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『エネルギーをめぐる旅ーー文明の歴史と私たちの未来』(古舘恒介著、英治出版)

読了日: 2024/6/30

 人類は食物連鎖(ヒエラルキー)の頂点あるわけではないと思います。なんでも食することがヒエラルキーの上位にあると定位するもっとな理由ではないと感じるためです。しかしながら、摂取カロリー、あるいは本書の主題であるエネルギーの消費においては圧倒的頂点にあると思います。
 本書は、消費エネルギー(:一次エネルギー)の利用の歴史(第1部)、エネルギーの原理・仕組みと定量化の歩み(第2部)、材料の限界と環境問題、エネルギーから逃れられない人類(最低限の摂取カロリー除く)が取り組める行動と思考(第3部・4部)を分かりやすくまとめられています。
 すでに版を重ねている”売れている本”(2021/8/31 初版)であると思いますので、ここでPRする必要はありませんが、人類の喫緊の課題(あるいは人気のあるtopic)である環境問題、SDGsにおける基礎知識として価値ある良著と思いました。

 著者の提案は第4部「旅の目的地」にまとめられます。
 小生としては第2部「知を探求する旅」がもっとも興味深い内容でした。熱力学第2法則(エントロピー増大の法則)は概ね知っている”つもり”ではありましたが、ハーバー・ボッシュ法の詳細、「散逸構造」(イリヤ・プリゴジン)については知りませんでした。勉強になりました。
 第4部では、エネルギー資源の枯渇問題より気候変動問題への対処が優先されるべきとします。同意します。しかし、巷で一般に(おそらく一般に)認識されている気候変動問題の扱いには問題があります。著者は以下のように指摘します;

改めて言うまでもなく気候環境を決めるメカニズムは極めて複雑で、二酸化炭素濃度を含む大気の組成以外にも、太陽の活動や地球軌道の変動、火山の噴火など、気候に影響を与える因子は数多くあります。そうしたなか、人為的な要因による二酸化炭素濃度の変化から将来の平均気温や海面水位の上昇幅を言い当てるはただでさえ難しいうえに、その結果がもたらす土地々々の気象への影響を正確に予測するにはさらなる困難を伴います。

p.318、(最下部に追記※)

 気候変動問題の問題点を(詳細は割愛されていますが)指摘している点は、著者の真摯さと本書の事実性の担保となっているように感じました。
 また、人口増加(現時点ではおおよそ80億人か?)の問題もしてきますが、人口減少への思い切った提言は避けられています。小生はその点はSDGsの推進とやや矛盾するように感じれら増した。けれども、改めてですが現時点でエネルギーを考える、人類の矛盾を考える、など時宜にかなう良著と感じました。




加えるならば、地震予知、深海(水深200m以上)部の海流についても現代の科学ではほとんど解明されていません。
 科学が大きく進歩したことは本書第2部の内容を含めて周知の事実ですが、どれほどのことが人類は知りえているのか?まだ多くのことが未知のままであると思います。ゆえにその見栄と無知のギャップを埋めるためにIPCC報告書(2013年だったかな?)では気象モデルの計算パラメーターにおいてデータ捏造が行われました。当事者はAdjustment(調整)といっていますが、科学界では捏造と調整は明確に区分されています。現国連事務総長グテーレスはポーランドのもと物理学者ですから、その重要性は十分に認識しているはずですが、その捏造はスルーされて日本でも事実として報道されています。
 これらについては、キヤノングローバル研究所のレポートや『気候変動の真実 科学は何を語り、何を語っていないか? 単行本』に詳しいと思います。


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