映画「浮城」

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2020年6月30日、香港では「国家安全法」という名の香港版治安維持法が中国政府によって一方的に採決され、翌7月1日より施行。
23年前のこの日、香港は宗主国のイギリスから、元々の国家・中華人民共和国に主権が移された香港にとっては「忌まわしい日」。
中国にとっては「おめでたい日」。

今年はとても静かに、この一日を眺めていた。
というよりは、抗うことができない無力感といったほうが正しいかな。

夜、どうしても映画が見たかった。
「クンドゥン」などチベットに関する映画がよかったのだが、
AmazonPrimeがお勧めしてくれたのが、こちら。

2012年の香港映画「浮城(英題:Floating City)」。
1940年代から香港返還までを、一人の混血児を通して香港の歴史が垣間見れる作品。
しかも蜑家(だんがー:「蛋家」とも。水上生活者のこと)を通して、海(水上生活者)側から陸(陸上生活者)側の当時の香港を垣間見れるという貴重な作品。
文学的な作品だなぁと思っていたら、監督は厳浩(イム・ホー)監督。
派手な演出もなく、しっとりと鑑賞しました。

蜑家の生活も、伝統的な香港の一文化であり、とても懐かしかった。
昔の香港映画や、香港の歴史や文化を学ぶうえでもよく登場した蜑家。
大昔に香港に行ったことがある人から、蜑家に交渉して船に乗せてもらったとか、彼らの広東語は、香港の広東語とは全く違うとか、いろいろ聞いたことがあった。

香港の地図を見ると、今も油麻地辺りに「避風塘」がある。
政府が蜑家のために、台風からの避難地域を設けた場所で、それぐらいポピュラーだった。
新中国成立後の中国からの不法越境者や、1970年代のベトナムからの不法入国者の受け入れ先にもなり、それらを題材にした香港映画があるぐらい。
しかし、1970年代以降、政府による定住化が進み、ほとんどいなくなってしまったそうだ。

今一度、こちらの本で学び直そうっと。

蜑家のこと、蜑家の歴史も含めて、すべてを含めて香港。
今、消えゆく蜑家のことを考えていたら、これからの香港も同じように思えてきて、辛い。
恐らく数年後には、ほかの中国の何の変哲も特徴もない、画一化したつまらない「中国の一都市」と同じような「香港特別行政区」になってしまうのだろう。
とても悲しく、辛い。

1997年7月1日、香港という魅力的な都市は繁栄に終わりを告げ、
2020年7月1日、香港はとうとう死んでしまったのだろうか。
私はこれから香港に行くことはあるのだろうか。
ドキドキ、ワクワクするような楽しみがない所に、行く必要もなくなるのだろうか。



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