見出し画像

ゲンロン大森望SF創作講座第四期:第3回実作感想②

僕、遠野よあけはゲンロン大森望SF創作講座という小説スクールに通っていまして、そこでは毎月50枚程度の作品を提出することになっています。この記事では、そこで提出された作品への感想をつらつらと書いていきます。詳しい情報は下記サイトにて。

「ゲンロン大森望SF創作講座」
https://school.genron.co.jp/sf/

「第3回提出課題一覧」
課題:強く正しいヒーロー、あるいはヒロインの物語を書いてください
https://school.genron.co.jp/works/sf/2019/subjects/3/

 というわけで、後半10作品の感想になります。

11「選択子ノ宮」九きゅあ

https://school.genron.co.jp/works/sf/2019/students/kyua/3415/

 前作よりも面白かったです!サスペンス性がちゃんと展開から感じられるし、次々に提示される謎で先が気になるようにもなっていて、同系ジャンルの前作と比べてぐっとよくなっていました!
 ただ読者の気をそいでしまうノイズのような謎もあって、例えば、冒頭で子宮の壁に何者かがナイフを刺して血が噴き出していたわけですが、ユウリを殺したいのであれば最初から心臓を刺すべきで、そこらへんの壁を傷つける理由が読者にはわからない(伏線回収もなかったと思う)とか、ユウリは姿を見せない声だけの存在として描かれているのに、「この部屋にユウリは姿を現していない」「ユウリが部屋を訪れてきた」などの描写はまるでユウリが身体をもっているかのように読めてしまうので、記述の工夫は必要だと思いました。
 あと読んでいてわかりにくかったのが、(一般的な意味での)現実世界と選択世界、選択子ノ宮の関係などが最後まではっきりしなかったことや、サスペンスとして重要な舞台設定のルール(何ができて、何ができないか)などがわかりにくかったことで、この辺は勿体ないなと思いました。選択子ノ宮のなかで出来ること出来ないこと、またユウリという存在は何が出来て何が出来ないのか、などが読者にも伝わっていたほうが、サスペンスとしては面白くなると思います。
 トロッコ問題を参照したオチについては、僕がトロッコ問題に詳しくないというのもありますが、あんまり納得感はなかったです。。そしてそこに納得感がなかったので、読後感も曖昧になってしまいました。(物語内で描かれる選択と、トロッコ問題の選択がどのように関係しているのかがよくわからなかった。。)

12「ロータス・ブレイヴ」宇露倫

https://school.genron.co.jp/works/sf/2019/students/master2core/3417/

 面白い!前作もそうでしたが、宇露さんは臨場感や雰囲気を描くのが上手いなと思いました!最初と最後の場面が重ねられているのもよいですね。
 ただ僕は、レンジャー物やミリタリ物を読むのが苦手で、ちゃんと丁寧に読めているかというとちょっと自信がないです。登場人物が多かったり、階級ベースの人間関係や、専門用語がどうにも頭に入ってこない読者なので。。なので、かなり雰囲気頼りに読んだところはあります。
 あと、そういう読者としての適性とはおそらく別の原因で、読み落としてしまうところも幾つかあって、例えば終盤の救助へと向かうシーン?では、情景を理解するのが難しかったりもしました。風がすごく強い?〈キューブ〉は微小なサイコロで、風に舞って散らばっている?〈キューブ〉が暴走している現場の情景はどういう映像なのか?とか、その辺りの視覚情報は読み取りにくかった気がします(前作で、ダルラジで言及されていた問題と似ている気はします)。
 宇露さんは、映画的なかっこいい奴らや、困っている人などを書くのはうまいなと感じます。こういう人物の書き方は、僕はよくわかっていないので素直にすごいなと思いました。
 次作も楽しみにしています。



13「ペテン師モランと兎の星」藍銅ツバメ

https://school.genron.co.jp/works/sf/2019/students/mimisen3434/3410/

 静かなやりとりしか描かれないのに、モランの感情が読み取れるのがすごいですね。前作と対称的だ。あと、ルゼの死に顔を見て、こいつは自分だ、とモランが気づく場面、全然関係ない(本当に関係ない)けど「イグアナの娘」を思い出しました。
 気になったことといえば、青い雨をふらせるあたりのモランの策略は、なんかとんとん拍子にうまくいきすぎているのとか、いまいちどのくらいの難度の策略をやってのけたのか読者に伝わりにくいとかでしょうか。あと、ロイディオ将軍って誰だ?とは思いましたw
 物語としては、他人を偽り自分を偽って生きていたペテン師が、他人を偽りつつ自分を信じるようになった、という心情の変化が面白かったです。犠牲は大きかったけれども。自分は信じてあげたほうが、何をするにもよいですからね。

14「ディスオリエント・エクスプレス」中野伶理

https://school.genron.co.jp/works/sf/2019/students/msx001/3432/

 舞台や時代が明確になり、ぐっと話に緊張感が増したと思います。20世紀の歴史を考え直すというのは、今でも重要なことですな。そういうことを考えさせるためのフィクションとして機能していると思うし、物語としても普通に楽しめました。手紙で終わるのがよいですね。なんとなく、ミハウは自分を裁いたのだろうな(その先が、あの列車に乗っていた未来のミハウなのだろうな)、と感じられたので、読後感もよかったです。ミハウにはつらいけれども。
 講義や感想会ででた話がちゃんと取り入れられているのもすごいと思いました。梗概にあった不明瞭な部分などは、実作ではなくなっていた、など。指摘を受けてそれを作品のプラスにするのって地味に大変だったりもするので。
「タイムマシン列車」と言う設定を絡めることで、当時の人間にとっての「現在」を批判的に考えることができるという設定は本当によいと思います。それによって、当時の人間が単に現状批判をするにとどまらない物語になっていると感じました。
 後半でタイムマシンの設定が語られるのは、個人的にはなくてもいいかなと思ってしまいました。説明の文章はなんかロマンを感じさせる語り口で、それはよかったのですけど、でもあの設定がなくても、特に物語的な不備には感じないような気がします。それがなんでかというと、説明が難しいのですが。

 かなり主観的な話になってしまって恐縮ですが、今回の「タイムマシン列車」のような現実から遊離した設定や出来事というのは、現実的なロジックで説明しなくても読者は不審に思わない場合が確実にあって、例えば『銀河鉄道の夜』なんかはそうですよね。なんでそれが可能になるのか、僕もよくわからないですけど、今の僕個人の考えとしては、「誰かが無意識に望んでいることは、現実離れした出来事でも、物語内では許されるのではないか」というふわっとしたことを思っています。「誰か」が読者なのか登場人物なのかよくわからないですが。。でも『銀河鉄道の夜』の銀河鉄道は、明らかに望まれて登場している。銀河鉄道がないと、ジョバンニはカンパネルラとの別れを受け入れられなかっただろうし、ジョバンニとカンパネルラはあのように別れるべきであった、と思うので、それは望まれてそうなったのだと思います。……とか、本当によくわからない変な話をしてすみません。本当にこれはうまく言えない話なのですが、望まれてそこにあるものは、理由なくそこにいてもいいのではないか、と思う、みたいな話でした。

15「生きている方が先」安斉樹

https://school.genron.co.jp/works/sf/2019/students/recolored/3481/

 タイトルいいですね。文章もよみやすかったし、家の中の情景なども抵抗なく浮かんできて面白く読みました。この内容であれば長さも過不足なく、という感じなのですが、講座的にはやはりちょっと短すぎるとは思いましたwこの内容だけで文字数を水増しするのはよろしくないので、梗概にもっとお話を入れ込む必要があるように感じました。仮に梗概を直すとかの場合、このオチまでのエピソードを増やすのか、このオチ以降のエピソードを増やすのかは難しい悩みになりそうですね。

16「パノプティコンの中心にいる」藤田青土

https://school.genron.co.jp/works/sf/2019/students/seido/3453/

 設定は梗概からおおよそ引き継いでいるけれど、人物の配置や設定の料理の仕方はずいぶんと変わったのですね。犯罪者更生法の見直しに至る世界の流れは、うまく現代と物語の時代をつないだなあ、と感じました。なんかもっといい法案なかったのか、とちょっとだけ思いましたがw
 あと、実はいまいち仮想現実で何が起こっているのかわからなかったのと、それに関連してミスタとイータの心情が読み取れませんでした。なんか、イータがすごい人間くさいいい事を言っている?みたいな印象はあるのですが、一体なぜ彼がそんなことを言ったのかわかりませんでした。。
 あと、これは普通に短くて書き切れてないのでw、次回は物語を過不足ない長さで語ってくれることを期待しています!

17「世代」宿禰

https://school.genron.co.jp/works/sf/2019/students/sukune61/3456/

「宇宙艇が通常空間にジャンプアウト」もうこの言葉の並びだけで「あ!SFだ、これ!」と思わされる書き出しですね!案外、受講生でこういう書き出しする人はいない印象。
 タイトルも硬質で、物語もベーシックな宇宙SF、という感じですね。面白く読みましたし、特にラストで繭に食われるままに任す主人公の選択は好きです。その行動が良いか悪いかとかではなく、当人にとって正しい決断をしたのだな、という感じで好ましいです。なんとなく、人生ではいつかこういう瞬間が訪れるのではないかと思っているのですが、その瞬間のためにできる準備ってほとんどないんですよね。それは唐突にやってくるので。そのときに迷いなく自分にとって正しい行いをするというのは、個人的にとても「強い」と感じます。課題テーマに対する応答として、僕は素晴らしいと感じました。
 あと、惑星住人の亡命物っぽい感じのお話ですが、惑星を脱出することが特にメタファーとかになっていないところも好感を覚えました。人間でない生物の行動が、人間の生き方のメタファーになるのってどこか嘘くさくなるので。人間から遠い生態の生物であればなおのこと。
 上手い物語だな、と個人的には感じました。次回も楽しみにしています。

18「I meet boy or girl or …」松山徳子

https://school.genron.co.jp/works/sf/2019/students/tokuko55/3426/

 アイコンが、白い。。批評再生塾一期にもこういうアイコンの人がいたのを思い出しましたw
 ちょっと書くべきことを書き切れていないが故の短さを感じてしまいました。読者にこの小説の手触りや読後感を伝えるには、もっと言葉が必要な気がします。台詞でのやりとりがメインですが、現状だとどのような感情の交感が行われていたのか、読者が理解するにはハードルが高すぎるような印象です。。最後は、子供時代の別れと、未来での再会の予感が書かれているのですが、その感情が、僕(読者)の知っている別れや再会とどの程度重なっていて、どの程度異なるのかなどが伝わってこないのがもったいなかったです。

19「アーカーシャの」宇部詠一

https://school.genron.co.jp/works/sf/2019/students/ubea1/3407/

 間に合わなかった。。

20「be a Hero」進藤尚典

https://note.mu/shindoh7/n/n93a9218ea45b

 SF創作講座3期生であり、かつエア4期生(!?)の進藤尚典さんの作品。正規受講生じゃないのにちゃんと実作提出締切に間に合わせていてすごすぎる。僕だったら平気で12時間くらい遅れて提出してましたよ。。すごすぎるぜ進藤さん!!
 物語は自分がカスタマイズした【ヒーロー】と呼ばれるパートナーを戦わせるゲームがめちゃくちゃ流行している近未来。駆け足気味の展開や文章ではあるけれど、物語のリアリティもその長さにあわせて調整されているので、文字数の過不足は感じませんでした。戦い以外の場面がほとんどないのはちょっと欠点かもしれないけど、掌編ならこんなものという気もします。
 篠ノ井が自分の思想をぶちあげた挙句、最終的にバトルを負けて一人内面で自分の思想をアップデートするのは、なんか逆に新鮮というか、ヒーロー/ヒロイン側はまったく言葉で戦ってないわけで、この長さならこれで良いと思いますw変に主人公が頭良いお話よりもよっぽど良いと感じました。
 最後、ヒーロー/ヒロインが呂布エンドに勝つのが、なんかやっぱり根性で勝ったみたいな感じで、それは僕は少し苦手なのですがw、まあ長さの制限があるから難しいところ。。
 ヒロインの一人称はよかったです(創元SF短編賞で不利となる噂の一人称饒舌体ですね!w(前回講義でそういう話題がでたのです))。ただこのヒロインの造形なら、各場面のリアクションはもっとひねれるような気はしました。『ハルヒ』みたいに主人公の語りと作品のテーマが重なると高度で読み心地が深まったかも。
 みたいな感想ですが、次回以降の課題提出も超期待していますね!!(笑)

……というわけで、講義からちょっと日が開いてしまいましたが、なんとか実作感想書き終わりました。今回は20作品で15000文字程度。この記事が受講生皆様の参考になりましたら幸いです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?