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エッセイ_3「今更ながら6年前の断食失敗を懺悔する」

6年前くらいに友人数人で断食をしたことがある。始めたきっかけは覚えてないが、よく断食をしていた人が「身体にいいよ」なんて言っていた気がするから、それにつられてなんとなく断食に興味のあった友人たち数人と始めた。たしかそんな感じだったと思う。

断食期間は1週間だったか、もっと短かったか記憶が曖昧だ。「不規則で不健康な生活を断食でリセットしよう、食費も浮いて一石二鳥」みたいなノリで参加した。

断食開始前に許されたのは質素な食事のみ。普段から暴飲暴食アルコールまみれの身からすると「これから死ぬんですか?」みたいなメニューだった。「好きな物を食べて、好きな物を飲める世界で断食する理由は?」とさえ思った。断食に対して否定的とまではいかないが、懐疑的だったことを覚えている。

断食中に許されたのは水と塩のみ。食を断つのだから当たり前なのだが、ダメと言われると余計に食べたくなるもので、襲い来る食欲に抗うのが大変だった。
同じように頑張る友人たちを差し置いて早々に脱落するわけにもいかず、食べられないという慣れない状況を励まし合いながら乗り切っていた。

断食中は頭痛や目眩、倦怠感に襲われた。断食するとよくある症状らしい。こんな思いをしてまでとは思ったが、苦しいのは友人たちも同じこと。右も左もわからぬ初心者は「慣れるよ」という経験者の言葉を信じ、耐え凌ぐしかあるまい。

3日か4日間は耐えられた気がするが、いかんせん襲い来る症状のせいで何も手につかない。終了まであと数日、終わりが見えてきたが限界を迎えた。

ゴールに向かってひたむきに頑張る友人たちを横目に、部屋に隠れて食べ物をひたすら口に運んだ。ちょうど実家から仕送りが届いたタイミングだったので、いつも以上に食べ物に囲まれていたせいもあるだろう。カロリーや急な暴食による人体への影響など考えず、食欲が満たされるまで食べ続けた。

食欲が満たされた僕はその後、何食わぬ顔をして断食を終えたふりをした。「いや、しんどかった」なんて白々しく口にした。最後まで断食を乗り切った友人たちと同じ土俵で戦ったかのように。

断食後の回復食もありがたがる友人たちと同じように口にした。「薄くておいしくない」と思いながら。我ながら汚い人間だ。

シェアハウス暮らしだったため、今にして思えば誰かに気付かれていたかもしれない。気付いていて黙っていたか、本当に気付かれていなかったか確かめる術はないのだが。

まあ誘惑に負けて断食を失敗したくせに成功したふりをしましたよというのを長々と言い訳がましく書いただけである。
断食を教えてくれた友人にも、一緒に断食を頑張ろうとした友人にも申し訳がない。なんと意志の弱い人間であろうか。


友人が断食をするというのをTwitterで見かけたため、今更ながら断食失敗を懺悔した次第である。

期間が短めで専用施設に宿泊しての断食なので、まあ失敗はないだろう。彼女は置かれた状況を楽しむ才があると思うし、意志の強い人間だ。

どんな感想になるか楽しみであるとささやかにプレッシャーをかけて懺悔を終えよう。

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