2020/10/17 「テネット」

原題:TENET
監督:クリストファー・ノーラン
脚本:クリストファー・ノーラン
キャスト:ジョン・デヴィット・ワシントン
     ロバート・パティンソン
     エリザベス・デビッキ


※ネタバレ多分してます。ノーラン監督の他の作品にも触れてます。


いやはや、ノーラン監督変態。好き。笑
ってことでいろいろ感想です。

まず面白かったってのは大前提であって、そこ省略していろいろ考えたことをぶちまけると、
まず前評判で言っているより難しくは感じなかったです。(これはノーラン映画見慣れてるかもしれない影響はあるかもだけど)

初見ですが、わりかし物語は把握できたし、逆行についても結構ついていけたので、そんなに言うほどかなあ?と思って観てました。
個人的に同監督の作品の中では「メメント」「インターステラー」のほうが難しいと感じています。
というのも、「メメント」は一番「テネット」の扱ってる時間の逆行に近い、時間の扱い方を編集によって行っているんですが、それはあくまで巡行する時間を、客観的に逆行させて観客に観せてるだけであって、物語自体は主観的だから、「テネット」よりも物語の本質が見辛くなってると思うんです。
それから「テネット」は物語の進行軸自体は巡行してるんですけど、「メメント」は物語の軸が逆行してるからコツを掴むまで、ん?ってなる。それが狙いでもあると思うんですが…。(主人公が信頼できない主人公であり、その主観性こそが作品の肝であるから)
あとは初期作品っていうのもあって単純に画での情報の見せ方がまだ今ほど上手くないってのもあると思う。

「インターステラー」は「テネット」と同じように専門用語がバンバン出てきます。それで「テネット」よりも厄介なのが、その専門用語が物語の展開に必要な情報だったりすること。だから頭パンクしそうになる。(あと結構前に観たからかもしれない。だから本来はもう一度観直さないとなんだけど、長いんだよなあw)

そういう意味で「テネット」は「メメント」と違って、時間の逆行を物理的ルールとして観客に共有することで、映画自体を客観視できる部分も増えたし、「インターステラー」とも異なり、超専門用語が物語の展開に直接絡んできたりしないから、ふわっとそういう物質かなんかあるのねーって流して観れる。
専門用語の件についていえば、例えばエントロピーの法則。
私、全く理解しないままで観ていたんですが、物語の展開を把握する上ではあまり重要ではなくて、それより回転ドアを抜けた先は物理法則も逆行している、文字通り時間を「逆行」している世界が広がっていて、その世界に居続けることで過去に遡っていけるっていう仕組みを把握することの方が大切。エントロピーが何なのか、分かってた方が逆行の仕組みがより分かって面白いけど、回転ドアが理解できてれば後半の展開とアクションには全然ついていけるので、専門用語が物語展開に絡んでくる「インターステラー」よりはわかり易いなあって思いました。(あくまで個人的な感想だけど)

ただSF映画やスパイ映画によく出てくるプルトニウムとか核兵器は分かってないとってとこはあると思います。
なんというかよく映画や物語で使われる素材みたいなもの。
例えば、タイムトラベルをして自分の両親の出会いを邪魔したら、自分の存在がなくなる(「テネット」の中では祖父殺しのパラドックスと説明されてる)とかそういうこともです。
てか書いてて思ったんですが、結局「Back to the future 」とやってることは同じで、規模とタイムトラベルの方法と未来を守る方法が違うだけなんですよね。
だから、あんまり難しい難しいと言わないで…と個人的には思ってますし、安易にネットの解説文読まない方が良いのではとも思います笑 なんか負けた気がするから笑(メメントは唯一、観たあとにネット考察に頼ってしまった作品…)

世間の予告や宣伝は難しさばっかり目立ってるように見えて、なんだかなあと思ってしまうんですよねえ苦笑 まあそれが集客する上での狙いでもあると思うんですけど…

話をテネットに戻して。
まあそんな感じでお話の展開としては、良い意味で予想ができて、ノーラン監督の張った伏線を回収しながら心地よく罠にハマっていった感じですw
空港に侵入した時、ニールが覆面を脱がせて、「あっ…」っていう顔をしてカットが切り替わったのも「なんかあるやろこれー…」って思ったし(だって大抵のアクション映画は敵を容赦なく倒すしさ)、カーチェイスの前の車に乗り込むシーンでもわざわざサイドミラーのカットが入って、そのサイドミラーがひび割れてるから「あーこれから逆行してる人たちに襲われるのかな?」って思っちゃったし…
その後、物語が進んでキャットが撃たれていざ主人公サイドが逆行するってなった時には、うわっ…あの時の覆面、自分たちなんやって気づいて、でも気づいたからといってそれは全然嫌な感じではなくて、むしろ観たいから胸熱でした…。もうその時点で物語が最初の方まで遡るんだろうなってのも同時に予想できたけど、嬉しい展開すぎて武者震いしまくりw

だって一本の映画の中で半分を折り返して、同じ時間を違う視点から見れるって物語構造として美しすぎないですか?

(余談ですが、伏線を拾うコツとして全てのカットに意味があると思って観ることだと思ってます。画面に映ってるもの全部に作り手は絶対に意味を込めてるはずで、逆に最後まで観て意味のないカットがあったら、それはまじで監督がやらかしてしまったか、観客がその意味に気づけてないだけかなと)

ただ個人的には物語の終わりがあのオペラハウスで逆行する武器を使ったところまで戻るのかと思ってしまったのですが、それは考えすぎだったみたいです…勝手にあれも主人公自身だったと予想してしまっていた。でもオペラハウスのシーンはもう一度観た時に再考察するべきですね。

ノーラン監督はもともと物語構造が劇内容より重くなる傾向がありますが、今回はよりそうだったと思います。
そして、そのおかげで超楽しめた部分もありましたが、映画としてどうなのか、という部分も同時にあったのではないかと…
例えば画作り。
スパイ映画の割にはスマートさやスピード感を感じなかったです。(でも本当「割には」って感じです)
「逆行」という要素以外は、意外と普通のリアルな行動だからかな…もちろんノーラン監督が現実との整合性にこだわりを持っているのは分かるんです。
ただ、それにしても画がなんか動かないというか、重いというか……文学的だなと思いました。

それから、物理的に重いIMAXカメラを使っているというのも少なからず関係していると思います。
こう、全体的に意外とベタっとした画だったなという印象。
ただIMAXの画角で観たらまた印象が変わるのかなって気もするので、今度絶対IMAXでもう一回観ます笑

IMAXカメラといえば「ダークナイト」が、ノーラン監督作品の中で初めて使用した、しかもアクションで使用した、というので有名ですけど、こちらも割りかし画というか、カメラ自体が動かない印象。
だから「テネット」でマイケル・ケインが出てきたところは、一瞬ダークナイトシリーズかと思っちゃいましたw(もしかしたら遊び心として本当にダークナイトに寄せてきてるのかもしれない。あのマイケル・ケインがテーブルに座ってるカットは周りの装飾や色味、それから構図が似過ぎてて笑ってしまいました)

まあ、つまり「テネット」は画の作り方では、ちょっと物足りない感じがしました。(特に前半。もしかしたらセリフの情報と画の情報のバランスが取れてなかったのかもしれない)
本当に優れた画作りって、もうそこにセリフが無くてもなぜか観れてしまうんですよね。ちょっと観ただけで、「これはやべえ」って分かる。
そういう意味でノーラン監督の画作りで興奮したのはやっぱり「インセプション」と「ダンケルク」ですかね…特に「ダンケルク」は本当に画にこだわってた印象がある。(まあ画作りという点でみて、本当に好きな監督は他にもいるんですけど)

それからもう一つ気になったのは、劇人物が深堀できない問題。
これは世界観の設定を複雑にすればするほど起こる問題だと思ってるんですが(かく言う私もよくそのことを指摘される)、観客にその世界のルールを説明するのにどうしても時間を取られてしまうので、その分、人物描写に当てる時間が省かれてしまいがちです…。
今回は名もなき主人公(The Protagonist)だったわけだから、それはそれで成り立ってるのかもしれないけど…ニールやキャットが人間味出てた分ちょっと味気なく感じたのかもしれません。

SF映画って世界観の説明をどれだけスマートに分かりやすく説明するかがキーになってくると思うんですが、そこら辺はキャメロン監督、スピルバーグ監督は上手よなあって思ったりします。上手いというか、いつのまにか説明されてる。
ノーラン監督も上手じゃないわけじゃないけど、アクションと説明が解離しがちかも…。そこがなんとなく文学っぽい香りを漂わせてるのかもしれないです。

あ、でも「テネット」の中でおっ!…と思った場所があって、ノーラン監督ってモンタージュで物語を多角的にとらえることが好きな印象で、モンタージュこそ映画の醍醐味だ!映像という媒体でしか時空の切り貼りはできないことだ!と思ってる人だと思っていたので、後半アクションシーンで逆行組と巡行組のカットがそれぞれの時空で分けられてたはずなのに、一箇所だけ、ビルが爆発前に戻ってまた爆発するっていう二つの時空で見えてるものをワンカットに見えるように繋いでいたのにびっくりしました。
これは作戦時間が10分間で、両端から挟み撃ちをする中で、逆行と巡行が一瞬5分というシンメトリーですれ違うことを表現しているんだと思うんですが、私には二つの時空を一つのスクリーンに並立させたように見えてうぉってなりました。
同時に、結構演劇的な空間の歪ませ方と受ける印象というか感触が似ていたので驚きました。

というのは、演劇には舞台と観客の間に現実と虚構が混じった空間があって、それがあるおかげで、場転しても「あ、いまカフェになった」とか「ここは屋上なんだな」って理解できるんですね。
それは観客の想像の余白(現実と虚構が入り混じった空間)が生まれるってことなんですけど、映画は実はそれができなくて、スクリーンの中はその世界で埋めないといけない。だから映画の中で起こっていることは、スクリーンの中で現実に起こっていることという概念で私たちは観ているし、その世界観にそぐわないようなものがあると私たちは急に違和感を覚えたりします。
例えば、編集前のグリーンバックとかね。
つまり、観客がその映画の中を「自然だ」と信じられるビジュアルや編集、演出を目指す訳ですが、「テネット」のあの一箇所だけは、明かに人の手が加えられたことに無意識にでも気付くようになってる。
それが、観客がいるというメタに気付くように仕向けてるんじゃないか、なんて勝手に思ったりしました笑
一つの画面の中で二つの世界があたかも同時(まさに同時って意味!)に並立しているように見える(これは概念ではなくて物理的に、視覚的に)っていうのは、観客の目線でしかできないこと(登場人物たちは認知しようがない)=スクリーンの外の、観客の目との間の現実空間まで意識の中で歪ませようとしてるのではないか…!?…と。
私個人の受け取り方ですけど、あの一瞬だけ現実空間に虚構の世界が混じってきたように見えました。

…まあ、そこら辺の構造の理論は私もまだ勉強不足なので、爪の甘い意味のわからないこと言ってると思いますがw…

でも今書いていてふと思ったのは、あの映画が運命論をベースとしているのなら、それを観ている私たち、特に2回目の鑑賞は、もしかしたら神の目線なのかもしれないですね。
ただ、それだとあまりに高慢な姿勢な気がするので、それが絶対だとは思いたくないですけど。(多分ノーラン監督もそうは思ってないと思う)

とにかくあのワンカットだけ特別な意図を感じたなというのと、個人的にはあれは現実空間を歪めにきてるぞ…!?という印象を受けました笑

なんだか、訳わからん話になってしまった気がするので、「テネット」のポピュラーな部分に話を戻します。ってのは俳優陣のお話。

で、めちゃくちゃ申し訳ないんですけど、主人公の俳優さんにはあまり魅力を感じなくて…汗 きっと人物描写にあまり時間が割かれていないというのもあるので、俳優さんだけの問題ではないと思うんですが…。もう一回観たら変わるかな…。

んで、うわあああって思ったのはニール演じるロバート・パティンソン氏。
彼の印象はハリポタのセドリックとか、トワイライトのヴァンパイアっていう完全無欠の美しさを兼ね備えた好青年というイメージで、正直あまり好きではなくて…
でも今回、久しぶりにスクリーンの中の彼を観たんですが、なんか出てくる度に嬉しくなっちゃうw
全然完全無欠じゃないし、なんかあの人アウトローな感じ似合うんや!!って思いました笑(まあ役の役割が良かったから、良く見えるってのはあるんだけど)
ロバート・パティンソン主演のバットマンが俄然楽しみになりました。(絶対、闇抱えたブルース・ウェイン似合う)

あとね、出てるって知らなかったからびっくりしたんですけど、実働部隊の指揮官を演じてたアーロン・テイラー=ジョンソン。(出てる作品で有名なのはアベンジャーズシリーズ二作目、「エイジ・オブ・ウルトロン」の双子の片割れなんですけど、個人的にとち狂った演技最高すぎて、「ノクターナル・アニマルズ」を推します)
かなり好きな俳優さんだったので、後半しか出てこなかったけどめっちゃ嬉しかった…あの人って目に狂気を宿してますよねw

それから、今回のヒロイン的な立ち位置であるキャットを演じたエリザベス・デビッキさん。彼女が出てる映画、あんまり観たことないんですが、今度観てみようかなと思うぐらい、めちゃくちゃ長身で美しくてずっと観てられました。
でも観ててこの女優さん、マトリックスのトリニティ(キャリー=アン・モス)にめっちゃ雰囲気に似てるなあなんて、ちょっと思ったり。
実際、ノーラン監督の「メメント」にキャリー=アン・モス出てたし…監督はこういう雰囲気の女優さんが好きなのかなあと思いながら観てました。

それから外せないのが、セイター演じるケネス・ブラナー。
正直、人物設定として、悪役という立ち位置に持ってくるには、やってることも考えてることもせこいし、幼稚なんだけど、彼が演じることによって、説得力が半端なくて。
この人はきっと幼少期や青年期に物凄い経験をしてきたんだろうな…とか、奥さんを自分の手のうちに留めておきたい支配欲は人間を信じられない、信じたら殺られる世界で生きてきたからなんだろうなとか。彼の横暴さには信じられないくらいのものがありますが、それは寂しい人だからなんだろうなっていう、背景に哀しさを感じさせるのが流石すぎて。
ハムレットをちょっと想起しちゃいましたー笑
あとまじで怖かった。モラハラ夫って感じで。

てな感じで色々だらだらと書いてしまったので、今回はここら辺にしておきます。
絶対これはもう一回映画館で観ないと、ノーラン監督の意図を汲み取れきれない。

それでは皆さま、良き映画LIFEを🎬✨


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