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映画感想メモ『シャン・チー/テン・リングスの伝説』

マーベル・シネマティック・ユニバース フェーズ4における初めての完全新規ヒーロー誕生の物語。しかもMCU初のアジア人主人公と、なにかと注目度の高い今作。実際観てみたら、期待に違わぬ良作だった。

今回の見どころはとにかくアクション。予告編にも組み込まれていたバスでのアクションが序盤から炸裂し、その後も闇闘技場での戦い、乱入してきたテン・リングスとの乱戦など、往年のカンフーアクションが現代の本気によってパワーアップしたアクションが見るものの心をがっちりと掴んでくる。

ただ、ストーリーが進むのに従って物語のスケールがどんどん大きくなっていくので、徐々にCGの割合が上昇していき、身体能力を活かしたアクションが減っていくのが残念っちゃ残念。でも、その段階までいくと九尾の狐やら朱雀(らしきもの)やら麒麟(と思われるもの)やらといった、我々日本人にも馴染み深い中華ファンタジーの世界が繰り広げられるので、途中で少しジャンルが変わったと思ってそっちを楽しむとなかなか良い。前半はカンフー映画。後半は中華ファンタジー映画。一粒で二度美味しい作品だ。


今回のキャストのMVPはやはり、メインヴィランのウェンウーを演じたトニー・レオンかな。千年以上もの間力に魅入られ他者を踏みにじる裏の支配者として君臨していたときの顔。妻と出会い、子が生まれ、本気で愛に目覚めて幸せを享受する父としての顔。そして妻を失い、再び強大な力を求める顔と、幅広いキャラクターを表情一つで見事に表現しきっていた。

あとキャラクターで良かったのがケイティ。シャン・チーとの関係がとにかくカラッとしていて、それでいて家族同然の絆によって固く結ばれていることが登場して10分くらいでよくわかってくる。だから、こういう強引について来る系のヒロインにありがちなうざったらしさの様なものも全く感じない理想のヒロインに仕上がっている。あと、アメリカ生まれの中華系移民という設定も絶妙だ。中国人であって中国人でないという立場が、生粋の中国人が登場人物の大半を占める物語においてよい観客の代弁者になってくれている。


そして一つ「良いなあ」と思ったのが、中国人の登場人物たちがちゃんと中国語で喋っているところだ。

冒頭、主人公シャン・チーのお母さんが物語の根幹に関わる物語を語り聞かせるシーンから映画が始まるのだが、そこが最初から最後まで完全に中国語で、「こいつは“ちゃんとしてる”ぞ」という雰囲気がビンビンに伝わってくる。その後も登場するキャラクターの大半が中国人なのだが、全員バリバリに中国語を喋ってくる。体感だが劇中のセリフの半分くらいは中国語なのではなかろうか。

自分が今まで見てきた映画では、非英語圏出身という設定のキャラクターも普通に英語を喋っていた。そして彼らが母語を喋るシーンがあったとしてもそれはほんの少しのセリフで、ちょっとしたアクセント程度だった。

MCUでは過去に、『ブラックパンサー』がシリーズ初の黒人主人公ということで、キャストもスタッフもほとんどを黒人で固め、アフリカンカルチャーを全面に押し出した映画を製作したことがあった。しかし、そこで主に話されていたのは英語。舞台となるワカンダは長年、外界との繋がりを絶っているアフリカの国という設定なのに、そこの公用語が何故か英語であるという、少し不思議な現象が起きていた。

そこからおよそ3年。まさかここまでやって来るとは思いもしなかった。劇中での中国語話者同士の会話は基本的にほぼ中国語で行われる。その際、日本語字幕とともに英語の字幕が表示されるのだが、その量が尋常じゃない。僕の様な字幕版を見ている非英語話者からすると大した違いじゃないけど、英語圏の観客からしたら「なんでこんなに字幕を読まされるんだ」という気持ちになりかねない。そこを思い切ってやり切ったのは本当に革命的だと思う。


画像出典:映画公式サイト

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