デザイナーとしてのアクセシビリティとの向き合い方
こんにちは、freee株式会社でデザイナーをやっているymrlです。
この記事は freee Designers Advent Calendar の4日目です。
freeeで私はアクセシビリティチェック体制を整備したり研修やったり、アクセシビリティまわりのことをいろいろやってきました(詳しくは、去年までのは「2021年、freeeのアクセシビリティを振り返る」やそこから辿れる過去の記事に、今年のは12日にきっと magi さんが書いてくれます→「2022年、freeeのアクセシビリティを振り返る」が公開されました!)。
たまたま先日、新しく入社してアクセシビリティ研修を受けたデザイナーと話したとき、そういえばデザイナーになってからどういう気持ちでやっているのかを表明していなかったなと思ったので、改めて書いてみます。
デザイナーの作るものには、アクセシビリティはもともと存在している
ここ1年以上、freeeに入社する人や、業務委託として参加してくださる方向けにアクセシビリティの話をしているので、もう数百人にアクセシビリティというものの説明をしているはずです。いくつか大きなイベントでも話をさせてもらっているので、それを含めるともう数千人くらいになってるかもしれません。
私の伝え方が良くないのかもしれないんですが、聞いてくださった方々の反応を見ていると、アクセシビリティを「特別なもの」「付け加えるもの」として解釈してしまう人がそれなりにいるようです。
ところが自分の解釈ではそこは違っていて、アクセシビリティは、とても普遍的で、その高低はあれどすべてのものに最初から存在しているものです。
よく「アクセシビリティは『使える状況の幅広さ』であって、その『状況』には『高齢である』『障害がある』以外にも『眼鏡が壊れた』とか『マウスの電池が切れた』とかも含まれますよ」という話をしているわけですが、そういう表現ではなかなかピンと来ない人もいて、「アクセシビリティを『付け加え』なければならない」と思ってしまうかもしれません。
ここで、「アクセシビリティが究極に低い状態」を考えてみます。つまり「使える状況がとても狭い」「誰であっても使うことができない」ということです。そんな状態のものを作りたい人なんているんでしょうか?デザイナーという仕事をしている人にはそうそういないはずです。
「作ったものを誰か1人に使ってもらえた」ということは、「その人の状況でそれはアクセシブルであった」ということの証明になるはずです。私たちの作っているものには、最初からアクセシビリティが存在しているのです。
アクセシビリティを高く、安定させる
とはいえ、ある人にとってアクセシブルであるという状態でも、他の人にとってもそうであるとは限りません。
「ユーザビリティ」という言葉の定義を調べると、だいたいどの定義にも「特定のユーザーが特定の利用状況で」というような但し書きがついています。
ユーザビリティの高いものを作るために、デザイナーは、どんなユーザーが、どんなときにどんなふうに使うのかを想定しながら設計していきます。そのユーザーの利用状況は、当然それを届けたい対象としてそれなりに納得感のあるものでしょう。ほとんどの製品なりシステムなりサービスは、それなりの人数に売れるように作られるだろうし、そのためにはそれなりの人が使えなければなりません。
なので、デザイナーの作ったものは、ほとんどの場合それなりにアクセシビリティが高いものになっているはずです。
ところが、実際のユーザーは設計時に想い描いていたユーザー像や利用状況の通りとは限りません。想い描いていた要素のなかにはあてはまるものもあるでしょうが、全部がピッタリ思い通りになるとは限りません。年齢や性別、職業、趣味嗜好、使っているデバイス、文化や慣習、一回一回の行動、思考や感情、得意不得意、そして身体能力や認知能力、障害の有無など、様々なところに違いが出てきてしまいます。
そういった「違い」があったとしても、ちょっとした範囲の違いであれば、ユーザーが多少不便を感じることがあったとしてもそこそこ使えてしまったりします。
ところがその「違い」がちょっと大きくなると、全く使えないなんていうことが起きてしまいます。それが起きやすいのが、障害のあるユーザーだったり高齢者だったりするし、ふだんは使えていたユーザーも一時的な状況の変化によって「使えない」側になってしまうことが起こります。
アクセシビリティの観点を持っているデザイナーとそうでないデザイナーの違いは、そういう「違い」はどんなところに発生しそうで、どこまで対処できるのるかを見据えながら設計をできるところだと思います。
アクセシビリティの観点を知らなくても、デザインしたものを誰かに使ってもらうことはできます。それは障害者や高齢者、あるいは何か想定外の状況にあるユーザーでも使えるかもしれません。しかし、アクセシビリティの観点を持っていなければ、どんな状況で使えてどんな状況で使えないのかを想像して作ることができません。なので、最初に作った製品Aはアクセシビリティがとても高いが、次に作った製品Bはそうでもない、なんていうことが起きてしまいます。
アクセシビリティの観点を持つというのは、安定して毎回アクセシビリティが高い状態でものを作れるようになることなのではないでしょうか。前に作ったものを使える人が、次に作ったものもまた使えるという状態にできるるというのが、デザイナーがアクセシビリティの観点を持つ意義なんじゃないかと思っています。
作りながらチェックする、チェックしながら作る
安定して高いアクセシビリティのあるものを作っていくために、具体的には何をするべきなのでしょうか?
作ったものに対してチェックリストに従ったチェックをすれば、たしかにそれにどんな問題が存在しているのかがわかります。とりあえずチェックをパスするようにしておけば、チェックリストが適切であればアクセシビリティの高いものが作れたと言えるはずです。
freeeでは開発現場の実態にあわせて、WCAG 2.1をベースにチェックリストを整備しています。チェックリストはデザイン時・実装時・リリース前に使える3種類を用意していて、現在freeeのプロダクトデザインでは、すべての画面デザインに対してデザイナーがチェックするようになっています。
私のチームではアクセシビリティチェックリストの改善のために、毎週、社内で行われたアクセシビリティチェックのリストを眺めています。そこであるとき、あるデザイナーが作ったチェックリストを見たときに「これが正しい使い方なのでは」という話になりました。
チェックリストはGoogle SpreadSheetで作られていて、チェック項目ごとに補足欄が用意されています。そのチェックリストはその補足欄に、「××の部分がNGになってしまうので○○にして、OKに変更した」というように、1枚のチェックシートで問題点を発見し、修正した記録が残されていました。
それまでfreeeでのデザイナーが行っていたチェックのやり方では、画面を全部作りきってからチェックを行っていました。作りきってからチェックをしていたので、デザイナーと真正面からぶつかるような状態になってしまっていました。作っているときに抜けていた観点があるとギャップが大きくなってしまい、何をどう変更して良い状態に落とし込むのかを考えるのが難しくなっている状態が見受けられました。
freeeでデザイナーがやっているチェックは、セルフチェックです。リリース前にQAチームが行っているチェックと違い、作る人とチェックする人は同一人物で、NGをつけたものを別の誰かに渡してコミュニケーションすることはありません。自分でチェックして、自分で直すのです。
であれば別に、わざわざ作り終わってからチェックしなくてもいいのでは?ということになるのではないでしょうか。チェックリストを先に作って、ある程度デザインができてきたらチェックをして、NGになった場所を直しつつブラッシュアップして、できあがったら再度チェックをするようにすれば、作り切ってから全項目のチェックをして、たくさんNGが出て作りなおしになってしまうよりも効率がいいはずです。
前述のとおり、デザイナーが作るものはそもそもそれなりのアクセシビリティがあるわけで、チェックリストを「デザイナーに真正面からぶつかるもの」として捉えるのではなく、「デザイナーのアクセシブルなものを作る力をアシストするもの」として活用するほうが、気持ち的にもやりやすくなるはずです。
おわりに
アクセシビリティの活動をやっていると、どうしてもアクセシビリティが低かった事例の話をすることが多く、そういうものに目が行ってしまい、そういう話ばかりになってしまいます。ところが、そういう画面がたまたま一つあっても、大半の画面はそこまで致命的な問題があるわけではない、ということがほとんどなのです。
デザイナーは何も意識していなくてもアクセシビリティのそこそこ高いものを作ることができるし、あとはそれを安定して高く保って、作るもの全体を通して大きな問題がない(できれば小さな問題もない)という状態を作ることをアクセシビリティの取り組みの目標にして、社内の研修やプロセスづくりを進めていきたいなと思っています。
明日はnikoさんです。お楽しみに!
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