見出し画像

Amazonへの対抗策としての「選書サービス」?

またまた書店ネタが目に留まった。

週末に書いたこちらの記事(「Amazonは「世界統制官」か―米書店の反Amazonキャンペーン―」)の続編になろうかと思う。

動画概要

セーヌ川のほとりにあるシェイクスピア・アンド・カンパニー書店では、もともとAmazonのフランス進出に影響を受けていたことに加え、この3月以降、売上が80%も減少した。

フランスは反Amazon運動が激しく、最近ではフランス政府の圧力を受けたAmazonはブラックフライデーのキャンペーンを中止することになった。

全部Amazonのせいだ?

この動画を見て思ったのは、無思考にAmazon批判を開始してしまうのは危険だな、ということ。

動画概要をまとめていても少し迷ったのだが、この動画で紹介されているシェイクスピア・アンド・カンパニー書店は、なぜ売上が80%も低下したのか?

動画全体的には「オンライン書店vs地元の書店」という構図で、「Amazonのせいだ」みたいな印象を与えるものの、売上の低下はこの3月以降の話だ。

どう考えても直接的な原因はコロナ禍だろう。

そうはいってもAmazonは脅威

動画の作りに対する留保はこれくらいにしといて、コロナ禍が直近の一番の敵だとしても、いずれにせよAmazonが脅威であること自体は変わりがない。

動画冒頭でシェイクスピア・アンド・カンパニー書店のシルヴィア・ウィトマンさんは、書店の価値とAmazon等オンライン書店の普及についてこう述べている。

「毎日、何が足りないのか、取り戻したいものは何なのか、そういったことを考えています。私にとって書店は、独りの時間とみんなといる時間、どちらも得られる場所です。書店に行くという行為には偶発性が伴っていて、人生を変えるようなとても大事な本と出会うかもしれませんし、そういう人と出会うかもしれません」

「オンラインで本を売るとき、お客さんは速さを求めています。みんなこの速いサービスに慣れてしまったのかも。でも何を犠牲にして? 私たちはそれを人間レベルでやろうとしています」

結局、Amazonが提供する価値に人々が食いつくのを、コロナが後押ししたに過ぎない、小型書店の苦しみの元凶はAmazonだ、と考えるのは間違いじゃないんだろうな。

日本でもそうだが、Amazon等オンライン書店で買う派と書店で買う派というのは、読書会をやっていても度々話題になる。
それぞれの派閥から出てくる回答は、やはりシルヴィアさんの言う通り、「速度のオンライン」「偶発性のリアル書店」にわりと集約される。

その比率として、偶発性の持つ魅力が速度にはなかなか勝てないというのが現状なのだ。

人々はどのように本を買うのか

偶然目に留まった本を読んだら面白かった、という経験を何度かしているので、個人的にはこの偶然性を楽しめているが、
その一方で、これが普段読書をしない人であったり、読書にそこまでの楽しみを見出していない人には全く刺さらないだろうな、ということもよく思う。

ある友人は、普段本を余り読まないが、「読書しなきゃ」という謎の焦りだけは持っている。こういう人は意外と多いのではないかと思うのだが、彼の本に関する購買行動における優先順位は、以下のかんじになる。

1.リスク回避
⇒読んでみたらハマれなくて読むのをやめる、というリスクの少ない本が欲しい
2.自身の興味・関心
⇒もともと興味のあるテーマ・ジャンル等をもう一度読みたい
3.新しい出会い
⇒今まで手を出してこなかったテーマ・ジャンルと出会いたい

書店の推す「偶発性」は、この中では3に含まれる。そのため、彼みたいな人は書店に行ってもなかなかリスク回避ができなくて困る。しかも書店にはたくさんの本がある。結果、どれを選んでよいかわからなくなって、買わずに帰る。

蛇足だが、「結果買わなくなる」という点については「ジャム実験」というのが有名。
コロンビア大学のシーナ・アイエンガーという研究者による実験で、簡単に説明すると、
A:ジャムが6種類しかない店
B:ジャムが24種類もある店
の2つでは、多くの人がBに足を止めるものの、売上が上がったのはAだよ、という結果が出た。

これが書店にも当てはまってしまう、という話だ。実際、彼は書店に来ては何も買わずに帰る、を繰り返している。

彼が本を買う時は、大体次のような理由がある。
・見ているドラマが面白いから、その原作を買う(ドラマでは描かれていない続きが気になる)
・私yoが推したから買う

両方に共通しているのは、
・失敗しない可能性を高めてから買っている
・選択時に極力考えなくて済むようにしている
ということ。

個人的にはこの2つめの点が重要だと思っている。

見ているドラマが面白いから買う、というのは、その動機から選ぶ本は1つしかあり得ない。
大河ドラマなら、原作と同じ人物に焦点を中てた小説を買う、というのがあり得るのだが、そうでない限り原作は唯一無二の存在だ。思考の余地はない。

友人のおすすめで買う、というのも同様で、自分で本を選ばず、他の本を削ぎ落して1冊に絞り込むという過程を友人に転嫁している(別に全く悪いことではない)。

この「考える必要がなくなる」という点さえあれば、正直Amazonで買おうが書店で買おうが同じことだったりする。

これが、消費者の購買行動の1つのモデルケースにはなると思う。

書店が苦戦する理由

こうなってくると、こういう私の友人のような人に「書店では偶然の出会いがあるからいいんだよ」と言っても刺さらないことは明白だろう。
一方、Amazonは前の記事でも紹介したようなリコメンド機能を持っているため、個人に最適化されたおすすめをしていない書店よりも一歩先を行っていると言えるだろう。

それゆえ、
・ドラマ等の明確なきっかけや、おすすめ本を紹介してくれる友人のいない人が、
・1人で
・失敗しない可能性を無思考で高める

ために取れる行動の最適解は、
「Amazonで買い続けておすすめ機能をブラッシュアップする」
となってしまう。

こういうところにも、書店が苦しむ理由があるんじゃないかと思う。

選書サービスの普及可能性

ここまで書いていて、ふと思ったことがある。

上記の購買行動を取る人が多いとしたら、「本を選んでくれる人」というのは価値が高いのではないか。

今、ちょこちょこと選書サービスをやっている方を見かける。

ざっと列挙するだけでも、
いわた書店
文喫
スノウショヴェリング
企画本屋honten(hontenさんはnoteもある)
・ほんのみせコトノハ(HPが見当たらなかったので使ってみたという方のnoteを貼ります)
等、たくさんある。

これらの存在は一部の本好きにしか知られていないが、それこそもっと広く知名度が上がれば、利用したいと思う潜在顧客はそれなりにいるのではないかと思う。

所謂サービス業だし、ただのアドバイスに追加料金なんか払えないよ、と思う人も多いだろうが、上述した「失敗の可能性が減ります」というのを押しだしてアピールすればチャンスはあるんじゃないかと思う。

書店が選書サービスを行う例が増えたら?

今は、それこそ小型書店や、それを中心に事業を立ち上げた方なんかが中心に活動をしているわけだが、今回のnoteの中心テーマである「書店 vs Amaon」という構図の中でとらえるなら、ジュンク堂や紀伊國屋書店といった大型書店が、こうした選書サービスを開始できたら売上も上がるのではないだろうか。

試しに、例えば紀伊國屋書店新宿店なんかに、1名の「選書案内人」を配置して、選書コンサルタントへの無料相談所みたいのを作成したら、書籍の売上が伸びそう。

もちろん、この「選書案内人」に求められるスキルはかなり高度で、
・ふと訪れた客とのコミュニケーションから、客が今欲している本を見抜く力
が必要になる。
本に関する膨大な知識だけではなく、顧客のニーズを見抜く営業力が同時に備わっている必要がある、ということだ。

これはなかなかしんどい仕事だが、結構面白そうだし、私の友人みたいな人にはもってこいのサービスになるのではないだろうか。

もともと小型書店に関するニュースの話題だったが、今回は小型も大型も混ぜて話をしている。
いずれにせよ、もし面白いと思ったらやってみたらいかがだろうか。


<11/25追記>
ほんのみせコトノハさんは閉店されているそうです。Twitterのフォロワーさんに教えていただきました。道理でHPが閉鎖されているわけだ。。。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?