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その愛は絶望か、希望か。

何度も書店で手にとっては結局戻してしまっていた、「彼女がその名を知らない鳥たち」を友達からおすすめされて、漸く読んだ。

読み始めると止まらなくなってほとんど一気に読んだんだけども、それまで結構淡々と読み進めていたのに本当に最後の最後、残り一ページってところで突如せつなさに襲われて、号泣してしまった。

「えっ、そんな終わり方するん?!」と、なんとなく予想してた結末とはまったく違う、まるでいきなり殴りかかられたような気持ち。

陣治の抱えていた壊れそうな日々のことを、彼の気持ちを思うとやっぱりしんどい。母の愛を知らない陣治と、父の顔を知らない十和子。陣治の十和子の愛し方は、どことなく父親のそれのようにも感じられたし、十和子のわがままや陣治への感情のぶつけ方がまるで子供の甘えのように見えた。どんなことをしても陣治は自分から離れていくことはないという無償の愛の中にいるような、あるいはそれを試しているかのような。

「───幸せになって、俺を産んで、俺をとことん可愛がってくれぇ」

「俺がおってよかったやろ」とは聞けても、「俺を愛してくれ」とは決して言えなかった陣治のことを思うと、苦しくなる。

「十和子の胎のなかになんか入ったら、男の子でも女の子でも、それは俺や、陣治やからな、必ず入りにいくからな、そのために今こうするんやからなぁ───」

十和子がすべてを思い出したら、はじめから陣治はそうするつもりだったんだろうか。そうするしかないと思っていたんだろうか。そしてこのあと、十和子はどうするんだろう。

たったひとり残されて、まるで真っ暗な夜道を歩いていけるのか。それとも、確かに愛された記憶を携えて夜明けを迎えられるのか。私には知り得ない。

けれど、陣治はたぶん、その身体にすべての闇を纏わせて、十和子をあかるい空の下へ出してやりたかったのだと思った。


とりあえず、しんどい!

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