ステマ新規制はゲーム配信に影響を及ぼすか?
こんにちは。弁護士の松本です。本日、消費者庁において検討が進められているステルスマーケティング(いわゆるステマ)規制について、方向性が明らかにされましたので、以前より懸念していたeスポーツ・ゲーム実況ビジネスにおける影響について少し検討してみたいと思います。
ステマとは(確認)
ステルスマーケティング、通称ステマは、簡単にいえば、一般の人がそれを見て「広告だ」と思わない方法で広告・宣伝を行うことをいいます。よくあるのが有名人、インフルエンサーを用いて行うもので、ある有名人が「この化粧品を愛用してます!おススメです!」とSNSに投稿したものの、実はそのメーカーからお金をもらって投稿していました(つまり、「案件」だった)というのがわかりやすい例かなと思います。化粧品に限らず、あらゆるサービス・業種で起こる可能性があるものなのですが、そもそもこのようなステマは法律上は明確な規制対象とはされてきませんでした。
一方で、消費者保護の観点からは、やはりステマの問題意識は広がっており、近年では、WOMマーケティング協議会が公表しているガイドラインに基づいて、PR表示を行う、といった自主規制が実質的なルールになってきていました。しかし、このルール・自主規制は必ずしも守られておらず、例えば過去には以下のような事例もありました。
ステマ新規制はどのようなものか
今回公表された新規制の詳細や背景については、上記リンクの「ステルスマーケティングに関する検討会 報告書(案)」をご確認いただければと思います。とはいえ、全部読んで内容を理解するのは骨が折れると思いますので、簡単に概要をご説明しておきます。
ステマは「不当表示」(景品表示法5条3号)として規制される
今回の整理では、ステマは上記の景品表示法5条3号に定める「・・・商品又は役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認めて内閣総理大臣が指定するもの」として、消費者庁の通達(指定告示)によって新たに不当表示に「指定」されることになりました。
これまでにも、おとり広告(最近はスシローで話題になった広告類型)や、原産国の偽装など、いくつかの類型が不当表示として指定を受けていましたが、今回新たにステマがその対象に含まれるということになります。
ではさっそくステマが通達上どのように定義されるか、見ていきましょう。
上記の定義を簡単に言えば、「実態が広告であるにもかかわらず、一般消費者から見てそれが広告であると判断することが難しいもの」、ということになります。
こちらの定義は、それぞれ細かい背景があって、ある意味(というととても失礼なのですが)よく考えて設定されています。端的に言えば、
第三者が行う広告であっても、「事業者が表示内容の決定に関与」した場合には自らの広告として規制対象となること
広告と書いていても、動画上で一瞬のみ(例えば冒頭のみ)表示されるようなケースは「判別することが困難」という判断がなされて規制対象となること
といった点が通達上補足される模様です。
ゲーム配信への影響
さて、本題に入りましょう。私は、今回のステマ規制は、広く行われつつあるゲーム配信にも少なからずの影響を及ぼすと考えています。
例えば、最近では、影響力のあるストリーマーがオンラインゲームをこぞって発売日近辺で一緒にプレイするという風潮が特徴的で、これによってユーザーも「このゲームが面白そうだな」とか、「このゲームがストリーマーの間で流行っているんだな」と認識することもあるのではないかと思います。
ここで、あるストリーマーが、ゲーム会社からゲームの提供を受けて発売日にゲーム配信をしていたとしましょう。この場合、ゲーム会社が「事業者」として、配信の内容についてストリーマーに指示・依頼をしていた場合には、これは「広告」としてきちんと表示をしないと、ステマに該当する可能性が高くなります。ここで、報告書案の内容を踏まえると、
配信の冒頭や一部において「広告」案件であることを表示することでは不十分で、配信中に「プロモーション」「PR」「●●社提供」といった文言を用いて視聴者が広告であることがわかりやすいように配慮する必要がある
ゲーム配信を予告する旨のツイッター投稿などでも、厳密には、PR表示等をハッシュタグで表示しておくことが望ましい
イベントの予告配信・練習配信といった文脈でも、主催者から依頼を受けて配信している場合には、そのことをきちんと表示しておく必要がある
といったことが導かれます。もっとも、実情を見る限り、このような案件が徹底されているとはいいがたく、ゲーム実況の分野においてはステマといわれても仕方がない案件も少なからず混在しているように見受けられるため、今後は一層注意が必要です。なお、この規制がいつから適用されるかは現時点では未定ですが、あまり遠くない時期と思われますので、今の時期から規制を意識した実務対応が求められます。
もちろん、今回の報告書案は、全てゲーム配信の実情を踏まえて策定されたものではないため、ゲーム配信の背景を踏まえると必ずしもそぐわない部分も出てくるかもしれません。そのため、ストリーマー・所属元の間でPR表示についての基準が整理されることが望ましいと考えています。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?