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短歌 流れる

空っぽの部屋に並んで呆けてた終わらぬ夏の日の砂時計

凍りゆく水底に影が走った そうだねあれはふたりのたましい

ゆく川にとけて流れてその先はあなたの粒子のひとつになります

金色の芒の海に道ひとすじ ここからはどこまでも君と

肌あわすときはいつでも血に眠る無数のらせんの記憶を思う

サクラソウの吐息を壜につめこんでそっと波に浮かべて放つ

手繰られてここにきました 身体の奥に流れる対のメロディー

あなたにも私にもひとしくしみとおる聖なる夜の星座の匂い

繭のようにくるまれてゆく日々微かなる磁力と熱をふくんで

繰り返し繰り返しともに見るだろう何億年も前の輝き

薄闇にからだひらけば桃の香のあふれる気配ただ目を瞑る

今よ今よつかもうとすれば飛び去ってからだばかりがあとに連なる

ボブにした毛先が弾む五月晴れ 手帳に新たな文字を書き込む

ふたりして木霊になろうか永遠に光と影を鬼ごっこする

真夜中に別れの予感を抱えこみ三角錐はかたくふるえる


昔、あるクリエイターの方から「コラボしない?」と声をかけていただき、別名義でつくったものです。パソコンに残っていたデータは、もう十年以上も前の日付でした。

和のヘアメイクも手掛ける年上のその方には、以前暮らしていた場所でお世話になっていました。その穏やかな表情と立ち居振る舞いに、どこか正座のような凛とした空気を感じたものです。

当時、わたしは創作を始めたばかりでした。ある日、その旨をわくわくした気持ちでお伝えしたところ、その方はさびしげな笑顔を浮かべて「いつか、苦しくなるときがくるよ」とおっしゃったのです。

そのときは不思議に感じ、ちょっとだけしょんぼりもしたのですが、当時のその方と同じくらいの年齢になり、あれこれの出来事を通過してきた今、どうしてそうおっしゃっていたのか、少しだけ理由がわかる気もします。

さて、いただいたテーマ「流れる」は、髪をはじめ、時間、水、音楽など、広がりのあるものでした。決して上手とは言い難い作品の中で、その方は最終的に「繭~」のものを選んでくださり、後日、幻想的な世界をおさめた一枚の写真を見せてくださいました(モデルさんに施されたヘアメイクが神秘的でとても素敵だったのですが、写真がこちらの手元になくて残念!)。

子どもの頃に百人一首に夢中だっただけで、きまりごとも知らないまま取り組んだ短歌でしたが、作品が自分の手を離れ、生まれ変わって飛ぶ姿を見られたことに感激しました。貴重な機会をいただき、本当にありがたかったです。

現在、短歌をつくることはほとんどないのですが、歌集を読ませていただくなど、これからもそばで感じていたいと思います。

noteを始めて、どこにたどりつくやらですが、途中の景色も楽しみながらのんびり流れていけたらうれしいです。


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普段は短い小説や読書メモを書いています。よろしければ、こちらもぜひ。


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