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解離性同一性障害と診断されています。日々の思索、気づいたこと、自身の主観的な「解離」の…

A.

解離性同一性障害と診断されています。日々の思索、気づいたこと、自身の主観的な「解離」の体験について書いてみようと思います。

最近の記事

見失われたマトリョシカ

この人生はそういう人生なので傷をひとつひとつ数えたりなんかしてられないんだけどそれでもときどきぼんやり考えてしまう。 毎回同じ手順で言われた通りにして全部一緒で、くだらないし虚しいし、べつにだから見つけてほしいとか思わなくなっていた。 あのときもそのまま死ぬなら死んでたんだろうけどそれもどうでもよかった。 意識とは別の層でそんな場面が際限なく上映されていることに気づくけれど痛みの層はさらにその後方ににあってエンドレス上映の背景でエンドレス上映、その背後でエンドレス上映、

    • キミドリの声(一)

      未明から、雨は強くなっていた。 雨粒がアスファルトを叩き、一瞬糸になってまたふくらんで、雷と共にたくさん降った。夕方には川が氾濫し、道路はあっというまに水をかぶり、車を捨てて逃げようとする運転手を容赦なく押し流した。それは本当に記録的な大雨だった。 唄子は雨を窓越しに見つめていた。 ガラス窓は丁寧に磨かれており、唄子はまばたきもせずに、ただ一心に雨を見据えていた。彼女はなにも考えていないのかもしれなかった。ただ雨をながめているだけなのかもしれなかった。けれど、ただ景色をなが

      • 砕かれる波のまにまに

        記憶が飛ぶ。私は何かを探している。わからない。わからないまますぐにもう数時間が過ぎている。朝だ、と思うと夜だ。夜だと思うと昼だ。今がいつなのか、だからいつでも私はもぬけの殻だ。 静かで冷たい水。水の中でスツールに座っている。 地下。地下の隔てられた水槽の夢。夢を思い出す。忘れる。忘れている、ということを忘れる。夜が来る。やがて夜が明けて、また夜が来る。まだ生きている。わからない。死んでいるのかもしれない。 いつのことだったか正確には思い出せない。 海に出た、と君が言う。

        • 水の中で息をする(※性虐待の描写あり)

          先週の診察室は半分よりも少しだけ憶えてる。 なんの感情もない。ただそこにある視覚と感触と味覚、においはない、色と空気、水、音、声、ドア、トイレ、水、にく、ひふの感触、そういう風景をそのまましゃべっただけ。 幼児がトイレにつかまってにくのかたまりをくちに突っ込まれている。つかまりだちをしていた時期です。私は発達が遅かった可能性もありますけど。 バランスを崩して、ぐるんて天地が返って、トイレに顔を突っ込んだのだけれど主観としてはトイレの底が天井になったわけですよね。それで自由

        見失われたマトリョシカ

          いつまでの尊厳

          君には他の人と同じように尊厳がある。過剰適応は尊厳の否定につながると唐突に気がついたから春から拗れていた関係を真っ直ぐに戻してときはなつ。 暴露療法と心理教育を合わせて120分程度の診療を毎週おこなっている。再体験と人格交代、心理教育、処方はコンサータ、サインバルタ、ジェイゾロフト、エビリファイ、ロゼレム、マイスリー。 お前の存在は墮胎できなかった物体にすぎない。他人に迷惑かけるなら早く死んで。泥人形。さっさと死ね。タオルは真っ赤でこの子はもう駄目だと思った。見捨てた。駄目だ

          いつまでの尊厳

          黒くない影と眠くない死体

          ぶわりと持ち上がる衝動に先駆ける幻覚は死体。 老女、中年女、少年、青白い透明感のない肌、艶のない髪、洗いすぎて色の抜けかかったシャツとズボン、決して黒ではなく、黒い影が視界の端にだとか後ろにいるだとか気配だとか、そんな生易しいものではもはやない。 安っぽい色が現実味を帯びて視野ぎりぎりに立つ、覗きこむ、膝の上に横たわっていることもある。 悲鳴をあげてもおかしくない状況なのに「悲鳴をあげてもおかしくない状況であるなあ」と俯瞰して感想を述べている。 誰に? 甘ったるいカフェイン

          黒くない影と眠くない死体

          "It's NOT your fault."

          彼は全てをなかったことにしようとしているんですよ。 呟いて顔をあげると、医師が私を見ていた。 そう、なかったことにしようとしていたのは君の父親だ。だけど君も、君は、全てをなかったことにしようとしていたんだよ。覚えている? そうだった。私はすべてをなかったことにして、私が悪いんです私は勝手に壊れたんですと訴えてきたのだった。迫害者(仮にそう呼ぶ)の意図を私の意図として取り込んでいた。そしてたぶん今日、迫害者の意図を切り分けることができた。そういう成果。そのことが、とてもうれし

          "It's NOT your fault."

          ルールはひとつだけ(※性被害の描写あり※)

          じゃあ君は暴力を許容するわけか、それは許すというよりむしろ肯定だな。 医師の静かな指摘だった。 アルコール依存症の母、ギャンブルに目が潰れた母、性に依存した母、カルトに嵌りこんだ母を、私は救いたいと思ってきた。今からもし時をさかのぼって救えるなら、毎朝掃除機で血まみれにされる女の子じゃなく、母を救いたいと言った。だって憐れじゃないですか、と言った。医師は同調せず、冒頭のように述べた。 医師は続けた。君は君の大切な人が暴力にさらされても許すのか。暴力をふるう方を助けたいと思うの

          ルールはひとつだけ(※性被害の描写あり※)

          燻るソブラニーの記憶

          閉鎖病棟の喫煙室は、教室の女子グループがそのままここに持ち込まれたような気がして、嫌いだった。 60分/日の自由時間に許されていたことは、喫煙室とナース室の間の狭い通路をぬけて、無害な図書閲覧室に逃げ込むことだけだった。図書室には、害のない古ぼけた童話の文庫本、それとページが検閲されて薄くなった新聞しかなかった。自分の本を持ち込むことは許されていなかった。私の好きな本には角があったし、硬かったり重たかったりした。 廊下ではたくさんの大人たちが延々と無表情に歩き続けていた。彼

          燻るソブラニーの記憶

          透明な鬼の手(※虐待の描写あり)

          障害者手帳の更新手続きをしている。2年ぶりの診断書に、大きな変更はない。多重人格障害。抑鬱状態。頻繁な人格交代、全身の慢性的な疼痛、頻繁な自傷行為、自殺企図、多彩な転換症状。解離に焦点を当てた精神療法。いくつかの薬の名前。医師のサイン。割印、左上に私の名前、戸籍の名前。遠い響き。主観的な体験、私の体感とはすべてがとても遠い。 書けるときに書いておく。何の価値も別にない。誰に伝えたいわけでもない。ただ、この気味の悪い無感覚、効きすぎた局所麻酔のようなものを、見てわかるかたちある

          透明な鬼の手(※虐待の描写あり)

          「日常」という幻想(※性被害の描写あり※)

          子供の頃、死が怖かった。 犬を散歩しながら、一心に祈った。 おばあちゃんが死にませんように。おかあさんが死にませんように。先生が死にませんように。○○ちゃんが死にませんように。△△ちゃんが死にませんように。死にませんように。死にませんように。死にませんように。 私は誰にも死んでほしくなかった。だから強迫的に祈った。死にませんように、を言い忘れたら、その人が死んでしまうような気がして、私が殺してしまうようで恐ろしかった。 どうしてそんなに怖かったのだろう。 私は日常を守ろう

          「日常」という幻想(※性被害の描写あり※)

          雑感、寝ざめの悪い夢

          夢の中で目覚めるのはいつも同じ町だ。 信号機、コンビニ、クリーニング店、床屋、回転寿司。ひび割れたアスファルト。色褪せた空気、子供の遠い歓声と埃の臭い。 ああまたここか。 思考に温度がない。感情に湿気がない。 いつものことだ。 駅まで歩く。 誰にも会わない。季節は秋、9月。自分はそれを知っている。自分が知っていることを知っている。既視感だけで埋め尽くされた町。諦念。無力感。 駅の階段を昇って、また下りる。 唐突に広がる俯瞰された町の違和感。違和感もしかしまた既視感の内側にある

          雑感、寝ざめの悪い夢

          思い出せる夜のfragment(※虐待の描写あり※)

          過去は、断片のつぎはぎだ。断片同士の矛盾もある。 私は、私の親が「毒親」だと思ったこともないし、ましてそのように語ったこともない。 彼や彼女が何に取り憑かれて苦しんでいたのか、それを知ろうと努力していた時期はあった。でもそれだけだ。 掃除機やスツールで骨が砕けるまで殴るのも、血が止まらない私の体を抱き寄せて「愛してる」と涙声で頬ずりするのも、衣服を脱がせて「異常な接触」を望むのも、彼女だ。 ある場面。 小学校に上がる前、数人の児童に石を投げつけられて帰宅した際に、彼女に抱き

          思い出せる夜のfragment(※虐待の描写あり※)

          生⇔死への欲動

          ――フロイトに言わせれば死の欲動とでもいうのか、しかし今の君に言ってみたって何の役にも立たんな。 診察の冒頭で、1週間でほぼ毎日の手首自傷と2度の自殺企図があったことを報告すると、医師は独り言をいって腕を組み、考え込む姿勢をとった。 ――君らがそこまでしてそもそも何をしようとしていたのかを思い出せよ。 首をかしげて黙っていると、「生き延びようとしたんだろうに。ってそれも本人に言ったってだめだな」とぼやいて、さて、と向き直った。 本来生存のために構築されてきたシステムが、「生

          生⇔死への欲動

          がん細胞≒(≠)「交代人格」

          私にとって、彼や彼女は、必ず「外」から来る他者だった。 別の世界から訪れる見知らぬ何者かであり、接点もなければ会話もなく、私となにがしかの関係があるとさえ思えず、同じ世界を生きるまったくの他人よりもさらに遠い他者であり、少なくともそれは、よくいう「もうひとりの私」あるいは「私の中に誰かいる」という体験ではなかった。 「なかった」。 ない、断じてない、とこれまでは言えた。 実際には自覚がなかっただけだろう。数年前にもその前にも、現象そのものの痕跡は残っている。 だから医師は「

          がん細胞≒(≠)「交代人格」

          requiem♯001

          この2ヶ月程度におきた体験を文章にまとめる作業が進まない。(C) (1)断片. type-A 体の声に耳を傾ける、ということを続けてきた。 その結果、体に翻弄されてしまった。 私の体なのに、私の所有権をなんだか知らない獣のようなモノに蹂躙された。 人間の自然とは、感じるままということではない。 人間は直感で感じたまま朦朧と行動すると、人生の主導権をいつのまにか闇に支配される。迷ういきものなのだ。 だから、理性、インストールされた理性を参照し、実践する。 科学を知り、そしてそ

          requiem♯001