無自覚なあざとさ

退社時に迎えに来てくれる約束。

少しムシムシする夜のオフィス街

広くて気持ちいいメインストリートを歩く。


わたしは、月を見て「綺麗」と言う。

ただそれだけの言葉に

彼は、嬉しそうに笑った。

「月を見て綺麗だって言う君が好きだ」


昔、足下を歩く蟻に話しかける私を見て、可愛いと言った彼氏もいたな。

そういう計算は無自覚であり幸せがやらせるあざとさでもある。

とにかく幸せなオンナは可愛いのである。


月が綺麗だと思ったのは本当。

幸せ過ぎて見るもの全てが美しい状態。恥ずかしいけど。


どんなことだって幸せなら出来てしまう。

人が困っていたら出来る限り手を差し伸べる。

落ちているハンカチだって持ち主を探そうと思う。

巣から落ちた鳥の雛だってなんとか助ける。

お年寄りが困っていたら、重そうな荷物を代わりに持ち、目的地まで送り届けようと思う。

悲しい涙を流す友達の涙を拭い、

嬉しいことがあった友達とは抱き合い一緒に喜ぶ。

そんなこと自然に出来ちゃうくらいに幸せな時期がその時。


月や星が綺麗だという心は今も持っている。


そういう彼は、今でも

月が綺麗と言うオンナが好きなんだろうか。




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