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"うまい棒"は実は"うまくない"ことが数学的に証明された話

「うまい棒」をご存知だろうか。

一本10円という驚異的な価格で販売を続ける、棒状のスナック菓子である。

そしてその味については言うに及ばない。

そう、「うまい」のだ。

有無を言わさないネーミング。圧倒的語彙力


今日、スーパーに行くとうまい棒はやはり駄菓子コーナーに陳列されていた。

久々に食べたくなりついつい買ってしまったが、10円というのはやはり嬉しい値段。

「ついつい」買う割には桁が違う。いい意味で。


童心に返りはしゃぐ俺


早速食べようとビニール袋から取り出した。

そのときだった。

購入したうまい棒には、ある文言が刻まれてることに気づいた。



おいしさアップ




嘘だろう


あの

あの、ただでさえ「うまい」と豪語するうまい棒のおいしさが



アップ?



私は、ゆらゆらとかぶりを振り、そのまま地面にぺたんと座り込んでしまった。

にわかに信じられなかったのだ。


しかし、頭を抱えながらもあることを思い出した。



そういえば、去年地域の抽選会の参加賞でもらった時も。

中学生のころ、花火大会のあとの清掃ボランティアでもらった時も。

小学生時代、学童のおやつで出された時も。


そこには、常に「おいしさアップ」の文字があった。


何年にもわたっておいしさアップの主張を繰り返すうまい棒。

これほど長い期間に渡って主張し続けているのだから、おいしさが変わらないはずがあるまい。

つまり

うまい棒は

過去数年のあいだ何度もおいしさをアップし続けていたのだ。


もうこれはうまい棒どころの騒ぎじゃない。

もうすんごい、すんごい棒になっているに違いない



一体、どんな味なんだ。



額から滴る汗が目につたり、視界がぼやける。

脈打つのが次第に速くなり、呼吸が荒くなる。

そしておそるおそる、それを咀嚼したーーー



バリッ

ムシャ...

ムシャ...



ゴクン





...



あれ?




おかしい。

待ち受けていたのは、いつもと変わらないうまい棒。

安定の、チーズ味だった。


なぜだ。


おいしさがアップしているはずなのに、おいしさがいつもと変わらない。

ではなにが

なにが どう アップしたというのだ



この疑問を解決するには、

うまい棒の「うまさ」そのものについて疑ってみる必要がある


そして論理的思考の末、うまい棒のうまさを数値化することに成功した。

以下、私が打ち立てた理論について説明することにしよう。

(理論がどうでもいい方は"ーー"で括られたところは読み飛ばしてください)


ーー

今、手元にあるうまい棒は次の二種類である。


図1: うまい棒を真上から観察した様子


・うまい棒 チーズ味
・うまい棒 めんたい味

これらのうまい棒と、「おいしさアップ」という文言をもとに、うまい棒のうまさに対する考察を進めたい。

ただし、めんたい味は「パワー」という謎の要素がアップされているので対象としてふさわしくない。

よって、今回はチーズ味のみについて考えるものとする。(以下、誤解のない限り"うまい棒チーズ味"を"うまい棒"と表記する。)


図2: 学級通信の見出しで濫用されるフォント


ここで、「うまい棒のうまさ」を未知数Uとして定義する。("うまさ"のU)

また事実から、この未知数Uは以下の2つの条件を満たす。


1.過去に一回以上おいしさアップされている
2.おいしさアップの前後でおいしさが変わらない


これらの条件をもとに立式するとき、もとのUに何かしらの"おいしさ"が足される、もしくは掛けられることでおいしさアップされていると考えるのが妥当だろう。

以下、これら2つの場合それぞれについて考える。

1. 足し算の場合

おいしさアップ前後のうまさは次のような方程式で表される。

U + δ = U

ここで、δとは「おいしさアップ量」である。

例えばもとのうまさUが1で、アップ量δが3であれば、おいしさアップ後のうまさは4となる。


Uにδが足されることによっておいしさアップするので、必然的にδは0より大きい数である。(もしδが0以下、例えばδ=-2だとすると、δを足してもおいしさアップしない)

一方、条件2から、足し算をしてもうまさは変わらないので、右辺はUのままとなる。

つまり先程の例のような場合は条件に反する。


この方程式の左辺を移行すると、

δ = U-U

となる。ここでUを消去して

δ=0

となる。


これは、先のδが0より大きいという条件に矛盾する。

よってこの方程式を満たすUは存在しない。

これでは話が進まないので、足し算の場合は考えないこととしよう。


2. 掛け算の場合

k×U = U

右辺がUなのはさっきと同じ理由。左辺のkは、1よりも大きい数である。

(kが1よりも小さい場合、たとえばk=0.5のとき、掛け算をするともとのうまさより小さくなってしまう。)

この方程式の右辺を移行して変形すると、

kU - U = 0

すなわち

(k-1)U = 0

となる。ここで、kは1より大きい数なので、(k-1)は0より大きい数となる。

つまり、この方程式を満たすUの値は、0のみとなる。


以上の結果を合わせると、うまい棒のうまさUは、0で与えられる。

ーー


驚きの結果が得られた。

「おいしさアップしたのにおいしさが変わらない」ことを軸に考えると、

うまい棒のうまさは、0という数値になるのだ。


うまさ0


これは何を意味するのだろうか。

ここで、改めて数値とうまさの対応関係を定めよう。


・数字が大きいほどうまさが大きい
・「まずさ」はマイナスの値で表す


ここまでは自然な考えだろう。

数値の大きさで大小関係を把握できるし、マイナスの値を使うことで「うまさ」の対極である「まずさ」も表現できる。


では改めて、うまさ0とは何か。

プラスとマイナスの狭間。うまいとまずいの中間。

うまさ0とは、うまいわけでもまずいわけでもない。




つまりうまい棒とはうまくはない。

ふつうである


そして同時に、うまい棒は「うまい」と語る権限を剥奪されたのだ。




そう


あのおかしはもはや「うまい棒」ではない。


紛れもなく「棒」である。


我々は、長年に渡って10円を支払って棒を購入し、棒をむしゃむしゃと咀嚼していたのである。

学童のおやつで。

ボランティアの報酬で。

そして今日、スーパーの帰り道で。


しかしおいしさが普通であることが証明されてもなお、長年愛されているのには、味以外に何か理由があるからなのだろう。




例えばほら。

先のめんたい味からもうかがえるように、少なくともうまい棒にはパワーがある




みなぎるパワー。

棒から放たれる、パワー。

パワー。

パワー。

パワー、アップ。





なんなんだよパワーって

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