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科学コミュニケーションと「いんよう!」の紹介

科学コミュニケーターになるべく活動しています。
元生物系の研究者です。
2021年3月まで東京大学で働いていました。

世間にはすでに多くの方が、科学や科学技術について広める役割をはたしています。
新聞社やジャーナリストには科学やテクノロジーを専門にされている方もいますし、大学や研究所には現役で研究をされながら、本や講演、SNSなどで最新の科学について発表されている方もいます。
とくに最近は医療関係の膨大な情報がネットを中心に出回っていて、質はともかく量だけを見ればすでに飽和状態、必要分を上回っているかもしれません。
こうした、社会や生活に関係する科学ニュースや情報は、すべての人にとってとても大切なことで、なにより先に届けられるべきです。

しかし、私はすこしちがうことをしたいのです。
同じ科学コミュニケーションでも生活に直結しないものを伝えたいと考えています。
科学はそもそも役にたたないものです。
それが産業革命以降、科学をもとにした技術やサービスが生み出され、資本主義と二人三脚で文明の発展に寄与してきました。
主にエンジニアリングや応用研究といった分野です。
しかしながらそのベースには、これがいったい何の役に立つのか?と思う基礎研究が、膨大な量、存在しています。
よく例に出されるのは、量子力学や相対性理論でしょうか。
量子力学は今のコンピューターを作るための基となった理論の一つですし、相対性理論はGPSが高い精度で機能するのに必須です。
しかし100年ほど前、これらの理論が生まれたころ、二つともまったく役に立たないものでした。
基礎科学を躍進させる素晴らしい研究として評価され、ノーベル賞を与えられていますが、しかしそれは知的世界での栄誉であって社会や生活に貢献したから与えられたわけではありません。

基礎科学は文化だと思います。
基礎科学が盛んであることは、経済的に豊かで文明の発展に寄与する国であることを示しています。
そして、膨大な基礎科学のなかの、ほんの一握りの成果から、社会を変えるような、生活を便利にするような、人の命を救うような技術が生まれます。
それも、何年後、何十年後かの話です。
とても息の長い、ムダの多い話です。

私は、科学と社会の関係のうち、文化としての側面を伝えたいと思っています。
大層な話になってしまいましたが、要は「科学って楽しいよ」ということが伝えたいのです。
そのためには、話しているこちらが楽しくなくてはいけません。
「よくわからないけど、ともかく楽しそうに話しているから聞いてやろうか」と思ってもらえるような音声や記事を作りたい。そういうモチベーションです。
ただ楽しいから話しているだけで、その言いわけをしているだけなのですが。


以下、活動内容です。

いんよう!
科学にかんすることをいかに楽しく伝えられるか試すために、病理医ヤンデルの名前でお馴染みの市原真(いっちー)と一緒にPodcast『いんよう!』を配信しています。

Spotify

(iTunesはこちら

基本は科学周りのことですが、しばしば楽しくなりすぎて関係ないことを話しています。でもそれも含めてコミュニケーションだと思っています。

最近は、いんよう!のYouTubeチャンネルを作り、月水金の朝から「科学ニュース雑談」と称して、最新の科学ニュースを紹介しつつ自分なりの感想を話すライブ配信をしています。


note
毎週金曜日にnoteを更新。
研究者をやっていたときに日々、考えていたことや、最近の科学トピックと関連して思ったことなどを記事にしています。
時々、科学とは関係ないnoteもあげていますが、科学的知識をからめて見た世界を書きたいことにかわりはありません。
それぞれの仕事や趣味や、なにかしらの深みにハマっている人には、その知識や経験からくる独特の世界の見え方があります。
絵のうまい人はおどろくほど具体的に、視界にうつる映像を捉えていますし、そこから特徴を抜き出すセンスが、他のひととはちがっているでしょう。
プロのアスリートは、人間の体を動かすことについて我々とはまったくちがう感覚をもっているにちがいありません。
それと同じで、研究者には自分の専門に応じて見えている世界があると思います。
その感覚をことばにしていきたいと考えています。
記事の内容を充実させられるように頑張りますので、暇なときに覗きにきていただけると嬉しいです。

気軽に読めるエッセイみたいなものが書けるといいな。


『まちカドかがく』
市原 真(著)サンキュータツオ(著)牧野 曜(著)
発行:ネコノス
定価 1,700円+税
ISBN978-4-9910614-6-2
版元ドットコム
ネコノス通販サイト
Amazon

まちカドかがく文庫表紙

元々、いんよう!の同人誌として発行したものを浅生鴨さんが文庫として出版してくれました。
なんて奇特な人でしょう。
小説2本と論考が1本、あともろもろ収録されています。

『ブラーファ少女とクローラガール』(牧野曜)
生命科学系のSF小説です。登場人物はほぼ女性、中でも主人公の薫子は冷静でゴリゴリに理屈っぽい人なので書いていて楽しかったです。
ブラーファという、神経ネットワークと交信するAIが出てきたり、クローラと呼ばれる、進歩したクローン技術をつかって生まれてきた少女が出てきたりします。
校閲でめっちゃ直されて明らかに良くなりました。プロってすごいなー!
文庫用に追加でSSを2本、書きましたので、同人誌をもっているよという方もぜひ。

『Fixed Fiction Plot Embedded』市原真(病理医ヤンデル)
ヤンデル先生は、病理の教科書や一般向けの本を何冊も書いていますが、小説はこれが初めて。
私小説的にはじまるくせに途中で世界が歪む感触が食べ飽きないのでぜひ読んでみてください。
同人誌のときは横書きだったのが縦書きになり、雰囲気のちがう読み味になりました。個人的には縦書きのほうが好き。

『POISON GIRL BAND研究』サンキュータツオ
M-1の決勝にも進出した漫才コンビ、POISON GIRL BANDについての、10万字超えの考察。
これを書けるのは間違いなく世界でタツオさん一人だけです。
日本語学者の透徹した視線と、演者としての情念が自然と両立している。
ぐいぐい引っ張られるようにページをめくってしまいます。
研究者としては、オリジナリティーの塊みたいな内容に憧れます。

『ノイマン・ランド』
浅生鴨さんによる前文。
これだけでも本を買う価値があると思わせてくれる文章です。
ばらばらに書いた三人の文章の共通点と個性をみごとに表現してくださり、本に芯がとおりました。
独立したエッセイとしても秀逸。

鼎談
同人誌版には、私、ヤンデル先生、サンキュータツオさんの三人による鼎談が収録されていました。
文庫化するにあたってあらたに鼎談を行い、掲載しました。
同人誌版とはまたちがう雰囲気で話していますのでお楽しみに。
ちなみに前回の鼎談は同人誌だけの特典なので今回は掲載されません、悪しからず。

表紙イラスト
よなかくんが文庫用に新しく表紙イラストを描いてくれました。
よく見ると、科学的なモチーフがいたるところにちりばめられています。
科学的な視線がうまくイラストに埋め込まれているのを見たとき、「こういうのが描きたかったんや!」って思いました。
自分で絵が描けたら、とこれほど思ったのは人生で3回目くらいです。
埋め込まれたモチーフについては本の末尾に解説があります。

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