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昼のお話です。 学校へ行ったり、お散歩をしたり、家でごろごろしてみたり、それぞれの過ごし方をして、それぞれに感じることがあるようです。
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2021年1月の記事一覧

迷子と回り道

迷子と回り道

 烏に荒らされたのか、ごみ捨て場のごみが散乱している。器用に避けながら歩く。小さな画面の中で、青い印が少しずつ目的地から離れていく。だんだん道が狭くなってきて、電柱の陰で立ち止まった。

 地図アプリを閉じて、電話をかける。ぴったり3コール目で電話に出た榊くんはいきなり明るく言った。

「迷子?」

「え、うん…。迷ったみたい」

「来た道わかる? 駅まで戻れそうなら迎え行く」

「おけ、頑張って

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無題

 小走りだったり、ゆったりとだったり、それぞれのペースでたくさんの人が行き交う。でも凛太郎は背が高いから、遠くからでも一瞬でわかる。「凛!」と呼ぶと、こちらを向いてにっこりと笑う。朗らかな、柔らかい笑顔。

「日菜」

 細長い体を器用に操って、人混みの中を進んでくる。あっという間に私のもとへ辿り着くと、私の持っていた大きな鞄をスムーズに持ち上げた。骨ばかりに見える腕にぐっと筋が入って、あ、男の子

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どきどきクエスチョン

どきどきクエスチョン

Q:男の子が、会ったこともない女の子との毎日のラインを一ヶ月も続けているのはなぜ?

A:暇だから。

「もう!勇人のいじわる!」

「なんだよ、正直に言っただけだろ?」

「そういうのが聞きたいんじゃなかったのに」

 勇人はにやっと笑ってずれてしまったマスクを直す。だだっぴろい河原に腰掛けて、あたしは大きなため息をついた。

「だいたいさ、会ったことないのにどうしてそんなに気になるんだよ」

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音に願う

音に願う

 軽やかな音楽が流れてきたとき、瑞希は顔をしかめて、スマホの裏を右手の爪でたたたんと叩いた。ケースの安っぽい金色の縁取りにはたくさんの傷が付いている。

「出たい」

 たったそれだけで、瑞希はそう言った。転がるような、それでいて水面下で息を潜めているようなピアノの音は変わらずに鳴り響く。

「瑞希、それは逃げって言うんだ」

「いいじゃない、戦う理由もないし」

 瑞希はそう言うと、すぐに立ち上

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