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世界は闇で満ちている ⑨
重い扉は映画のワンシーンで見た独居房の様に静かに開いた。
「中西さん起きましたか?」
その言葉と同時に男性が入ってきた。
床に座っている僕をジッと見つめ
「…やっぱりヨシキや!わかるか?俺!
平碰(ヒラバエ)よ!」
一瞬潮の香りがし
頭の中が幼少期の頃の記憶に埋め尽くされた。
海辺の小さな田舎町で野球をしている。
半袖、半ズボンで汗ビッショリになりながら
ボールを日が暮れるまで追いかけ回した。
その中に3歳年上の隣の地区のお兄ちゃんがいた。
野球が上手く面白い。歳下にも優しかった。
30年近く会ってなくかなり老けていたが、
その優しい顔はあの頃から変わっていない。
「平碰さん?平さん⁉︎」
「そう平碰よ‼︎色々大変だったな…大丈夫か?」
「平さん今日は何日?」
「6月5日。」
「⁉︎」
「そっか記憶が曖昧なんだな…いきなり整理するのも無理があるから、煙草吸うだろ?煙草でも吸って落ち着け。」
平碰さんから言われるがまま、小窓付きの重い扉から2人で出る。
扉から出るとすぐにナースステーションに繋がっていた。看護婦さんらしき人達は特に僕に視線を送るわけでもなく淡々と業務をこなす。
看護婦さんの傍を通り廊下に出た。
廊下には年齢、性別問わず沢山の人が…
頭が尚更混乱した。
「ヨシキ此処で吸うよ」
腰に付けている数あるカギの中からひとつ選び
喫煙室のドアを開ける。
「マルボロだけど大丈夫?」
と言い火を着けてくれた。
僕はゆっくりと煙草の煙を吸い込み吐き出す。
状況が理解出来ないのと久しぶりの煙草で
余計にフラついた。
「平さん…何処?」
煙を吐くと同時に言葉を吐いた。
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