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MBAの時のアメリカ就職活動まとめ

色々な方からご連絡を頂く中で一番多いのがMBA時のアメリカ就職活動関係の話なので、備忘録も兼ねて少し纏めてみようと思う。同じ話を色々な人にするより、こうして何かに纏めて見て頂いた方が双方にとって効率がよいだろう。尚、5年以上前の話なので若干詳細部分の記憶があやふやになっている点はご容赦願いたい。

私は夏のインターンはサンフランシスコにあるヘッジファンドで行い、秋のフルタイムではアマゾンの米国本社(という言い方もなんだかおかしいのだが)からLeadership Development Programのオファーをもらって就職することになった。卒業直前にHaasの日本人向けの非公式(i.e., 有志の作っている)ウェブサイトにも簡単な体験記を書いたのだが、シアトルへの引っ越しで忙しかったこともあって、若干端折った内容になっている + Haasでよかったことに重点が置かれているので、こちらではその補足的な色合いで書こうと思う。多少母校の宣伝をすると、Haasは現地就職をしてアメリカに残りたいと思っている人にはとてもよい学校だと思う。興味のある方はHaas日本人向け非公式ウェブサイトの駄文をご参照願いたい。(ただ、私は後述する理由で、グリーンカード申請時の出生地のPriority DateがCurrentかCurrentに近い場合、現地就職に固執することはお勧めしない)

1.夏のインターンまで

私は新卒で米系投資銀行に入社して、その後米系Private Equityを経て、米国のMBAに留学した。単に運と成り行きでこうなっただけで、留学までの28年間、関東から出たことのない人間である。ということで、アメリカに残って就職するというオプションは留学当初考えておらず、卒業後は、MBA前の会社に戻ることが基本シナリオだった。従って、夏のインターンは自分の興味のあるもので、かつ、日本に戻った後にも役立ちそうなものに使おうと考えていた。もう少し色々なアセットへの投資を勉強してみたかったのと、上場株投資を一回やってみたかったので、夏はアセットマネジメントかロングショートのヘッジファンドか、そういったところでインターンすることを入学前から考えていた。

HaasはTech、というイメージが強いのだが、西海岸のMBAでTop 10以内に入っている学校はStanford GSBとHaasの二校くらいということもあり、実は西海岸の各所に人材を出していて、金融や投資関係で西海岸にオフィスを構えるところを中心に、かなり色々な会社が来てリクルーティングをしていた。詳細は省くが、MBAの就職活動だとどこもOn Campus(学校の定めた方式にのっとり採用活動をする)とOff Campus(学外から勝手にポジションをとってくる)という二つのプロセスがあると思う。私の場合、アセマネは殆どこのOn Campusで、ヘッジファンドは全てOff Campusでインターン先を探すことになった(ただ、Off Campusのヘッジファンドも、サンフランシスコベースだと学内の就職活動用のプラットフォームにJob Postingをしている会社が多く、そちら経由での申し込みになったが)。

準備は比較的簡単で、MBA出願用に出したResumeを、MBAのキャリアアドバイザーといい感じに仕上げ、何本かStock Pitch(上場株のどれに投資したいか、また、その分析と何故か)を用意しておけばよい。Stock Pitchは二年生でヘッジファンドに就職を決めた人からテンプレートをもらって、それに沿って準備をした。日本株だと知らない人が多いと思ったので、今までの経験である程度土地勘のあるセクターの米国株と、当時注目を集めていた中国圏のネット株を、若干勉強して作った。一本につき一週間くらい、確か合計で3社分作ったので、一か月弱くらいかかった。尚、学校ではBloombergにアクセスできた(もしかしたらCapital IQとかだったかも)のと、(確かReuters経由か何かで)アナリストレポートにアクセスできたので、必要となる材料が比較的簡単に取れた。あとは四半期ベースの、勘定科目的には粗目のモデルをエクセルで組んでTarget Priceをいくつかのケースとともに算定した。

ボスキャリにはいかなかった。というのも、渡米前に勤めていたPEのNYCかDCのオフィスでインターンができるという話を頂いていたので、二つのインターンをはしごしようと思っていたからだ。幼い娘を抱えて国を跨ぐのはちょっとしんどい。同じ理由で、留学前からヘッドハンター経由でお話を頂いた香港やロンドンのヘッジファンドの話も前に進めなかった。

MBA1年目の12月前くらいになると、インターンを募集するポスティングも増えてきて、そのうち確か4社か5社くらいにレジュメを提出した。おそらくは私の前職のネームバリューが抜群だったためか、提出した金融関連のポジションに書類で落ちることはなかったので、年明けから面接で忙しくなった(勿論、面接では落ちることはあった)。英語でのコミュニケーションは苦手だったものの、土地勘のあるエリアなので、この時は面接も特段の準備はしなかった。有難いことにStock Pitchは刺さるところには結構刺さって、年明け早々にはオファーが出始め、その中で、特に熱心に誘ってもらったサンフランシスコにあるヘッジファンドからのオファーを受けた。アジアのインターネットセクターを見るような役回りで、自分が一緒に働くポートフォリオマネージャーもHaas出身、サイズも数千億円でファンダメンタルズだけでない色々な投資手法を組み合わせていて、申し分ないインターン先だった。

ということで、私はこのヘッジファンドで8週間程度、その後PEファンドのNYCオフィスで4週間程度のインターンをすることにした。尚、この決断をした際、私はどれだけアメリカが広いか理解していなかったため後に激しく後悔することになる。

2.夏のインターン その1 @ヘッジファンド

とにかく米国籍やグリーンカードがない場合、インターンをするにも書類との格闘が必要になる。私は米国にある二社でインターンをするというややこしいことをしたため、Social Security Cardを作ったり、CPT(
Curricular Practical Training)の手続きをしたりしているうちに、あっと言う間にインターンをする日が来てしまった。

ヘッジファンドでのインターンは、他にもStanford GSB、MIT Sloan、Chicago BoothからMBA生が来ていた。日本人は他にいなかった。私は粛々とアジア株の分析を進め、いくつかの提案をして、そしてそのうちのいくつかが執行され、そこそこもうかった。ただ、インターンの終盤、当時サンフランシスコに新しくできたShalalaのラーメンをすすりながら、これはちょっと自分がやりたいことと違うな、と思った。実際に上場株でポジションをとるのはとてもスリリングであるものの、(烏滸がましい話ではあるが)自分が何か価値を作りだしている感じがあまりなく、私は余り魅力を感じなかったからだ。また、アジア株をやるのであれば、やはり時差の関係でアジア圏にいた方がいいな、とも思った。寝ている間に爆弾のようなニュースが出るのは怖いので、精神衛生上よくない。といって、横でばりばりやっている他のインターンを見ると、米国株をごりごり分析して生き延びる自信もない。こっちはKrogerすらしらないで30年弱生きてきているのだ。ヘッジファンドという厳しい世界で、米国株で勝負して、生き延びる絵は描けなかった。

3.夏のインターン その2 @前職のPrivate Equity in NY

そうしてNYCに移動し、マンハッタンの中心部に借りて頂いた住居に腰を下ろし、4週間ほど、前職PEのNYオフィスでの勤務を開始した。そういえば何故か弟が研修でNYCに同時期にいたり、Berkeleyでご一緒した方が卒業後にNYオフィスに配属になったり、不思議な縁があって中々楽しかった。

NYオフィスでの経験は素晴らしかった。いやぁ米国のPrivate Equityってすっごいな、とただただ圧倒された4週間であった。とにかくみんな性格もいいし、学歴もいいし、頭もいいのだ。MBA前の若手たちともご飯を食べによく言ったけど、みな本当に超ナイスガイ。そしてそこら辺をひょこひょこ歩いているおじさんが、Private Equityに来る前はアメリカの某セクターのRegulationを担当していたエライ人で、その人に日本出身であることがばれて、何故か日本の規制・投資動向を纏めたりした。肝心のインターンであるが、短期間でありながらちゃんとプロジェクトにアサインしてもらい、とある案件に関して、"投資しない方がいいです"、という分析をモデルを組んで行って、実際にその案件が前に進むのをやめた姿を見て終えた。私のようなお客さんインターンの裁きにもとにかく凄みを感じる、得難い経験であった。私は毎日せっせとラーメンを食べ、エンパナーダを食べ、焼き肉を食べ、おしゃれなブランチをし、アルコールをスポンジのように吸収し、そして順調に体重を増やしていった。重力の重みを感じながら、私はJFKからフロリダのディズニーランドに飛び立った。フロリダのディズニーランドは想像を超えるスケールでとても楽しく、そして更に体重が増えた。ダイエットを固く決意して、私はベイエリアに戻ることとなる。

4.秋のフルタイム就職活動

インターンでそこそこ結果を出せた結果、これはアメリカで普通に働いていけるのでは、という気がしてきたのと、テック企業でのインターンから帰ってきた大量の同級生から聞いたワークライフバランスの良さ(特に報酬水準は、え、そんなにもらえるの、という衝撃を与えてくれた)から、アメリカでの就職を本格的に考え出した。詳しくはこちらのNoteにも書いたが、そんなこんなでアメリカの秋のフルタイムの就職活動に向かうことになる。

とはいえ、Krogerすら知らずに過ごしてきた私である。はっきりいってアメリカの会社はよくわからない。ということで、えいや、っととりあえず夏のインターンで色々やったインターネット X 高成長、という軸で攻めることにした。同じヘッジファンドでインターンして何度か飲みに行ったChicago Boothの超ナイスガイがアメリカのテックセクターを担当していたのを思い出した私は、彼に電話しておすすめの会社を聞き出すことに成功した。その数社の中に、アマゾンの名前があった。実は私も全然違うアングルで、ヘッジファンドのインターン中にアマゾンを分析していて、これは凄い会社だな、と思っていた。因みに、当時のアマゾンの時価総額は今の1/10くらいで、AWSのセグメント開示を始める前である。FANGの一社だったので(そういえば当時は今と違ってAppleが入らないAが一つのFANGであった)就職先としてそこそこ人気はあったが、今のように時価額の一位、二位を争うような会社ではなかった。

アマゾンのような大きな会社は、On Campus Recruitingが中心になる。学校のキャリアアドバイザーにレジュメを一緒に直してもらい、余り意味を感じないカバレターを書いて(後半は飽きてきてちょっと小説風に書いたものもあった。それが理由かはわからないが落ちた)、レジュメと共にそれなりの数の会社に提出した(勿論レジュメは提出先の会社毎に書き換えた。よって、当時のLaptopには大量のレジュメが残っていて、それを見るたびに若干うんざりした)。ポジションとしては、キャリアアドバイザーと話し合った結果、ストラテジーとファイナンスを中心に応募した。金融の時は書類でお祈りされることがなかったのに、テック企業に関しては書類通過率が半分強くらいまで下がった。

書類が通ると面接の準備に入る。フルタイムの就職活動をしているクラスメイト同士での情報交換も盛んで、なんだか四六時中就職活動のことを考えているような状況であった。面接に関しては、学校のキャリアアドバイザーと一回Mock Interviewをした以外は、準備に時間を使った。具体的には、直近一年くらいのアナリストレポートを読み、二年分くらいのニュースを読み、さっと財務諸表に目を通し、上場している会社は10-Kを拾い読みして、そしてYouTubeにある会社関連のVideoやエライ人のInterviewなどを見てから臨んだ。今書いていて思ったが、PIBに入れるような内容を自分の頭で整理したような感じだ。また、夏のインターンでインターネット関連銘柄をカバーしていたため、セルサイドアナリストや企業のIR担当者との話などを通じて、業界構造やビジネスモデルに関する大まかな理解があったのは、正直かなり役に立ったと思う。

今ではアマゾンはChimeを使ったVideo Interviewのはずだが(少なくとも私がMBA採用に関わりだしたここ数年は大部分がVideo Interviewのはずだ)、当時はまだ各校に面接官が来て対面で面接をするスタイルだった。他の多くの企業もこのスタイルだったので、学校にいっては面接をする、という日々が続き、そこそこ忙しかった。余り詳しいことは書けないが、アマゾンの面接は結構手ごたえがあり、これは受かるだろうな、という気がした。そして予想通りオファーをもらい、とても熱心に誘ってもらった。とはいえその他選考が進んでいるところがあったり、他にも実際にオファーをもらったところもあったので、実は結構色々と悩んだ。アマゾンが費用を負担してくれるFlybackというイベントが当時あり(今もあるのだろうか)、オファーを出した人をシアトルに呼ぶという太っ腹ぶりだったので、それに家族で参加したりした(この時に今住んでいるエリアを訪れてとても気に入ったのを覚えている)。結局は熱心に誘ってくれたDirectorの「僕は今までアマゾンに勤めて15年間、一回も退屈したことがない」、という言葉がとても響いたので、アマゾンのオファーを受けることにした。結果として、確かに5年間一度も退屈することはなかった(刺激が強すぎることは多々あったが)。

5.結局、、、

この話をするといつも思うのだが、MBAの就職活動は景気が最も大きな要因であると思う。私がアメリカで就職するという日本人としては珍しい就職の経緯をたどったのは、私が優秀だからでも、私の経歴が素晴らしかったからでもなく、無鉄砲にとりあえず色々とチャレンジしてみたのと、そして景気がよかったからなのだ。身も蓋もない話だが。景気が悪い時であれば全体的に苦しい戦いになるし、景気が良い時でればそんなに苦労せずに行きたいところに行ける。勿論、当人の資質や学校のReputationといった点で多少の差はつくとは思うが、景気の善し悪しよりも大きな影響を及ぼすことはないだろうと思う。その点で、私が留学した2010年代半ばくらいから去年までの卒業生にとって、ある一定の条件を満たしていれば、現地での就職はそこまで難易度が高いものではなかったはずだ(とはいえ大変ではあるし、結構な数の企業に落ちるので、それなりに心は頑丈である必要がある)。が、昨今のJob Marketを見ると、この状況はがらっと変わってしまったのかもしれない。

一方で、MBA直後の就職というのは極めて近視眼的なので、そこで結果を出すことに固執するのはやめた方がよいと思う。例えば、米国で働きたいのであれば無理してMBA後にこちらで就職する必要はない。日本や他の地域のアマゾンからこちらに移籍してくる人は昨今とても多い(具体的に言えば、現在おそらく数十人の日本人がアマゾンのシアトルで働いているはずで、その大部分は日本から社内異動してきている)。今は分からないが、過去にはEU圏にも日本人の方が数人いたりした。はっきり言って現地で就職するのは手間がかかるし、現地で就職したからといって特にいいことがあるわけでもない(給与水準は多少多いかもしれないが、物価が高いため相殺だろう)。というかアメリカに至ってはH1-bが抽選であるため、社内異動に比べてVISAの安定性という意味では劣る(何故なら、現地就職した場合はH1-bを取る前にOPT中に抽選に通る必要があるというハードルがあるのに比べ、社内異動で使われるL-1ビザは抽選がないのだ!また、出生地が日本であれば通常のL-1B VISAの有効期限内にグリーンカードが取れる可能性が高い)。それが現実である。尚、他の米系テック企業でも国を跨いだ社内異動の話は結構聞く。

ということで余り就職活動に力を使いすぎず、大事なMBA生活を楽しんでほしいと思う。肉を焼き、酒を飲み、そして好きなことを好きなだけ勉強すればいいのだ。ケセラセラ。

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