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なぜ労働条件の一方的な通知で労働者を雇用することができるのか

労働基準法15条1項は、労働契約の締結の際に、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示することを使用者に義務付けています。
明示すべき労働条件は、いかなる場合でも明示が義務付けられる事項(絶対的明示事項)と、それ以外で個別に取り決めた場合に明示が義務付けられる事項(相対的明示事項)に分かれます。
そして、絶対的明示事項は、昇給に関する事項を除き、原則として書面(労働条件通知書)により労働者に明示しなければならないとされています。

一方、雇用契約書とは、使用者と労働者との間に成立した雇用契約の内容を記したものであり、「労務の提供」と「報酬の支払い」につき労働者と使用者の間に合意がなされたこと(民法623条)を証する書面として機能します。

雇用契約は「労務の提供」と「報酬の支払い」に関して意思の合致をみれば、口頭で成立するものであり、雇用契約書の作成は法律上義務付けられていない点において(労契法4条2項)、原則として書面による明示が義務付けられている労働条件通知書とは異なります。

両者は文書の内容が当事者の合意を表すか否かという点で大きく異なります。

このようにご説明させて頂くと、何故、当事者の合意を表すものではない「労働条件通知書」による一方的な明示をもって、労働者を使用者の指揮命令の下で労働させることが出来るのかとの疑問に思われる方がいらっしゃいますが、会社から求職者に対し予め労働条件を明示した上で求職者が当該会社で実就業を開始した場合、求職者は当該就業条件を承知の上で労使関係に入った(即ち、労使関係が成立している)と見做す事が出来るからです。
この場合、労使関係の成立のタイミングは労働条件の明示に対し合意の意思が示される等が無かった場合、求職者が現に就業を開始した際と考えられるでしょう。

つまり、労働条件通知書のみで雇用関係を成立させる場合、「就業開始前に本人に現に明示したかどうか」が非常に重要になります。
仮に労働条件の合意について労使間で争われた場合、使用者が通知書の有効性を主張したい場合には、通知書(労働者が希望した場合には、FAXやメール等によることも可能)の交付時期と明示内容の事実を何等かの証憑等をもって立証することを求められる場合があります。

従って、実務においては「雇用契約書 兼 労働条件通知書」として契約書形式で求職者の署名合意を取得することで労使関係に入った方が労基法に基づく明示の事実は確実ですし、民事で合意の根拠となる証憑として主張する場合にも信頼性は高く評価されるものと考えられる為、ご推奨させて頂きます。

三浦 裕樹/MIURA,Yūki  

Ⓒ Yodogawa Labor Management Society


社会保険労務士法人 淀川労務協会



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