見出し画像

ひとり

遠くへ行く夢を見ました。

中学校からの友達と連れ立って人のいない夜の駅に降り立ちます。あたり一面を月明かりがこうこうと照らしていて、そこは見渡す限りの草原でした。駅からは丘の上までうねうねと白砂が敷き詰められた道が伸びていて、友達の背を追いかけながら私はそこを登って行きます。

ちょっと意地悪がしたくなって、わざと道を外れて青々としげる草を掻き分けて進みます。先回りしてびっくりさせてやろうと思ったのです。

すると私の背丈ほどの金網に突き当たりました。私は何も考えずヒョイとそれを飛び越えます。するとあたり一面にブザーが鳴り響き、私が飛び越えたばかりの金網は花火のような青白い火花を散らして放電をはじめ、枝のように伸びた電流が私に迫ってきて……。



今朝見た夢を夜の海で思い出しています。

今日は妻が出かけているので、仕事の帰りにコンビニで値下げシールのついた弁当を買って近所の浜辺まで来たのです。

浜辺まで真っ暗な原っぱを降りて行きます。雨が降った形跡はないのに、足首に触れる草は濡れたようにヒンヤリしています。

ベンチに腰掛け弁当の蓋をあけます。遠くの方で若者のグループがはしゃいでいるのが聞こえて来ます。そちらに目を向けても何も見えません。

ずいぶんと潮が引いていて、この前ここに座った時よりも、海は遠くにありました。波打ち際に懐中電灯の灯りがふたつ。背の高い影と小さな影。親子で釣りをしているようです。

温めてもらった弁当をかき込むようにして食べ終えると、ぼーっと海を眺めます。立ち上がる気力がないのです。

目を閉じてみます。小さな波の音が聞こえます。
それは次第に大きくなって、まるで草原を渡る風のように。そして私は今朝夢の中で駆けていた草原を思い出します。なんだか胸がつんとします。

目を開けると懐中電灯の灯りは消えていました。遠くから若者たちの叫び声が聞こえます。そちらに顔を向けても、やっぱりあるのは夜の闇だけでした。

この記事が参加している募集

今日の振り返り

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?