童神
休みの日にしては早く目が覚めました。冷房を付け放しにして寝たのは今年初のことです。快適な環境で布団にくるまっていた割には眠りの浅瀬で波に揺られていたようで、ぼやけた寝室の天井を認識したときはまだ、頭の中に夢の残滓が漂っていました。
夢の内容はもうすっかり忘れてしまいましたが、深い深い青の中に髪の長い女性が佇んでいる、という網膜的な情報だけ、未だ残っています。
今日がゴミの日であることを思い出して急いでゴミをまとめます。その後顔を洗って寝癖を直して家を出ました。気持ちの良い天気です。
ゴミをゴミ捨て場に置いた時、なんだか手持ち無沙汰になってしまったような、そんな気がしてそのまま海辺へ行くことにしました。コンビニでアイスコーヒーを買います。
海辺には涼しい風が吹いていました。ベンチの上にはノウゼンカズラが咲き乱れていて、その風がフウーッと散らして飾りつけた真っ赤な花が、ベンチの上に飾り付けられています。
他にも真っ赤な花が咲いています。デイゴです。『デイゴの花が咲き……』のデイゴとは別の品種らしいけれど、夏らしい鮮やかな花です。もうすぐ風が吹いて嵐が来るのでしょうか。
海ではカヌーを楽しんでいる人がいます。土曜日だけあって、これを書いているうちにも続々と人が増えて来ました。
家から徒歩5分で来れるこの場所に来たのは約3週間ぶりでした。この間来た時は咲きはじめの紫陽花に嬉しくなったのだけれど、ほんの少し来ない間に公園の色彩は紫陽花の青からデイゴやノウゼンカズラの赤へと変化していたようです。
夏の赤は新婚旅行で訪れた石垣島の海を思い出させます。行ったのは11月でしたが向こうはまだ半袖で過ごせるほど暖かく、こちらのちょうど今くらいの季節感でした。
あれからもう4年近くが経つことを信じられないでいます。思い返せばいろいろなことがありました。それでも生活の根幹にある何かあたたかいものは変わっていない気がします。
またあっという間に季節は巡り、私たちの生活も大きく変わることでしょう。それでも自分の暮らしの温度はいつまでも同じあたたかさであってほしいと思います。
石垣へ行った時によく聴いた曲があります。イヤホンを耳に入れてその曲を再生すると、ゴクっとコーヒーを飲み干して私は海辺を後にしました。
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