Records in Contexts(RiC):新しいアーカイブズ記述の基準

◆International Council on Archives Congress 2016◆

2016年9月8日
Records in Contexts(RiC):目録記述に関するICA専門家グループによって開発されたアーカイブズ目録記述のための基準

ICA総会3日目午後に聞いた発表。
(ICA総会については以前のnote参照)
これが最後のレポート!

アーカイブズ目録記述の国際標準のお話。

1. イントロダクション:背景、コンテクスト、重要な変化

発表者:Daniel PITTI氏(ヴァージニア大学)

◆アーカイブズ記述の専門家グループ
(ESAD:Experts Group on Archival Discription)
ICAプログラム委員会で2012年後半に結成。
アーカイブズ記述の概念モデルを進展させることを目的とする。

◆ICAのアーカイブズ記述の基準の変遷
1989-1992 Principles
1990-1993 ISAD 1st
1993-1995 ISAAR 1st
1996-2000 ISAD 2nd
2000-2004 ISAAR 2nd
2005-2007 ISDF 1st
2005-2008 ISDIAH 1st

◆アーカイブズの原則
1.出所原則
:出所が違うものを混同させてはいけない
2.原秩序尊重原則
:出てきたとおりの秩序を保つ
3.原形保存原則
:資料の原形を変更しない

 Records in Contexts(RiC)では
・上記の原則を体現化。
・原則をより広い意味で理解する。
・アーカイブズ記述の理論的・実践的な批評に基づいている。
・資料と、それらを生み出し、管理し、利用する主体は、別々に存在するのではなく、重層的に相互に関わり合うコンテクストにある。

Conceptual Model for archival description(RiC-CM)
・現在のICAの基準に似た概念モデル。
・アーカイブズ記述の重要なエンティティと各々の属性を記録する。
・アーカイブズ記述を形成するうえで、どのように構成素が関わっているかを図示する。
・2016年12月31日には利用できる予定。

An Ontology for archival description(RiC-O)
・RiC-CMに基づいている。
・W3C OWL言語を使って表現する。
・アーカイブズの記述概念について、連携した機関で使われる似た概念との位置付けを示す。文化遺産へのアクセスを統合する。
・アーカイブズ機関でいわば独自の用語を使えるようにする。
・RiC-Oのドラフト版は2016年の後半に利用できる。

◆ISAD(G)
今日のアーカイブズ記述で優勢の形式
・一つのフォンドに対し、階層的な(トップダウン型)記述。
・全体、全体の中の部分、部分の中の部分という記述。
・排他的で独自的とまではいかなくとも、大半は内部向け。
・広いコンテクストに結び付いていない。
・全てのものが1つの組織に含まれている。
・ISAD(G)はこのアプローチの一つのモデルで、EADはこれを相互にやりとりする方法。

◆RiCにおける重要な変化
・レコードとレコードの集合体を、二つの異なるエンティティとして扱う。
(レコードとレコード群。レコードは複数のレコード群に属する場合もある)
・多層的、多面的な記述を包括する。
・レコード、フォンド、主体、コンテクストの相互のネットワーク。
・より柔軟な記述(相対関係や図)で、一つの階層的な記述よりもレコードの複雑な実態を表現できるようになる。
・広い社会的ドキュメントネットワークとしての記述

2. Records in Contexts-Conceptual Model(RiC-CM)

発表者は、Bill STOCKTING氏(イギリス王室図書館・王室文書館)

◆概念モデルとは?
アーカイブズ記述において鍵となる高度な概念を記述する。
(1)エンティティ(レコード、主体、機能など)
(2)各々の属性(名前、記述など)
(3)エンティティの関係

(1) エンティティ

◆レコード・エンティティ
[レコード](Record)
恒常的形式や、継続したキャリア、方法、生活や仕事で起こる出来事の主体や活動によって表現される言語的、記号的、図表的な情報。ISAD(G)でいうアイテム。

[レコード構成素](Record Component)
レコードを形作るパーツ。

[レコード群](Record Set)
レコードがメンバーである集団あるいは組織。
・目的にそって同じ属性に基づき、主体によって集められた複数のレコード。
・一つの階層構造の中に別のレコード群を含むこともあり、フォンドあるいはシリーズ「レベル」や、他の「コレクション」記述に基づく伝統的な、多層的な出所に対応している。
・制作者やアーキビスト、利用者によって、同時または時を経て、他の方法でレコード群を形成することもできる。

[文書形式](Documentary Form)
レコードの形式を規定するモデルの定義をする。(特許状、手紙、Eメール、遺書など)
・RiCを古文書学に連結させる。

◆人に関わるエンティティ
[主体](Agent)
人、団体(法人、家族)、代替主体(ソフトウェア、ロボット、プローブ)
・特定の、あるいは想定されるアイデンティティの定義をする。
[職業](Occupation)[立場](Position)のエンティティも関わってくる。

◆ビジネス・エンティティ
RiCには、ISDFにはない次の二つのエンティティがある。
[機能](Function)
主体のおおよその目標や目的
[活動](Activity)
機能を果たすことで主体が実行する行動
⇒どちらのエンティティも、、独自の文化的コンテクストの中にあるとされており、コンテクストから独立した一般的な機能を理解するため、別に[機能(抽象)](Function(Abstact))というエンティティもある。

[権限](Mandate)
・主体の機能と活動を規定する権威や規則。
・主体が行動する権威の源は、
ー社会の習慣や個人のモチベーションによる。
ー法や規則、基準(例えばRiC!)のような文書に表現される。
・明示された文書があると、概要が分かり複雑にならない。

◆他と共有できるエンティティ
[場所](Place)
・地理的、管理上の位置や地域。
・他のエンティティの空間的なコンテクストの記述もできる。
[日時](Date)
・何らかの形式に基づく時系列情報
・他のエンティティの時間的なコンテクストの記述もできる。
[概念/物](Concept/Thing)
・他のエンティティの主題となる広いトピック
・伝説上のものやフィクションも含めた抽象的な概念や、具体的な物体、出来事などを含む。

(2) 属性
エンティティは二種類の属性で説明される。
(1) どのエンティティにもある属性
・識別子
・名前
・General Note
(2) エンティティごとに異なる属性

※ほとんどの属性はISAD(G)と共通する。
・「範囲と内容」(scope and content)、「言語情報」(language information)、「状態とアクセス」(conditions and access)など。
・ただし、レコードと主体の間の関係としてモデル化されているものは「作成者」(creator)ではない。

(3) 関係
エンティティ間の関係は→で表される。
・関係は、行為が完了した過去時制で表現。
・全てのエンティティは、より特別な関係だけでなく、一般的な 'is associated with' あるいは、'was associated with'の関係を持つ。
・[日時]と[場所]属性の追加により、ある関係性のコンテクストをより詳しく表現することができる。

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RiC-CMのドラフト版は公開されているので、詳しくはリンクへ。
A CONCEPTUAL MODEL FOR ARCHIVAL DESCRIPTION
Consultation Draft v0.1 (September 2016)
http://www.ica.org/sites/default/files/RiC-CM-0.1.pdf

また、国立公文書館が刊行する『北の丸』48号に国際標準について論文が掲載されている。RiCの内容は26頁以降に。
http://www.archives.go.jp/publication/kita/pdf/kita48_p035.pdf


◆◆◆◆◆◆◆◆

ちなみに、同じセッションで、Florence CLAVAUD氏(フランス国立公文書館)による"Records in Contexts-Ontology(RiC-O)"のより詳しい発表もあったが、オントロジーに関しては筆者があまりに知識不足のため、ここで紹介するのはあきらめる。

RiCは現在まだ遂行中の段階。
上記に記したように今年中には利用できるようになるらしい。

日本語訳をしたいなと思っていたりいなかったり。

AY




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