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Renewal Sales は "Sales"?

外資でCSMをするようになってから沸々と湧いてきた疑問。
それは、リニューアル担当は「Sales」なのか?

CSM だけではない "Customer Success xxx "というポジション界隈の話はだいぶ色々なところでされてきたのに、なぜ「リニューアル担当(リニューアルセールス)」に関しては盛り上がりに欠けるのだろうか?
日本の SaaS 企業でこのポジションを名乗る方々がおそらく少ないのもあるかもしれませんが、個人的に「リニューアル担当」のポジショニングは何年か前からずっと気になっていました。

今も昔も(というほどでもないですけど・・笑)、とてもとても気になっていた Renewal Sales について、今回は考えてみました。

※内容は長めです・・・笑

Renewal Sales とは?

"Renewal" という名称の通り、サブスクリプションの契約をお客様に更新していただくためのコミュニケーション、ペーパーワーク(書類等のやりとり)、請求管理(未入金の場合の催促など)を行う担当者です。
"Sales" という点では、更新時のアップセル、クロスセル、解約阻止のミッションも担うことが期待されています。

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↑↑ Renewal Sales (Renewal Manager とも呼ばれる)ポジションの KPI など


だいたいが、CSM 等からの Handoff を受けた後、契約更新のxx日前からお客様と更新に向けたコミュニケーションを始めて・・・といった Playbook に定義されたタイミングで活動を始めるのが一般的です。

この時点で既にツッコミどころがあります。

更新の数か月前からのアプローチで果たして更新時にアップセル・クロスセルできるのか?
更新の数か月前からできる解約阻止ってあるのだろうか?

Renewal Sales が顧客と接点を持つのは、「更新のコミュニケーションを行っている間」のみで、それ以外は Sales や CSM 等で顧客のフォローやリテンション活動を行うのが基本です。
それまでの関係性がない中で、たった更新前の数か月の間にアップセル・クロスセルのための営業活動や解約阻止が果たしてできるのか?と考えてしまいます。。

 "Sales" の数字の責任を持たせることに対する課題

Renewal Sales が更新に向けたコミュニケーションを始めるタイミングは、どんなに早くても更新4,5か月くらい前からと定義しているところが多いですが、この辺のタイミングでは、もう大きな流れを覆すような働きかけはできないことがほとんどです。

最初の更新の場合、流れはかなり前、オンボーディング(Adoption フェーズ)でだいたい決まります(だから「オンボーディングは大事」だと言われています)。
仮に更新のタイミングでアップセルができたとしても、Renewal Sales が動いて取れたものだとしたらかなりラッキーで、実際のところ、Upsell や Churn 阻止に最も貢献しているのは、Account Executive・Manager(Sales)やCSMだったりします。大型案件ならなおさら、こんな短期間で発掘からクローズまで話がまとまるはずはありません。
Renewal Salesは契約期間が終了する前に更新を確実にしてもらうためのやりとりをするという関わりになってしまっているのが現状だと思います。

Renewal の役割を担うタイプは「Sales型」と「Operations型」(と定義してみました)に分かれると考えていますが、外資のRenewal Salesは、「Operations型」でかつ、 Sales の KPI を持ったポジションが多い印象です。

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Operations 型に Renewal Rate や Cross/Up Sell といったSalesのKPIを持たせていると、Renewal Sales を "Sales" ポジションとして考えているメンバーがフラストする状態になることは容易に考えられます。
更に、日本の外資系ベンダーはパートナー商流の割合がかなり高いことも災いし、Partner Block(パートナー商流のエンドの状況が見えない、関りを拒まれる状況を指す)はじめ、社内のパートナーセールス、アカウント付きの Sales の立ち位置も、Renewal Sales の Sales Play の難易度を上げます。

Renewal Sales を "Operation" のようなポジションとして意識しているメンバーにとっても、一般的な "Sales" ではないにも関わらず、課せられている目標と自身の役割とのギャップに悩むことになるでしょう。

 "Sales 型" のようなタイプの Renewal Manager は外資にはあまりいないという印象ですが、このタイプの場合、「既存顧客担当営業」として CSMと同等の関わりも求められる傾向にあります。
Sales と Success のロールが同居してしまうと、コミッション次第でもあるかと思いますが、数字もはっきりしていてインパクトのある Sales の責任の方が優先となり、Success があまり機能しなくなることも耳にします。

ちなみに、日本の Sales は新規獲得する前からその後もずっとハイタッチで関わるマインドが強いですが、海外のSalesは売った後は継続してOpportunityがない限り Renewal Sales や CSM にさくっと渡されるか、もしくは、勝手によしなにやっててくれるだろう・・・と考える人が多いです。
そのため、Operations型のRenewal Salesであっても、Sales のサポートのような位置づけにはなりにくいと考えられます。

Renewal Sales が "Sales" として機能するには?

これまで、自身も「既存顧客担当営業」と称する CSM や、Sales と Renewal Manager のハブとして動いてきた経験からみると、すべてのRenewal Opportunity に対して、Renewal Sales が "Sales" として機能するのは難しいのが現実です。

求められている役割から、Renewal Sales が本来の意味合いでの "Sales" として活躍するには、アサインする範囲をAccount Manage に時間を割かなくてもよいアカウントのみに絞ることです。

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"Sales" として機能しやすいケースとしては、一度導入した後は基本的にユーザーライセンスのオーダー程度のコミュニケーションで済むようなサービスや、基本的にTech Touchや自動更新で済ますようなアカウントのアサインが考えられます。

サービスのラインが豊富で、活用の成熟度によって利用する製品サービスが増えるようなケース、一度展開しても継続的な教育支援や定着化支援が必要なサービス、利用部門が複数ありそれぞれで契約のコミュニケーション等が必要な大企業アカウントですと、Renewal Sales のような「更新のコミュニケーションを行っている間」のみの関わりでは、"Sales" という動きは難しく、 "Operations" メインの動きにならざるを得ないことが多いでしょう。
このタイプのサービスやアカウントに、ACV/ ARR や Renewal Rate、Upsell / Cross Sell のような Sales の数字を持った Renewal Sales がアサインされると Sales と利害が衝突することがよくあります。

CSM との Conflict や重複も...

まだこれが議論になるようなフェーズにある外資系サブスクベンダーの日本法人は数少ないだろうな…と感じつつ、フェーズによってはありそうな話として、Renewal Sales と Customer Success Manager のロールの conflict や重複があります。

Sales が High touch で対応できなくなって CS ロールのニーズが出てくるのと同じように、CS が対応できなくなってきたところをカバーするリニューアル担当が出てくるという流れです。
そうなると、Renewal Sales は "Service" か?という点も Good Question ! になります。

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TSIA: RENEWAL SPECIALIST: IS IT A SALES ROLE OR A SERVICE ROLE? より

この課題はまさに私自身が今直面しているもので、こちらに加え、Renewal Salesは "Sales"か?という課題も blend & mix という感じになっております。。汗

日本の場合は「パートナー商流」が主流となっているベンダーも多いので、こちらがうまく機能するなら、Renewal Sales が Service に寄りすぎてしまう状態になることはないだろうと考えています。
ただ、うまく機能しない状況が続くと、Churn の責任は CS にあるのか?Renewal にあるのか?と押し付け合うことになるだろう・・・という光景が目に浮かびます 笑

まとめ

黎明期の"Customer Success Manager"と同様に、"Renewal Sales"も、まだまだ emerging なポジションで、更に日本の場合は、従来の on premise - perpetual 時代の保守更新担当と重ね合わせてみられたり、Salesのマインドセットの違いやパートナー商流等、海外とは違った事情も合い重なり、Renewal Sales を取り巻く環境はとても複雑です。

Global の組織から落ちてくる Renewal Sales という役割は合わせつつ、リニューアルを担当するメンバーが生き生きと働けるように組織を設計したいのであれば、下記の点に配慮するとよいでしょう。

★ Renewal Sales に "Sales" として機能してもらいたいのであれば、Account Manage にコストのかからないアカウントをアサインする

★ Operations型になる Renewal Sales には Sales より Operational Excellence 寄りの数字責任を持たせ、Sales と同等のComp planにしない

★ Sales型とOperations型が混在するような場合は、Sales や Customer Success Manager との Roles & Responsibilities をアカウントのセグメントや、契約更新までの時間軸レベルで定義する

★ 採用時のポジション名や JD に、Sales型の動きを求めるのか?、Operations型の動きを求めるのか?わかるように記載し、Operations型のリニューアル担当を「Renewal Sales」という名称で呼ばないようにする

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個人的には、日本は「既存顧客担当営業」みたいな位置づけにしてしまったほうが Employee Sat を考えるとよいのかな~と思いつつ、大企業がメインターゲットのような外資系ベンダーだと、本当に真新しい新規というのはあまりなく、既存からのOpportunityに寄ってくるので、「新規顧客担当営業」という概念がないともいえます。
接待はじめ「おもてなし」文化が Sales に浸透している日本で、Global から落ちてきた仕組みをそのまま使うと、モチベーション維持にとても苦しむのは、CSの立上げでだけでなく、リニューアルの立上げもきっと同じでしょう・・・笑

昨年あたりから、日本でもリニューアル担当を募集する外資系SaaSが少しずつ増えてきた印象がありますが、黎明期の CS 同様、既存のロールと似て非なるものでもあるため、きっと新任のリニューアル担当も「JDに書かれている仕事と現実のギャップ」に悩むだろうな・・・と感じています。
海外含め、リニューアル担当にスポットライトがあたった情報はあまりないのですが、更に外資系特有の事情の部分は、日本のSaaS界隈で出てくるようなCS記事では、当然ながらあまり目にすることがありませんでした。。

そんな迷えるリニューアル担当のみなさまに少しでもお役に立てれば幸いです。

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