見出し画像

食べ物の「顔が見えてる率」を上げていく

今月発売のPenにて、大学同期でビジネスデザイナーの菊池紳君が掲載されていました。

(ちなみに、発酵特集では小泉武夫先生、舘博先生が解説をされています。ご興味のあるかたは是非ご覧下さい。)

その中で、菊池君が新型コロナで生じた買い占めなどの現象について、こうコメントしていました。

「少し考えれば、野菜が足りなくなるはずはないと分るのにそうなったのは、生活者が売り手を信頼していないから。自分が困ったときに助けてくれると思っていないんです」
(中略)
「日本の自給率を考えることも大切ですが、自分の自給率を考えてみてもいい」

そして、菊池君はこれを「食縁」と読んでいます。

私もこの考え方に賛成です。そして、加工食品にもこの考え方は適用できるのではないでしょうか。

というのも、種麹について、今でもネットに一部文章が残っていますが、

・X線照射している(していません)、
・薬剤処理をしている(していません)、
・遺伝子組み換えをしている(していません。そもそも法律で禁止されています)、
・突然変異株を使ってる(世の中の進化はほとんどが突然変異の積み重ねです)、
・化学物質の培地を使っている(培地は特注品を除き、普通のお米だけです。そして米だってその成分はでん粉やミネラルなど化学式で書き表される化学物質です。)など、

あることないこと想像で掻き立てられ、不安を煽られました。

しかし、ここ半年、大きく情勢が変わってきたように感じます。少なくとも、いわゆる「発酵クラスタ」と呼ばれるような範囲において、種麹について理解が大きく進んでいるような手応えを感じます。

これには、私が種麹メーカーの当主として顔を出してSNSやnoteなどで発信するようになったこと、つまり「種麹メーカーの顔が見えたこと」によって、お客様の安心度を高めることに、微力ながらでも繋がったのではないかと思うところです。

そして、食に関心のある人の多くは、大手食品加工メーカーを過剰に嫌う傾向があるように思います。そりゃ、例えば添加物だって「顔が見えない人が、よく分らない方法で作って、その中で使ってる、それがどんな形をしてるのかも分らない化学物質」は「安心」を感じないですよね。その気持ちは分ります。

これは、大手食品加工メーカーの「顔の見えなさ」に起因するのではないかと思います。もっと、研究員の方や工場の方などが持つ、「お客様に安くて美味しくて安全な商品を届けたい」という想い、が伝わればいいなと思うところです。

そして、大手メーカーの研究力があるからこそ有用な技術が開発され、末端に伝わり、美味しい食品が造られ、安全に流通することが出来ます。

日本酒業界も、大手メーカーが小規模メーカーと対比される傾向にあります。

江戸時代ぐらいまでは、日本酒は「腐る」ものでした。そして、「防腐剤」をいれなくては現在のような流通が出来ないものでした。しかし、今、日本酒って風味が落ちることはあっても「腐る」ことはないですよね。「防腐剤」が入っていないのに、腐ることがない、これが日本酒の当たり前だと思っている人の方が多いと思います。

こういう「安心な日本酒」が手に入るようになったのは、1世紀に亘り、酒を管轄する大蔵省(現在の財務省)、そして、大手メーカーを中心とする酒造メーカーの絶え間ない研究と技術開発、現場の工夫の積み重ねと普及が進んだからこそ、現在では、全国どこの居酒屋でも、全国各地で作られた、大小様々な酒蔵のお酒を楽しむことが出来ているわけです。

大手メーカーは「安全」はしっかりしていますし、そこに対する研究開発の熱意は心から敬意を表するところです。

「顔の見える範囲から食品を買う」ということ。それを農畜産物、水産物などの話だけで無く、加工食品についても「顔の見える工場から買う」ということ。そして「消費者として、頭ごなしに工場加工品を否定せず、実際に研究者や工場で働いている人を人として尊重して顔を見ようとする」ということ。

それをしていけば、もっと「食縁」の範囲が広がり、食の選択肢が豊かに広がるんじゃないかとおもいます。

今日の話はここまで。

最後までご覧いただきありがとうございました。 私のプロフィールについては、詳しくはこちらをご覧ください。 https://note.com/ymurai_koji/n/nc5a926632683