最初から、仕組まれたものだったのだ。
そして、私の勘が正しければ…そう、これは、この状況は、うん、プロポーズだ。
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