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短編小説 ほれ薬4 

つづき

そのまんま麻里にパッとあげてみたらどうだろう。彼女は素直に信じて上司が帰ったらすぐ、利用してみるに違いない。
わたしはここから言の成り行きを見ていればいいんだから薬が効いたかどうか分かる。
だけど岡山くんがこれを飲んで死んじゃったら、わたしが殺人犯になっちゃう。
それより麻里が疑われるかも。麻里、わたしに貰ったって警察に言うかしら。言うに決まってる。そしたら署まで来てもらいましょうなどと言われ、すごい取り調べを受けて、わたしが岡山くんを殺す理由なんかないって言っても信じてもらえなくて、わたしが殺しましたなって言わされちゃうのかしら。
でもそんなことないだろう。だってあのおじいさんとってもやさしそうだったし。ちょっと不気味だったけど、でもあんな人が人殺しをするようには思えない。殺そうとしたのなら薬をもらったわたしが標的だったのか? そんなことはない、なんとなくそんな確信が持てた時、麻里を探すと
「麻里・・・」
どこかに行ってしまっていた。岡山くんの方を見ると麻里が何やら話しかけている。上司が帰ったらしい。岡山くんも麻里の冗談に笑っている。
わたしはポケットの中からその粒を取り出して、手の平の上に乗せた。
その時、自分に使ってみたらどうだろう。そんなことを考えてみた。誰か適当な男に。
そう思って辺りを見回してみる。
すると、ここにいる美しい女に向かってサラリーマン風の男がやって来た。どうもわたしのタイプではない。
「ねえ、ひとり?」
男は訊いてきた。
こんな男に飲ませてつきまとわれてもちょっと困る。
「お友達といっしょなの」
わたしはグラスを持って麻里たちのテーブルに移った。
男は「なんだこいつ」という顔で引き返して行った。
麻里たちを邪魔するつもりは全然なかったのが、テーブルに就くと麻里が「邪魔しないでよ」と目配せして来た。わたしは岡山くんには興味がないからと目で返した。
麻里に分ったのかどうか、とにかく岡山くんは女性が増えたことを歓迎したようだ。
ちょっと麻里が不満そうな口調で話の続きを始めたので、わたしは酔ったふりをして話には加わらないことにした。
手にはキャンディーを握り、麻里たちのおしゃべりに耳を傾けていた。何だかほとんどさっきわたしと話していた内容と同じだった。岡山くんは楽しんでいて麻里にまんざらでもなさそう。
手の中のキャンディーはきっと手の中で溶けてべとべとになっているに違いない。もう人に試す状態ではないだろう。そっと手の平を見た。そっと包みをひらくと溶けてはいなかった。粒はしっかりしていて、まるで小さな水晶のようだった。
ちょっとかじったらどんな感じか試してみたくなった。かじれるかしら。おいしいかも知れない。でも堅そうだ。麻里たちは話に夢中でこちらに関心を向けない。
「ねえ、君ひとり?」
またか、そう思って見るとさっき話しかけて来た男がわたしにではなく他の女に声をかけている。その女も相手にしていないらしい。まだ男はその女に話している。
そのうちにどこからか他の女が現れ、その男を呼びとめた。男は気まずそうに
「ここに来ると思ってずっと待ってたんだよ」
女は男の手をむんずと掴んで店を出て行った。
バーの中は人はまばらで、わたしたちのグループ以外みんな帰ってしまったみたいだった。宵の口なのに。

つづく



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