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綿毛のように


夜勤明け。

腫れぼったい目に放り込んだコンタクトレンズ。

少し寝癖のついた髪を水でなでつけて飛び出した職員ロッカー。

階段を小走りで駆け上がり扉開く、あおぞら。


ぼーっとした頭でいつもの道を歩く。
日差しは滲むように、風は澄んで髪をさらう。

ふわふわと、ぼーっとした頭で。
ふわふわと歩く。

駅に着いて階段を下る。
小さな子供たちが鬼ごっこしながら通り過ぎて。
空から笑い声が降ってくる。

地下鉄に乗り込んで顔を上げる。
車窓に映る顔、なんだかとても眠そうね。


恵比寿駅に着いて坂を登る。

この一カ月何度歩いたかわからない急な坂。
けれども足取りは軽やかに。

ふわふわと坂の上の青空に吸い寄せられるように。

ふわふわと。


たどり着いた小さな書店。
無垢の木が香る小さな四角い部屋。

四角い写真たち。

それらもまた今日を最後に、ふわふわと飛び去って、はるか遠くで根を下ろすでしょう。

そしてまたひとつ、ひとつと。

人の温もりが集まって、その陽だまりの中で花を咲かすでしょう。

それは小さな座標。

「いまここ」と。


ふわふわ、ふわふわ。
うたたねが誘う軽やかなステップで。

綿毛のように。



恵比寿の本屋さんPOSTで2月3日から一カ月行われていた川内倫子さんの写真展。今日が最終日でした。

お気に入りの場所が消えてしまうようで、とてもさみしく思います。

次は川内さんの出身である滋賀に巡回するようです。


また川内さんの写真を身近に感じられる素敵な日々を待っています。

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