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上司世代と部下世代の「何でですか?」の意味違い

年輩経営者から、よく「最近の若者は素直そうに見えて権利意識が強い」的な話を聞きます。そして、よくよく聞いてると、実は若者側はとても素直だからこそなんじゃないかというケースがあります。特に発端になりやすい言葉があるので、そこについて考えてみましょう。

その言葉とは「何でですか?」という言葉です。実は、そもそも教育方法の前提が違うんですよね。上司世代(50代以上)、先輩世代(30代以上)、部下世代(20代)としておきます。(主語が大きい話をしている自覚はあるので、そこにツッコミはしないでください)

上司世代は「間違いを織り込み済み」という教育を受けています。例えば、「お肉を買ってくる」という仕事があるとします。上司世代は、さらにその上司から「お前、肉買ってこい」と言われてきたわけです。

そこで、上司の上司だった人の口調や、周りの状況などを『自分で』考えてて、(ここはミンチ肉がいいのか、バラ肉がいいのか、そもそも、豚か牛か鶏か、、、)と手探りで考えて、とりあえずの結論を出して、豚バラ肉を買ってくるわけです。

そして、職場に戻ると「お前はバカか!この状況でなんでバラ肉なんだよ。どう考えてもハンバーグだろ、合い挽き肉買ってこなくてどうする!」となってしまうわけです。ただ、上司の上司にしてみたら、『曖昧な指示で部下が失敗するのは織り込み済み』なんですね。そもそも、最初からちゃんとした肉を買ってくると思ってない。『どうせ初めから上手くいくわけがない、5回ぐらいやらせりゃ、ざっとした感覚掴めるだろ。3回で出来たら、まあまあ見込みあるかな』ぐらいに思っている

そして、そういう、曖昧な指示や方針でも、状況見てなんとか社会的に当たらずとも遠からずの結論を出して、そこそこ無難な結果を出してしまう現場判断力が養われてきたわけです。

これを『現場力』ともいいますし、『忖度』というのも内包されるでしょう。(そして、この保健所や末端の病院、病室においても、『現場力』の高さが、曖昧なコロナ対策指示下でも医療崩壊をギリギリで防げた要因の一つとも思います。)

また、部下自身も、(部活などを通じて)それが、世の中の教育方法の標準いう中で生きてきたので、『自分は若手なんだから失敗して当たり前、怒られたら次で直せばいい』という感覚で、部下側も怒られることへの抵抗感が薄かったのだと思います。

つまり、『上司の指示には黙って従うもの。意図やゴールは失敗を通じて覚えるもの』という前提。この前提において『何でですか?』という言葉は『何で(あなたの指示に、私が従わないといけないの)ですか?』を意味します。そりゃ、反抗となりますよね。

ところが、今の部下世代は、キャリア教育やディスカッション主体の教育などを受けており、「物事を進めるためには、事前にビジョンとゴールを共有すべき」という発想を持っています。そこで「肉買ってこい」と言われたら、当然、「ゴールはしゃぶしゃぶですか?ハンバーグですか?ステーキですか?それを刷りあわせないと、最適な行動が起こせません」となるわけです。

つまり、部下からすると『何でですか?』という質問は、『何で(肉を買ってくる理由と目指すべき成果のゴールはどこにあるの)ですか?』なわけです。

凄く、前向きで、仕事のクオリティを上げようとする、やる気があるがゆえの質問な訳です。これを『反抗』ととられて怒られたら、そりゃやる気無くしますよね。

そして、この背景にあるのは『失敗の許容度』です。上司世代は部下は失敗するものだと思ってる。むしろ、わざと失敗させることさえ教育法だと思ってる。ところが、部下世代は『失敗は間違いでしかない』んですよね。

失敗とは怒られることであり、怒られることという意味では、失敗を犯したは、何らかのルールに違反した、強い言葉で言えば『犯罪を犯した』、に近い感覚を持つわけです。

ましてや、『わざと失敗させて経験を積ませる』なんて手法は、『わざわざ犯罪を犯させてる』生理的にも許しがたい手法な訳です。素直で社会的な責任感が強い人ほど、そうです。だからこそ、間違いを防ぐために、事前にイメージする成果の擦り合せ、確認が必要なのです。

逆に、イメージするゴールを共有出来ない状態で突っ込まされることは、モチベーションに非常に悪影響を与えます。その上、「わざわざ失敗をさせられた」となれば、モチベーションは劇的に低下します。

こうなってしまったのは、「先輩世代」の影響が強いです。正直、私も属する氷河期世代です。労働市場が非常にシビアな状況により、急速に成果主義が導入され、職場に育てる余裕がなくなったと言われる時期に若手社員だった世代です。育てる余裕がなくなったというのは、つまりは「若手が失敗する余裕がなかった」時代ですね。

極論すれば「肉買ってこい」だけで、最初から一発目でちゃんとハンバーグ用の挽肉買ってこれる人だけが生き残れると信じられていた世代。この世代が、入社20年前後となり、直接の教育者として若手に対峙している以上、若手世代は「間違えてはいけない」のプレッシャーにもさらされる一方、上司世代の「曖昧な指示の解釈を失敗しながら、職場の雰囲気に忖度して、現場での判断力を身につける」という文化はまだまだ残っている、というのが、「何でですか?」の分断を悪化させているではないでしょうか。

最後に、今の若い世代は、逆に言えば、「今やっている仕事の最終目的、ゴールの成果」が見えて、腹落ちすると、もの凄いモチベーションと力を発揮する傾向があります。そして、「最後のゴールを共有すること」が、彼らにとっての「素直な行動」なのです。彼らの「何で?」は逆らいたいわけじゃない、むしろ理解をしたいのだと言うこと。

それに対応する態度は「反抗心を押さえつけること」ではなく、「最終ゴール、成果を共有するために説明をすること」と理解すること。

若い世代は、上司世代は「ぶっつけ本番」の教育を受けていること。そして、若い世代の失敗は、上司世代(50代以上)から見ると思っているほどマイナス評価にならない、ただし先輩世代(氷河期)からの評価には気を付けて。

というところでしょうか。

今日は、主語の大きい話をしました。


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