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ゲシュタルト崩壊につける薬

建物が、なかった。
「解体予定」の貼り紙を、見るともなしに見ていた。
少し、死にたかった。

私の世界は壊れていくことがある。
膨大な線と線との交わりと組み合わせが、私の世界を構築している。
それが徐々に全体性を失い、意味を喪失していく。
そういう、発作だ。

崩壊してゆく世界を手繰りよせようとして、私は必死に手を伸ばす。
無駄な努力だ。世界は無慈悲に崩れて壊れる。
くずれてこわれる。
kずれtkわrer う.

ああそうそう、『アイ・アム・ア・ヒーロー』。
僕はね、ゾンビ系が徹底的に駄目なのです。だから読めないし全然ね、観られないの。
でもそう、知っている。アイアムアヒーロー。あの感染者が見ているであろう世界は、

 私の、壊れていく世界。

世界から見たらきっと、僕が壊れているのだろうと思うんだ。
それでいいの。
世界には、強くあってほしいから。
そうでしょう。ねえ。そうだよね?そう思うでしょう?

ゲシュタルト崩壊、というらしい。
過度な集中状態に陥ることがよくある。
過集中が部分への凝視になっていき、やがて全体性、意味が失われていく。
世界が崩壊していく。

これへの対処は私の場合、「絵」である。
「はじまった」ということに、できるだけ早く、スケッチブックと鉛筆(これに備えて予め用意してある)に辿り着けるうちに気づくことさえできれば、数十分で、自力で、無傷で、崩壊を解除することができる。
鉛筆を握った手と脳が勝手に絵を描いていく。絵と呼べるほどのものではない。図形に近いこともある。
意味も勝手に湧いて出る。
Automaticに出来上がったものに、Automaticに出てきた意味を与える(去勢、凌辱、そういうものが今のところ多い)。タイトルと年月日、署名をつける。
掌サイズの全体性の構築。
ここから、再び私の意味が、世界が、組みあがる。

意味の崩壊と再生、そんな大層な話じゃない。
ゲシュタルト崩壊の発作に、今のところ私の場合絵が効いている。
それだけのことだ。

なのに、解体された建物のあった更地を目にして、今少し動揺している。

「死にたい」って、どういう意味だったっけ。

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