弁護士からのタイムカード等の提出要請に素直に応ずるべきか?
元従業員から委任を受けた代理人であるとして弁護士等から内容証明等の書面が届き、次のような書類の提出を請求されることがあります。
請求の根拠としては、「未払い賃金が発生しているため」とのみ記載され、「裁判手続きにおいて被告(使用者側)が争うのであれば、民事訴訟法220条、221条により主張立証責任の根拠としてどうせ提出しなければならないのだから、無用な手間を回避し紛争の早期解決を図るために最初から任意で提出しなさいよ」というのが言い分のようです。
確かに間違いではないのですが、これはまず、「建前」です。
メガファームの多くは「初回相談料無料」としています。
これは敷居を低くして案件を広く集め、その案件の中から弁護士にとって手間の割に高い報酬を見込める「美味しい案件」を取捨選別したい事にあります。
勿論、十分な書証を持参して相談に訪れる相談者ばかりなら良いのですが、通常は30分5,000円程度の相談料がかかるところ、無料の法律相談に訪れるような依頼人は、「何か会社に請求できるお金があるかもしれない」と、請求の趣旨が具体的でないまま、もしくは書証が不完全なまま、カジュアルに法律相談に訪れることが多いのでしょう。
メガファームも相談料を理由に躊躇っていた潜在顧客を顕在化していきたい訳ですから、そこは目論見通りという事になります。
一方で、弁護士としても1つ1つの案件を丁寧にヒアリングすれば手間と時間がかかって仕方ありません。
労働者は自分に都合よく解釈するものですから、後々、説明と事実が異なるという事も良くあります。
メガファームでは出来高で各弁護士の報酬が決められる事が多いですから、丁寧に時間をかけて話を聞いたけれどもお金にならなかったという事はなるべく避けなければなりません。
そこで、無料相談では話はそこそこにして深堀せず、上記のようなテンプレ文書をまずは使用者に送付し、使用者から提出された書証を精査して、正式に受任するか、もしくは何か理由を付けて辞任するかを判断することになります。
受任する場合も、金額が大きく勝算が高い、もしくは金額が小さくても使用者側が弱腰で手間がかからないようであれば「積極的受任案件」となるでしょうし、そうでない場合には「消極的受任案件」として早期和解できなければ辞任というケースもあるでしょう。
労働者側も裁判を起こす場合には具体的な請求の原因を明示しなければなりません。
即ち、書証も何もなく請求の原因も具体的でないのであれば、使用者側が任意提出の要求に応じない場合、労働者側が裁判に持ち込めない(もしくは弁護士が辞任する)という事も起こります。
従って、このようなテンプレ文書には素直には応じず、一旦、次のように、応ずるでもなく、拒むでもない回答書を送付して、次の相手の出方の様子を見ることが考えられます。
勿論、拒めば裁判になることが確実で使用者側が不利な事案であれば、和解による早期解決のために素直に提出しておいた方が良いケースもあります。
このあたりの判断は、経験ですね。
少なくとも当たり前のように出す必要はないかと思います。
ご参考ください。
Ⓒ Yodogawa Labor Management Society
社会保険労務士法人 淀川労務協会
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