おもいで-踊り場事件 第二話
午後3時。
少年たちは、二階の一室にいた。
親のいない家。
誰にも指図されることのない閉空間。
むしろ絶好のたまり場なのだ。
たしかあの日は、友達7人くらいを家に呼んで、プレステ2の太鼓の達人に夢中になっていた。
曲をえらぶドン!
今日は”テイレイケン”というオトナたちのイベントがあるらしい。まったく無縁の子供たちにとって、いつもより早く帰って遊べる日でしかなかった。
笑い声が聞こえる。
ゲームを始めて、もう30分をゆうに超える。
いつもなら、「もうやめなさい」という父もいない。
ぼくはこんな時間が好きだ。
こんな時間が、いつまでも続けばいいのに。
しかし、それは幻想に過ぎなかった。
「ガチャッ」
?
空耳だろうか?
鍵が開けられるような音が聞こえた。
まさか。
父は仕事に行っていて、7時までは帰ってくるはずがない。
それに我が家の鍵はツーロック。
もしそうなら、2つ目を開ける音が聞こえるはず。
しかしこの瞬間、昨夜の食卓での会話が、走馬灯のように頭をよぎった。
「そろそろ、有休を消費しないと来年度に繰り越せないんだよなぁ」
ユウキュウ。当時はどんな字を書くかもまだ知らなかったが、まさかそれとこれと何か関係があるというのだろうか。
果たしてその予感は的中するのだった。
ガチャッ
この曲であそぶドン!
たむろしているこの部屋には、相も変わらず平穏な空気が流れ続ける。
父が帰ってきた。
この事態の深刻さをみんなはわかっているのだろうか。
知る由もない。
「遊ぶ家がないって?それなら俺んちこいよ!! 今日はだれもいなくて遊び放題なんだ!!」
帰り道、豪語したのはこの一言だけだった。もっと大事なことを伝えておくべきだった。
「見つかったらまずい、万が一のため、長時間はたむろしないほうがいい」
その一言だけでも伝えるべきだった。
しかしもう遅い。
階段を駆け上がる音が聞こえる。
まもなく、部屋の扉が開いた。
さあ、はじまるドン!
さっきまで流れていた空気がウソのように凍りついた。
友達も、さすがに事の深刻さに気付いたらしい。
ぐるーっと、部屋を見渡す父。
そして父は言う。
「こんにちは」
とても穏やかな表情だった。
僕と目が合った。
そして父は言う。
「来なさい」
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